第二話


 この「婚約者たちも来る」という発言にはさすがに驚いた。


 でも、そもそもこの『学校行事』は「条件を満たさなければ退学」という厳しいモノだ。正直なところ「欠席」となったら……と考えるとかなり怖い。


 普通であれば何かしらの救済措置がありそうだが……ただでさえ厳しい条件の下で行われる。ひょっとするとそんな措置すらない可能性も否定出来ないと言えば……出来ないのだが。


 だから、彼女たちも「何らかの形」で参加しないといけないのかも知れない。


「どうかしたのかい? アリア」

「え」

「ずいぶんと顔が真っ青だけど」

「そ、そんな事は……」


 ――ないとは言い切れない。


 この長期休暇に入って以降、アリアの頭の中は大忙しだ。


 主人公の動向は気になるし、そんな中でクローズや彼らの婚約者。そして国王陛下と王妃様も来られるときた。


 しかも、この学校行事で自分が制限時間内にゴール出来なければ……そこで退学になってしまう。


 正直、いつも以上に考える事が多くて…アリアは既に限界だったのかも知れない。


「え」


 そんな時。ふとアリアの頭に何か温かいものが触れた様に感じ、それが王子の手だという事に気が付くのにはそう時間はかからなかった。


「で……」


 驚きから思わず声を出そうとすると、王子が「ジッとして」とアリアに言う。


「……」


 あまりにも穏やかな口調で話すから……アリアはそのまま言われた通り固まっていると、王子が不意に「フフ」と笑う。


「な、なんですか」

「いや、かわいいなと思ってね」

「なっ!」


 穏やかな口調と笑顔にアリアは圧倒されっぱなしで……それは自分でも顔が熱をもって熱くなっているのが分かるほどである。


「それにしても……アリアのお兄様の言う通りだね」

「え」


 どうしてここでお兄様の名前が出てくるのだろうか。そう思いつつ王子の次の言葉を待つと……。


「アリアは……何か隠し事をしていると言っていてね。でも、それを誰かに言う事はないだろう。ただ、たまにそれに押しつぶされない様に何とか抗っている様にも見える……ってね」

「……」


 まさか、気づかれていたとは。


「アリアのお兄様は直接何かを言うつもりはないらしいし、僕もそれに対して何か言うつもりもない。ただ……」

「ただ?」

「もう少し、周りを頼って欲しいなとは……思う。全部は無理でも、言いにくくても。少しくらいは何か助けられるかも知れないから」

「……」


 王子はそう言って穏やかに笑い、アリアの頭から手を放そうとした。しかし、アリアはそれを無性に「寂しい」と思ってしまい……。


「で、殿下」

「ん?」


「そ、それでは……その、もう少し……このままでも……宜しいでしょうか」


 王子の顔は……見られなかった。


 でも、張りつめていた緊張の糸が少しほぐれた様な……そんな気がして……つい本音がポロッと出てしまった。


「す、すみません! 今のは……」

「なんで? いいよ、僕は」


 慌てるアリアに対し、王子は「むしろ、そう言ってくれて嬉しいよ」と言ってまたアリアの頭を優しくなでたのだが、当のアリアはものすごくいたたまれない気持ちと申し訳なさから顔を上げる事が出来なかった。

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