第二話


「……さてと。随分と騒がしくなっちゃったけど、早速始めようか」


 王子がそう言ってみんなに笑顔を向けると、全員どこかホッとした表情を見せた。


 多分、この中に影でアリアを笑ってさっきの使用人の様に処罰されると思ってドキッとしていた人たちがいたに違いない。


「あの……」

「もう大丈夫だよ……と、君はウォーレン家の子だよね」


 キュリオス王子はアリアが付けていたネックレスを一瞥してコソッとアリアに声をかけた。


「はっ、はい。アリア・ウォーレンと申します」

「初めまして。ところでご両親は……」

「両親は……その、兄の看病で」


 そう口ごもりながら答えると、王子は「ああ。そっか」と頷く。


「え」

「話は聞いているからね」

「そうなんですね」

「うん。でも確かにこの寒い時期に池に落ちたら……風邪をひくのも仕方ない……よね。ごめんね、こんな事聞いて。軽率だった」

「いっ、いえ」


 アリアがそう答えたところで、何やら鋭い視線を感じた。


「?」

「どうかしたのかい?」


「……」


 チラッとそちらの方に視線を向けると……何人かの令嬢と親御さんがものすごい顔でこちらの方をジーッと見ている。


 それこそ「サッサと私たちに代わりなさいよ!」と言わんばかりだ。


「あー……」


 多分、王子に挨拶をするついでに自分たちの娘を紹介……つまり「これから仲良くしてやってください」と表で言いつつ「私たちの娘を是非婚約者に」という裏の計算も含まれているのだろう。


「──殿下。皆様お待ちになられている様ですので」

「……そうだね」


 この視線にはさすがに王子も気がついた様だ。


 ただ、あまりにも魂胆が見え透いているその視線には……王子も苦笑いが隠せない様だ。


 でもまぁ、こんな雰囲気だからこそゲームの中で王子はお茶会を途中で抜け出してしまうのだろうけれど。


「……ん?」


 しかし、ここでアリアはふと疑問を持った。


 確か幼少期のキュリオス王子はゲームの中でお茶会を途中で抜け出してしまった。


 だが、ゲームの本編とも言える魔法学校に入学した頃のキュリオス王子はゲーム内ではとても真面目な性格になっていた。


 むしろ「授業の途中で抜け出す」とかそういった事をしそうなのは彼の一つ上の第一王子である『リチャード王子』だ。


 リチャード王子はかなりの俺様で「自分が世界の中心」とすら思っているところがあり、真面目なキュリオス王子とは真逆と言って良い程違っていた。


 それを踏まえて考えると、途中でお茶会を抜け出してしまうのは……どうにもキュリオス王子らしくない。


 むしろリチャード王子の方がしっくりくる。


「……」


 ひょっとしたら「リチャード王子とキュリオス王子で記憶が混同しているのかも知れない」と考えてハッとした。


 確か「異母兄弟だったリチャード王子の自由奔放さに憧れていた時期があった」とゲームの設定資料集で読んだ事があったからだ。


 そして、ある日を境にその真似を止めているのだが……。


「きっかけ。なんだったっけ……」


 しかし、残念ながら肝心の内容が思い出せなかった――。

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