第2話

 体調でも悪いのだろうか。リードに繋がれた犬も心配そうに見つめている。声を掛けるべきか俺には分からなかった。いや、それは嘘だ。声を掛けるべきなのは分かりきっていた。だが、勇気が出なかったのだ。長年他人とコミュニケーションを取っていない俺には出来ないと感じた。しかし、周りには俺しか居ない。ここで俺が見捨ててしまったらこの女性はどうなってしまうのか。俺は恐くなり勇気を振り絞り女性に話しかけた。


 「大丈夫ですか。」


 女性は何も言わない。というより何も言える状況では無さそうであった。


 「救急車呼びますね。」


 こくん、と女性は頷いた。


 到着するや否や女性を担架に乗せた救急隊員は


 「ありがとうございました」


 と俺に告げて去っていった。


 その夜、俺は散歩のついでに買ったチューハイをぐびっと飲んだ。少し酔いが回り、昼間のことを思い出した。人から感謝の言葉を投げられることなんて人生で数える程しかなかった。俺は、自分が大層な人助けをした気分になった。


 「良い事をするのって気分が良いなぁ」


 そして俺は、そんな俺には似合わない甘ったるい雰囲気とアルコールに呑まれていった。

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