あれと再会

「……ん?」


「--ようやく目を覚ましたかの?」


「ここは……?」


僕が目を覚ましたのは真っ白で何もない空間だった。

まるで僕が前世で一度死んだ時に来た場所の様である。


「ここはな、ワシの世界じゃ」


「てかこの声は……」


「ホォッホォッ~思い出したかの?」


その声の主の声音は少し嬉しそうだ。

ならば僕はその期待に応えよう。


「あぁ思い出したよ

ーー僕を手違いで殺して、その上悪役キャラに転生させたクソ神だろ?」


僕のこの世界に転生させるきっかけを作った原因、自らを“神”と名乗っている存在だ。

元々この世界に転生したのもこの神が手違いで僕を死なせたのが始まりで、そこから“別の人物に転生させる”という言葉を聞いた僕は、この世界に転生した。


「く、クソ神?」


神は僕の答えが予想外なのか驚いているが、僕はそのまま続ける。


「それ以外何があるんだよ。手違いで殺されたうえ、モブでいいって言ったのに、よりによって悪役キャラに転生させやがって文句以外ないよ」


「い、いやお主の言う事も分かるぞ、分かるがな……もう少し敬意を払ってもーー」


「ーー敬意を払われたいなら自らの行動を見直せ、と僕の母さんが言っていた。何よりも自分を殺した奴に敬意を払うと思うのか?」


「そうじゃの……」


と落ち込んだ声音になる神。

普通、神という存在は超人的な存在でこれぐらいで動揺しないと思うのだが、この神は変に人間っぽいというか全然神らしくない。


「で、今回、ここに僕が呼ばれた原因は? また死んだの?」


前回、この空間に呼ばれたのは事故にあった後だ。

そう考えるとまた僕は死んだのだろう。


「いや死んでおらんぞ?」


「あっ、そうなの? あんな大きい魔法をくらって死んでいないなんて……」


「そのな……ワシの手違いで悪役のキャラに転生させてしまったのでーー」


「--ほぅ……僕はまた手違いでこうなったのか……!!」


この神の失言のせいで、何故僕がレイ・ハーストンに転生したのか判明した。

……要するにこいつの手違いなのだ。しかも手違い2回目。


「あっ……」


神は姿こと見えないが声音的に“ヤベッ”と少し焦っている様である。


「おい、クソ。お前何してんの!?」


僕は怒りのあまり今までは“クソ神”と一応、“神”を付けていたが、その部分を消した。


「お、お主、もはや“神”が抜けているぞ? もう少しワシに敬意をーー」


「2回も手違いだぞ、僕は!? いくら僕でも怒るぞ!!」


「そ、そうじゃな、だがな落ち着け?」


クソが僕に落ち着けと言うが、それで止まる僕じゃない。


「これが怒らずにいられないでしょ!? しかも1回目と2回目のスパンが短いしさ!!」


「ま、まぁワシにも理由があっての……聞いてもらえないでしょうか?」


「理由がどうであろうとも怒らないつもりはないけど、話は聞いてやる」


まぁ理由によっては怒る量を少し減らしてもいいかと思い、聞くことにした。


「ふぅ……確かお主、前世の名前“本条 蓮”じゃろ?」


「そうだな、前世ではその名前で生まれたし、呼ばれたな」


僕の前世での名前は“本条 蓮”だ。

名前の由来は“長男に連なる様に”だったらしいが、実際は兄に能力は遠く及ばず名前負けしていたが。


「それでの今の名前“レイ・ハーストン”じゃろ? “レイ・ハーストン”と“本条 蓮”って似ていないかの?」


「……おい、まさか。

ーー似てるから間違えたとか言わないよな?」


「……」


「おい、何か答えろ」


「……許してちょ!!」


「よし、一発殴らせろ。実体化して殴れるようにしろ、もしくは蹴りを入れさせろ」


理由を聞いてこいつに一切の情が無くなった。

勝手に死なせた挙句、そのゲームでの嫌われキャラに転生させたという失敗はかなり重い。


「ま、待て落ち着くのじゃ!! 話せばわかる!!」


とある政治家が語っていたようなセリフを吐いている神。

……その後、死んだのをこいつは知らないのだろうか。

まぁそんな事どうでもいいのだが。


「話を聞いたら余計に印象が悪くなったよ!! これじゃあ聞くんじゃなかった……」


「まぁまぁ落ち込むではないぞ」


「誰のせいだよ、誰のせいで落ち込んでいるんだよ!!」


「はい、ワシです、ワシが間違えました」


「はぁ……ふざけんなっての……そしてまた死んだのか僕は……」


「いや、まだ死んでおらんぞ……?」


「え、そうなの?」


意識を失う前の痛さ的に死ぬのかなと思っていたのだがどうやら違うみたいだ。


「そうじゃ、まぁワシがミスったせいでお主がこうなったのでなワシなりにーー」


「“ミスった”だと……?」


いつもなら気にしないような言葉のチョイスの間違いを見つけてしまうぐらい僕は、こいつにイライラしている。


「……はい、ワシが間違えました。本当に申し訳ございません」


「で、僕は死んだのか?」


「何度も言うがお主は死んでないぞ、今までの詫びを込めて少し神権限を使ったのじゃ」


「神権限……?」


神から初めて聞く単語に首をかしげる。


「まぁ一応、これでも神なのでな少しぐらいは現実に干渉出来るのじゃ」


「その権限をもう少し他に使って欲しいな……というか僕を殺しておいて“少し”じゃないだろ」


例えば僕の死ぬ前とか転生する前とかに。


「本当に申し訳ない……

ーーで、今回は魔法が当たる前に少し干渉して、魔法の効果を打ち消したのじゃ」


「はぁ……だから直撃したときに不思議に熱いって感じなかったのか……」


直撃した際に直撃の痛さはあったものも不思議と“熱い”や“焼ける”とは感じなかった。まるで車が直撃した感じである。


「ただな、衝撃だけは消せなくてな、見事に飛んでいったな」


「あぁ2回目だな、何かに当たって僕が飛んでいくのは

ーーというか魔法の効果を打ち消したのなら衝撃も止めてくれよ……」


1回目はトラックに、2回目はアクセルの放った魔法に。


「すまんの……だが目を開けたら殆ど怪我がないぐらいには細工をしておいたぞ」


「“ぐらい”にってどういう意味だよ……」


「軽度の打撲と擦り傷ぐらいないと流石に怪しまれそうじゃろ?」


「……風呂に入った際に地味に痛い奴じゃん、まぁでも無いとみんな怪しむか」


大勢の前であんなに派手に飛んでいって無傷はおかしいだろう。そう考えると擦り傷や捻挫ぐらいあった方がいいのかもしれない。


「それでな、今回の魔法を打ち消す能力はそのままお主にやろう」


「はい……?」


「だからな、お主に魔法を打ち消す能力を授けると言っておる。

ワシの手違いでお主には散々酷い目に合わせてしまったのでな、せめての詫びじゃよ」


「……一定の敵には効果抜群だけど、一定の敵には無能力と同じ扱いになる“無効化”をまさか自分が貰うなんて思ってなかったよ」


よくラノベで“無効化”の能力を持っているのはいくつかいる。

確かに無効化の対象になる能力を持っている相手には効果てきめんだろうけど、その能力を持っていない相手には無能力と同じ扱いになってしまう、と考えるとある意味ピーキーな能力だ。


「とりあえず渡しておくぞ。

使うか使わないかはお主に任せる」


と神が言うと、僕の方に光の線が飛んできて、身体の中に入っていった。


「これ、本当に使えるの? なんか今までと何も変わらない気がするんだけど……」


特にこれといった身体の変化がなくて、また神の間違いなんかじゃないかと思ってしまう。


「使えるようになっているぞ、試しに目が覚めたら仲間の誰かに魔法を撃ってもらって試してみるとよい。一応大体の魔法は無効化できるぞ。ただ使い過ぎには気をつけるのじゃぞ、無効化にも結構体力使うからの」


どうやら使い過ぎると僕の方がパンクするみたいだ。

大体の魔法が無効化出来るとは言え、使いどころはしっかり考えないといけない様である。


「……本当にピーキーな能力だな。でも無いよりはマシか」


「まぁ魔法が使えないお主には結構必要な能力だと思うがな」


「あっ、そう言えば僕が魔法を使えないのも、まさかあんたのせいなのか?」


「いやそれはワシではないぞ?」


「……」


「本当じゃよ!? ワシが転生の手続きに入る時点でお主は魔法が使えないようになっていたのじゃ」


そうなると本当にこいつのせいじゃないかもしれない。

だがここで1つある考えが頭の中に思いついた。


「……それって僕の名前を“レイ・ハーストン”って入れてからじゃないか?」


「あっ……そうかもしれん」


「……原作でもレイ・ハーストンは殆ど魔法が使えなかったんだよ」


レイ・ハーストンは原作でも魔法が使えなかった。

名前を入れた時点でその設定をそのまま引き継いだ可能性がある。


「……さ、さぁ目を覚ますんじゃ、お主を待っている仲間達がいるぞ!!

ーーほれワシの好意で目を覚ませてやろう!!」


と言うと突如僕の周りから光が出てきた。


「テメェ誤魔化そうとするなよ!!」


「さぁ目を覚ますのじゃレイ・ハーストン!!」


「今度覚えておけーー」


言い切らない内に僕は再び意識が消えた。

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