第八章 魔法学校にて

第一話


 そんなこんなでアリアはキュリオス王子の『友人』という形で落ち着いた。


「アリアって本当に魔法が好きなんだなってあの時思ったよ」

「……」


 そこからあっという間に時が過ぎた。


 王子の『友人』として何度か王宮を訪れる事はあったが、不思議な事に一度も会わず、またリチャード王子の婚約者であるはずの『悪役令嬢』であるクローズ様とも会っていない。


 思い返してみると、他の攻略対象のキャラクターたちとも会っていないはずだ。


「どうかしたのかい?」

「……いえ」


 そう言えば、たまにマナーの練習もかねて王妃様とお茶会をする機会があったのだが、その際に「あの子はなかなかの曲者なのよ」と苦笑いを見せていた。


 それを踏まえて考えると「ひょっとしたらワザと会わせない様にしている?」とすら感じられてしまう。


「でも、本当に良かったよ。二人そろって入学が出来て、お兄さんは元気かい?」

「はい」

「今は魔法省の……魔法動物研究所にいるんだっけ?」

「ええ」


 アリアのお兄様は今年無事に魔法学校を卒業し、本人の希望である研究職に就いた。


「両親は魔法騎士になって欲しかった様ですが」

「そんな親の希望はここでは通らないだろうね。魔法学校では親よりも本人の希望に則って就職させるから。それに、卒業する時は世間的には成人とされる年齢だ。いつまでも親の言う通り……というワケにもいかないだろうね」

「……そうですね」


 それでも親の言いなりになってしまう人は少なからずいるだろう。


 アリアのお兄様の場合は幼少期の時点で既に両親は切り捨てて考えていたという事と成績優秀者という事。そして何より「魔法探知能力の高さ」が評価されての就職だ。


 いくらあの人たちがブツブツ文句を言ったところで無意味な戯言としかされなかったのだろう。


「お兄様はご自分の魔法探知能力が魔法動物と同等だという事を知ったそうです。元々魔法動物は好きですし、将来的には人々の生活に役に立てるモノを作りたいとも言っていました」

「なるほどね。要するに魔物除けみたいなモノを作りたいって事か」

「はい。より高性能なモノを……と」


「もし実現出来たらそれ相応の褒美が必要になるね。まぁ、そうなったら……当主交代なんて話も出てくるかもね」

「実質既にお兄様が領を取り仕切っている状態ですのでそうなるのもそう遠くないかと」

「へぇ、そうなんだ。それは……将来が楽しみだね」


 王子は何がない様子でそう言っているけれど、アリアは何となくその声の調子から少し不穏な空気を感じ取りつつも、あえてそれについては何も言わず、始業のチャイムが鳴り響いた。

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