第11話

 俺たちは美術館を出て、上野公園をブラブラ歩いた。


 「音葉さん、ありがとうございました」


 「え?なにがですか?」


 「俺、音葉さんに誘われなかったら、二度と絵を見ずに終わっていたと思います。」


 「無理やり連れ出しちゃってごめんなさい」


 「いえ、大丈夫です。俺、もう少し絵と向き合ってみたいって思えましたし。」


 「え!また絵を描くんですか?」


 「今は描けるか分かりませんが、いずれは。」


 「へぇ〜なんか嬉しいなぁ」


 なぜ音葉さんが喜んでいるのかは分からなかった。でもなぜか俺も嬉しくなった。


 「この後どうしましょっか?」


 「帰るにはまだ早いですね」


 「お茶でもしますっ?」


 そう言って俺たちは※東京文化会館の中にあるカフェでお茶をした。


 しばらくお喋りをして、そろそろ帰ろうか、と東京文化会館のロビーへ出た。


 「俺トイレ行ってきて良いですか?」


 「どうぞどうぞ!私この辺で待ってますね」



 俺がトイレから戻ると、音葉さんはるポスターをまじまじと見つめていた。俺も遠目で見てみると、「オーボエ協奏曲 W.A.モーツァルト」の文字が見えた。


 そのポスターを見つめる音葉さんの指が無意識に動いている。俺はまるでそこにオーボエがあるようにすら見えた。


 しばらくすると、音葉さんがこちらを向き、


 「あ、ごめんなさい!戻ったなら言ってくださいよ〜」


 「やっぱりまだ、、、」


 「ううん、いいんです。帰りましょっか?」


 「そうですね、帰りましょうか。」


 俺は音葉さんを東京メトロの改札まで送った。手を振る彼女の笑顔は少し泣きそうにも見えた。



※東京文化会館・・・東京都 台東区にある3000人規模のコンサートホール

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