第二章 お茶会にて

第一話


 声の主が『幼い少年』だという事は聞けば誰でも分かる事だろう。


 それくらいこの年頃の子供の声は分かりやすい。ただ問題なのは『誰が』この声の主なのか……という点だ。


「……」


 しかし、お茶会に参加している貴族の少年たちの中に王宮の使用人たちに「何をしているの?」なんて言える程の身分の者はいない。


 いくら「使用人」とは言え、頭に「王宮に仕えている」と付けば、下手をすると王族の怒りを買ってしまうかも知れないからだ。


 そして、そんなリスクのある事をする者は……この中にはいない。


 もし言えるとすれば、それは貴族の中でも最高位に当たる『公爵』であれば……まぁ話は別だろうが、残念ながらこの場にはいない。


 そもそも公爵家はこの国に三つしかないのだからそれは仕方のない話で、ちなみにその中の一つである『クローズ家』が悪役令嬢の家でもあるのだが。


「……」


 話が少しそれたが、要するに今この場に公爵家の「少年」はいないというワケで、そうなると自ずと答えは絞られてくるワケで……。


「キュッ、キュリオス様」


 そう、公爵家でもない。しかし『少年』となれば、それは王族の誰か……という事になる――。


◆  ◆   ◆   ◆   ◆


「入り口の前で何を騒いでいるんだい?」

「もっ、申し訳ございません!」


「……」


 同い年のはずなのにキュリオス王子は既に王族としての立ち振る舞いが出来ている様に見える。


 そして、この真面目さはゲームの中で知っていた……が、まさかこの時からだったとは思いもしなかった。


 それにしても、実際に見ると身に纏っている「オーラ」が全然違う。


 ただ、アリアは自分のせいでキュリオス王子に出て来てもらった事が非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「招待状の確認は王宮に入る前に既に終わっているはずだよ? それなのになぜ再度確認をする必要があるのかな?」

「そ、それは……」


 そう言いながら使用人の男性はアリアの方をチラッと見る。


「……」


 どうやら、この使用人には「アリアのドレス姿がどうにも王宮主催のお茶会に参加するには相応しくない」と言いたい様だ。


 しかも、目の前にいるメイドの彼女も一緒にチラチラと見ているところを見る限り「両親が不参加」という事も彼の不信感に繋がっているらしい。


「……服装? 親が参加していない事? それだけじゃないよね?」

「……」

「まぁ、どちらにしても招待状の確認を終えてここにいるという時点で彼女は我々が招いた客人である事には変わりないし、それを個人のものさしで勝手に判断すべきではない。ましてやこんな……相当な無礼を働いた事は見れば分かるよ」

「そっ、それは……」

「王族の……僕が招いた客人に無礼を働いたんだ。それ相応の罰を受けてもらうから、そのつもりでね」

「そっ、そんな!」


 サラリと言った王子の言葉にアリアは思わずギョッとした。


 確かにこの使用人は「失礼だな」という言動をしていたとは思う。でも、まさか「処分」されるとまでは思ってもいなかったのだ。


「なっ、何もそこまでしなくても……」


 アリアがハッと口を押さえた頃にはもう遅く、その言葉は既に声となって出てしまっていたのだけれど……。


「ほら! サッサと歩け!」


 王宮の騎士たちに使用人が連れて行かれる時。


「離せ! 離せー!!」


 その使用人がかなり暴れた為、その叫び声でアリアの声はかき消されたらしく、アリアは人知れずホッと胸をなで下ろしたのだった。

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