第五話


「ア、アリア」


 部屋に入ると、今回は先にキュリオス王子がいた。


「殿下、ごきげんよう。お招き頂き、ありがとうございます」


 そう言うと、王子は「そんなにかしこまらなくていいよ」と笑う。


「それより、こんなに早く呼び出してごめん」

「いえ、謝らないで下さい。急を要する事があったのでしょう」


 アリアがそう言うと、王子は「そう言ってくれると助かるよ」と答える。


「それで……どういったご用件でしょうか」


 まさか「休暇中の課題について」ではないだろう。


 魔法学校にも一応、前世の学校であった「夏休み」や「冬休み」などと同様に長期休暇中に課題があるが……。


 もしそうだとしても、それこそ手紙で済ませれば良いだけの話だ。


「ああ、うん。そうだね……」

「?」


 ここでキュリオス王子はなぜかうつむき、使用人たちを外に出る様に合図を出した。


「どうかされましたか?」


 使用人たちが外へと出て行ったのを確認し、アリアはそう王子に尋ねる。


「え、ああ、うん……その、実は……さ。ついに兄上が決定的なボロを出した」

「! それは……本当ですか」

「うん。そもそも、第一王子で次期国王に一番近いはずの兄上が休暇中。一度も帰って来ていなくてね」

「……」


 コレにはアリアも正直開いた口が塞がらない。


 さすがにこれでは疑われても仕方がないだろうし、そもそも国王陛下はリチャード王子に監視役を放っている。


「本来であれば国王になる為に必要な指導をする期間にもなるのだけど、その指導も行えず、またお父様の仕事を見学しようともしない。さすがにこの態度にはお父様も怒ってしまってね。向上心のないヤツに国王は継がせないとまで言っているよ」

「そ……そこまで」


 コレは相当怒っているという事はアリアでも分かる。


「そんな中で監視役からの報告を聞いたらさらに怒ってしまって……」

「な、何かあったのですか?」


 そう尋ねると、王子は「はぁ」と重いため息をつき……。


「件の女子生徒と二人でバカンスに行っていた……と。証言も証拠もバッチリと」


「……クローズ様には」

「既に伝えてあるみたい。だけど、クローズ嬢にはクローズ嬢なりの考えがあるらしい」

「それは……つまり」

「婚約破棄などはまだしないで欲しいって逆にクローズ嬢から申し出があったらしくてね。お父様と公爵と何やら話をしていたみたいだけど……」


 詳しい話までは知らないらしい。


「そう……ですか」

「でも、クローズ嬢曰く『好き勝手に出来るのも今の内』らしいよ」


 キュリオス王子にそう言われ、アリアは「今のセリフ……なんか悪役令嬢みたい」と思ったモノの、不思議と不安な気持ちにはならなかった。


 それはきっと「彼女なら、大丈夫」と思えたからだろう。

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