事の顛末

アクセル・フォンとの対決が終わってから数日後……

僕は事の顛末を会長から生徒会室で聞くことになった。


ーーアクセル・フォンはとある貴族の死んだはずの子息で、彼が雇った刺客達は隣国の工作員とのこと。アクセルの生まれた地域が隣国の国境付近だったこともあり、隣国の工作員と接触して今回の事件を計画したらしい。


ーー工作員たちの目的はこの国の魔法の技術の盗用。

この学園にはそれなりに魔法の技術が揃うのと、重役の子息が沢山在籍しているからアクセルをこの学園に忍び込ませれば少しは情報が得られると思ったとのこと。


ーー何故アクセルが僕を狙っていたのは不明だが、僕に対して異常な執着があったとのこと


ーーそして僕の魔法を無効化する能力だが、この世界で魔法を無効化するというのはあまりに強力すぎるということで口外禁止となった。なので今回アクセル達に僕は純粋な身体能力だけで戦ったということになっている。まぁ当時はその能力を使えていなかったので事実だが。


「--いった感じですね」


と会長が学園からの報告書を読み終えた。


「なんか意外とあっさりとしているなぁ……まっ終わったからいいか」


僕は会長の話を聞いて、そう思った。

まぁアクセルが僕に異常な執着があった理由は知っているが事件は終わったし、それにその理由を話しても誰も理解できないから言わないでおく。


「てかレイが生徒会室に来るのって久しぶりじゃん~」


「そうだね、約1ヶ月だね」


アクセルに自分の居場所を取られると思った僕は怖くてここ1ヶ月は生徒会室に行けなかった。

でももう僕を脅かす存在はいなくなったのまた堂々と来れるようになったのである。


「まぁアクセルがいなくなったから普通に来れるようになった……

ーーはぁ……アリーヌ先輩のお茶が美味しいなぁ……」


正直、アリーヌ先輩が入れてくれる美味しいお茶が飲めなかったのは結構辛かった。

なので今日は久しぶりに飲めて幸せだ。


「フフッ、お代わりはまだありますからゆっくり飲んでくださいな。お菓子もいりますか?」


「ありがとうございます……ふぇ……」


「お兄様がいつも以上に穏やかな顔をされてます……」


「あぁ~穏やかな表情の後輩クン可愛い~」


「えぇそれは私も同意しますアリーヌさん」


「しょうがないだろう、レイは今まで緊張の糸を張ったままだったんだからな。

休ませてあげないか」


「まっ、ある意味レイのおかげで今も私達はここにいるんだからね~許してやろうか

ーーってことで私にもお茶とお菓子をください先輩!!」


「ち、ちょっとアルマンダ様!? 先輩になんてことをーー」


「えぇ、分かりました。みなさんの分も入れますので少し待ってくださいね」


「わ、私も何かお手伝いします……」


「ラウラさん、お茶入れは私が好きでやっていることですから気にしなくていいですよ」


立とうとするラウラを制して、自分がお茶を入れに立つアリーヌ先輩。


「そうだぞ下級生~アリーヌ先輩のお茶は美味しいんだからいいじゃないか~」


「アルマンダ様はもう少し先輩に敬意を払ってください!!」


といつものように賑やかな会話が始まっていた。


「そんなに怒るなってラウラ~怒るとしわが増えるぞ~」

ーーチャスがからかい


「誰のせいで怒っていると思っているんですか!!」

ーーラウラが怒り


「ふ、2人ともやめないか……!!」

ーーミラはどう止めようかとオロオロ


「さてさて人数分のお茶をいれましょうか」

ーーアリーヌ先輩はそんなこと気にしないでお茶を入れていて


「フフッ、皆さん元気ですね」

ーーそんなみんなを優しく微笑みながら見守る会長



そこには僕の守りたかった生徒会での日常があった。

僕が生まれてから初めて心から大切にしたいと思った場所がここにはある。


「うん、今日も賑やかだなぁ……ここは」


この風景を見ているとあの時、アクセル達に啖呵を切った意味があるのではと思う。


「どうした坊ちゃん、なんか孫を暖かく見守るじいちゃんみたいな顔をしているぞ?」


みんなを見ていると隣で立っていたアルがニヤニヤしながら見てきた。


「どんな顔だよ……それって。

まぁ久しぶりに見れたから嬉しくてね」


この愛おしい光景を見れて嬉しい感情が表情に出てしまったのだろうか。

……でも、僕そこまで老けているのかな?




そしてアリーヌ先輩が入れてくれたお茶と購買で買ってきたお菓子を食べながら話をしていると会長が突如、僕に話を振ってきた。


「ところでレイ君、貴方は私達に申し訳なく思っているのですよね?

だって貴方が倒れた後にみんながどれだけ心配したか……」


「ごめん……」


確かに丸1日僕は寝ていたのだ。

そして起きた後、部屋に入ってきたみんなの態度を見ていればかなり心配させてしまったのだろう。


「そうだ、そうだ~というかレイが生徒会室に来なくなってからみんな心配していたんだよ?

少しは反省したまえ副会長!!」


「う、うん……だってみんなに心配沢山かけちゃったし申し訳ないと思う。

ーーあっ、なんか僕に出来ることなら何でもやるよ。僕の場合、行動でしか誠意を見せる事が出来ないからさ」


「そうですか。

ーーラウラさん、今のレイ君の言動、記録しましたよね?」


と言うと会長はニヤッとした表情を浮かべてラウラを見た。

そのラウラも表面上はいつもと変わらない表情だが、口元が少し笑っている。


「はい、フローレンスさん。確かにお兄様が“僕に出来ることなら何でもやるよ”と言いました。

ーーほら、このように議事録にしっかりと記録しました」


そう言うと議事録用のノートを全員に見せてきた。

そこには確かに僕が先ほど発言した“僕に出来ることなら何でもやるよ”と書いてあった。

……大文字で。


「あ、あれラウラさん……?」


何かとてつもなく嫌な予感がする。

あの旧校舎にて直感で魔法を避けた時の勘が僕に囁いている。

“とんでもなくピンチ”だと。


「さぁ皆さん、レイ君の言質は取りました。

ーー明日から各人1日レイ君を好きな風に振り回して構いませんよ!!」


「「わ~い!!」」


「ちょっと待てぃぃぃぃぃーー!!」


何故かとっても嬉しそうな女性陣とは真逆に僕は思いっきりこの状況にツッコミを入れた。


「あらどうしたのかしらレイ君?」


「いやいや“どうしたの?”じゃないからね会長!?

ーー“1日レイ君を好きな風に振り回して構いませんよ”って何なのさ!?」


「だってさっきレイ君、“何でもやるよ”って言いましたよね? 

ほら書記のラウラさんも記録とってくれましたし」


「はい、記録しました」


「私もメモったぜい!!」


「えぇ私も自分の手帳に記録しました」


「……申し訳ないレイ、私も記録してしまった」


とまさかのヒロイン全員が僕の言動を記録していた。

結構生徒会室でお互い喧嘩をするくせに何でこういうところは息ぴったりなのだろうか?


「チャスやアリーヌ先輩はいつもだけど、まさかラウラやミラも記録していたなんて……しれっとミラが手帳を出すスピードが異常に速かったのが落ち込むよ」


実はラウラが生徒会の議事録に記録する前にミラが異常な速さで鞄から手を取り出して、その上でペンを取り出すと目にも止まらないスピードで何かを書いていたのを見逃さなかった。


「あ、あれはだな!? つ、つい無意識で……」


無意識であそこまでやれるものなのかと思っているとチャスはニヤニヤしながらミラに話しかけた。


「ほほう~無意識で“何でもやるよ”をメモしたと……ミラって結構ムッツリなんだねぇ~

ーーあっ、ムッツリなのは前からか」


「アルマンダ殿!? 私は決してそんな……そんな……訳がない……はずがない……と思う……」


語尾になっていくにつれ徐々に声の大きさが小さくなっていくミラ。


「何で自信がないのさ……」


「レイ、私はムッツリなのだろうか……」


「そしてそれを僕に聞くのを止めて欲しいなぁ……」


「ちなみに私の意見だとミラはムッツリだと思うのだよ

ーー最終決定はレイの手にかかっている!!」


「いやそこで僕に最終判断投げないでよ……反応に困るから」


「ということでレイ君に拒否権はございません」


「横暴だ!? 明らかに横暴すぎる!!」


「はいはい~私はレイを私のお店で1日手伝わせたい!!」


「私は後輩クンと町にお気に入りのお茶葉を買いに行って……優雅にランチいいですね……」


「あっ、アリーヌさんズルいです!! 私だってレイ君とデートしたいのに!!」


「ふふ、大丈夫よフローレンスさん

ーーお互い1日好きな風に後輩クンを好き放題出来るのだから……!!」


「そうね……そうでしたね。私としたことが……レイ君とデート……ランチ……うふふ……」


「ダメだ……会長がポンコツ化してきている……今回は止めないけど」


「あ、あれ……今私のことポンコツって言いました?」


「姉さんの気のせいですよ、気のせい」


思わず口が滑ってしまったが誤魔化す。

会長はたまにとんでもなくポンコツになる。

しかもそれが何故か僕に関係することばかりなのはとても謎だ。


「お兄様は私と勉強しましょう? こう見えて高等部3年間の勉強は既に終えてますから」


「……妹に勉強を教わる兄って立場ないなぁ」


「じゃあ私はレイに特別鍛錬に付き合ってもらおう、近々父上が見習い騎士達が必ず通る特別修練に参加する許可をもらったのだ、レイも一緒にいかないな!!」


「い、いやそれは勘弁ーー」


「レイ君、貴方に拒否権はございません。

ーーミラさん、レイ君も一緒に参加で構いませんよ」


「恩に着る会長!! よしそうとなれば今日にでも父上に説明しなくては!!」


「じゃあ私もパパとママにレイをこき使えると言っておこう~一番忙しい休日に呼んでやろう」


「後輩クンとデートなれば服を新調しないと……あと下着もかしら?」


「ベスランド様? 一緒に買い物だけなら下着の新調は必要ないと思いますが……!?」


「レイ君とデート……デート……お忍びデート……!!」


と僕の意思など全く聞かず、会長達を始めとして話が盛り上がっている。


「あぁ……もうなんか僕の意思は無視でどんどん話が進んでいく……」


「大変そうだな坊ちゃん」


「他人事だと思って楽しまないでよ……アル」


「だって他人事だしな!!」


「だよなぁ……はぁ……」


なんてため息をつきながら彼女達と過ごす休日はどんな事が起きるのだろうかと少し楽しみな僕がいた。

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