第二十章 早まるその時にて

第一話


「……」


 キュリオス王子から「兄上がついにボロを出した」と王宮で聞いて以降。アリアは何度か手紙をもらい、そのたびに王宮へと出向いていた。


「でも結局――」


 ついに一度もリチャード王子が王宮に現れる事はなかったらしい。


 その間。どうやら主人公のソフィリアと次期生徒会のメンバー。つまり攻略キャラクターたちはバカンスを楽しんでいたらしく、それらの報告も国王陛下から婚約者たちだけでなく、婚約者たちの親。つまり、当主たちにもされているそうだ。


 こうなっては婚約破棄も時間の問題だとは思うが、後の判断は婚約者本人……いや、本人たちの意見も含めた家同士の話し合いにあるのだろうか……。


「当の本人たちは……浮かれきっているみたいでね。なかなか捕まらないらしいけど、もうほとんど『婚約破棄』で話はまとまっているみたいだよ。何せ証拠が十分そろっているから」

「そう……ですか」


 それを主人公は気が付いているのだろうか。


 ここまで随分と上手く立ち回っていた様にも見えたのだが……どうにもここ最近の主人公の様子はおかしく見える。


 それこそ、何か焦っている様にも……。


「何か気になる事でもあるのかな?」

「い、いえ……何も」


 今、アリアは「休暇中の課題をキュリオス王子と共にする」という名目でここに来ている。しかし、実際はこの話を聞くために来ている様なモノだ。


 ――しかし、思い返してみると……アリアと会った時から主人公の様子はどこかおかしかった。


 でも、それも仕方のない話なのかも知れない。何せこの世界は世界観こそアリアが前世でプレイしていた様なゲームなのにも関わらず、それ以外はゲームとはところどころ違っていたのだから。


 もしかしたら、主人公は今のその違いを「ちょっとしたバグ」くらいにしか思っていないのかも知れない。


 それならば……アリアに「自分の役割を全うしろ」と言ってきた理由も少しは理解出来る。


 ――結局、言う通りにはしていないのだが。


「あ、そうだ」


 そんな事を考えていると、キュリオス王子が何かを思い出した様に呟く。


「何か?」

「休暇明けにさ。学校行事で『星空会』があるけど、それにお父様たちも来るそうだよ」

「え、そう……なのですか?」


 驚きつつもそう尋ねると、王子は「うん」と頷く。


「なんでも今年『星空会』がある日はキレイな流星群が見えるらしくてね。ぜひ見たいってお母様が」

「な、なるほど」


 しかしコレには正直驚きだ。


 確か、ゲーム上では国王陛下と王妃様の二人は終盤の卒業パーティーくらいにしか学校行事には参加していなかったはずだ。


「後。婚約者たちも……ね」

「え」


 キュリオス王子がさらに続けて言った言葉を聞いて……アリアはさらに驚いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る