第五話
そしてあっという間に休暇は終わり――。
「クッ、クローズ様」
「おはよう」
「おはようございます。早いですね」
久しぶりの学校で「思いのほか早く来てしまった」とアリアは思っていたのだが、思わぬ先客がいて驚いた。
「今日から上位クラスで授業を受けられると思うとね。少し気持ちが急いてしまったみたい」
そう言いながら照れるクローズは……普段のクールな印象とは打って変わってとても可愛らしい。
「本当にあなたには感謝しているわ。私一人の力じゃとても……」
「いえ、私はちょっとお手伝いをしただけです」
キッパリそう言うと、クローズは「控えめなのね」と笑う。
「……」
「……」
――さて、ここからどうしよう。
正直、クローズには聞きたい事がたくさんある。
それこそ「主人公からの接触はなかったか」とか「今、リチャード王子との婚約の話はどうなっているか」とかその他にもたくさん……。
何せ休暇中にクローズとは一度も会っていない。それだけに気になる。
ただ、本当はちょっとだけ「王宮に来ているのだから、バッタリ会うなんて事も……」なんて淡い期待があったが、そんな事はなかった。
それに、キュリオス王子から話を聞いた限り、クローズも相当忙しかったのはすぐに分かった。
でも、手紙のやり取りはしていたのでほんの少しだけ事情は知っているのだが、話が話なだけにこちらも踏み込んで聞くには躊躇ってしまう内容だ。
「――休暇中……」
そんな重い沈黙を破る様にクローズはポツリと呟いた。
「は、はい」
「手紙をくれてありがとう」
クローズは穏やかな笑みをアリアに向ける。
「い、いえ。そんな……」
「とても嬉しかったわ。何せ、今まで私にそんな事をしてくれるお友達は……いなかったから」
本当に嬉しかったのだろう。どことなくクローズはいつも以上にテンションが上がっている様に見える。
「でも、ごめんなさい。どう返事を書けばいいのか分からなくて……返事が遅くなってしまったわ」
「いえ、そんな……お気になさらず」
アリアがそう言うと……。
「キュリオス殿下にも『あまり遅いのは良くない』って言われてしまったわ」
そうクローズは何気なくサラリと言う。
「あ……そ、そうなんですね。キュリオス殿下が」
突然出てきた「キュリオス王子」にアリアは思わず「ドキッ」としたものの、クローズの言葉を聞いて、今度は「チクッ」とした謎の痛みを感じた。
「大丈夫?」
「え、はい。だ、大丈夫……です」
そう答えると、クローズはなぜかジッとアリアを見つめる。
「? あの、何か……」
アリアがそう尋ねると、クローズは「ねぇ」と言いながらそのままズイッと顔を寄せ……。
「アリアは……殿下の事、どう思っているの?」
小さく……とても小さく二人しかいない教室でもアリアにしか聞こえないくらい小さい声でそう尋ねた。
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