どうしてみんなここに……
「どうしてみんなここに……」
僕にとって驚きの光景だった。
アルだけじゃなくて会長、ラウラ、ミラ、チャス、アリーヌ先輩の生徒会役員全員揃っている。
「いや~最初頭を冷やそうと散歩していたらな丁度、坊ちゃんとそいつがこっちに入っていくのが見えてな。なんか危ない気がしたから会長達を全員呼んできたわけだ」
「で、私達が行ったら旧校舎が結界で覆われていたので結界をどうやって吹き飛ばそうと考えてーー
ーーグラビティ・アウト」
「「ぐっ……!!」」
アリーヌ先輩が呪文を唱えると隙を見て襲おうとした刺客数人を地面にめり込ませた。
今、先輩が使用したのは対象の頭上の重力を以上に強くして、対象を地面にめり込ませる先輩の得意魔法の1つ“グラビティ・アウト”である。
「私が話しているのですよ? 少し静かにしてもらえませんか?
ーー次は肉片にでもしましょうか?」
今までで一番冷たい声で怒っているアリーヌ先輩。
先輩の場合、本当に肉片にしかねない事を知っているので僕は少し怖い。
「な、なんだよ、なんだよ!! こんなの聞いてねぇよ!!
ーーお、おいお前ら、何ボサっとしてるんーー」
「--すまないが、貴公の味方は既にいないぞ」
「--そうだねぇ~もう君ボッチだよ」
「はっ?
ーーはぁ!?」
アクセルが驚くのも仕方ない。
だって
「いや~流石ミラだね~身体強化の魔法を使って気配遮断に近い状態で後ろからサクッとするなんて」
といつもの口調でミラがやったことを言うと、ミラは特に顔色を変えずにサーベルをしまうと言葉を発した。
「何を言っている、ベスランド殿も同じようなものだろう。視認しにくい魔法を更に音がしないように撃っていただろう」
どうやらミラはチャスが何をしたか分かっている様だった。
要するに2人とも刺客に気づかれないように魔法や剣の一撃をくらわせたのだろう。
「あちゃ~バレたか。私の日頃のイタズラ用魔法の応用で結構自信作だったんだよねぇ~」
「……あれ、イタズラ用だったのね」
僕はその魔法をイタズラに使おうとするチャスに若干ひいている。
「ーーアクセル・フォン。これまでです」
僕は他のみんなの実力に呆気に取られていると会長の凛とした声が聞こえてきた。
「か、会長!? こ、これは違うんだ!!
ーーそ、そうだ!! こいつだレイ!! レイ・ハーストンが俺を嵌めようと……!!」
「はぁ!?」
アクセルの口から出てきた嘘に僕は驚きを隠せなかった。
(こいつみんながいない事を良い事に嘘つきやがって……!!)
「こ、こいつが俺を集団で襲おうとしてきたから俺も仕方なくボディガードを雇って……」
「嘘です、貴方が大分前から刺客を雇っていたのは調査済みです。しかも貴方が雇ったのは“自分を守るため”じゃなくて“レイ君を消すため”ですよね?」
「そ、そんな訳ないだろ!! 会長達はこいつがどんな人間なのか知っているのか!!」
「えぇ知ってますよ、貴方よりは」
「なんだと?」
「じゃあ逆にお聞きしますがアクセル・フォン、貴方はレイ君の何を知っているのですか?」
会長がそう言うと、アクセルは顔を赤くして大声で叫んだ。
「そんなのこいつが親が国の有力者というのをいいことに常に偉そうに振舞っている。性格も傲慢不遜で本人に大した能力は無い、転校してきた俺に嫌がらせをしてきた最低のクズだろ!!」
「そうですね、分かりました
ーー貴方がレイ君を全く知らない事をです」
「なんだと!! 何が違うっていうんだ!!」
「レイ君の性格は傲慢と程遠いです、ついでにとても弱気です」
「うぐっ……」
「そうですね、お兄様はもう少しご自身に自信を持たれてもいいと思います。
ーーでも、お兄様の良いところはそういうところなのでしょうね」
「そうだな、レイは他人から偏見を持たれようと自分から絶対偏見を持たない」
「それに、自分が危険なのに他人が困っていたら自分の身を顧みず助けようとしますし、しかも助けても当たり前の事のよ」
「他人の幸せを自分の幸せにのように感じるとんでもないお人好しなのがレイ・ハーストン」
「みんな……」
僕は会長達のアクセルに向けて言った言葉ががとても嬉しかった。
前世は言わずもがなこの世界でも今まで生きてきたそんなことを言われたことが無かったため余計に心に響く。
「皆さん、アクセル・フォンを始めとする数人を無力化し、魔法が使えない部屋に連行します
ーーいいですね?」
「「分かりました。」」
と会長の一言で僕以外の生徒会メンバーとアルが頷いた。
……まぁアリーヌ先輩、ミラ、チャスのおかげでほぼ無力化されているので無力化は簡単であった。
無力化されたアクセル達は会長が先に呼んでおいた教師や警備員に連行されていいった。
「終わったのか……」
さっきまで片膝を付けていたのもの終わったと思った瞬間、後ろに尻もちをついてしまった。
「レイ君!!」
「お兄様!!」
「レイ~大丈夫?」
「レイ、怪我ないか!!」
「後輩クン!!」
「坊ちゃん!!」
「あ、あぁ……ごめん力抜けっちゃったよ……」
「ったく……無茶するぜ……まぁそれが坊ちゃんのいいところなんだけどな」
とアルに肩を借りてなんとか立ち上がる。
「というかお兄様、腕の怪我ですよ!? 血だらけじゃないですか!!」
とラウラに言われて自分の腕の傷を見る。
さっきシャツで傷口を結んだのだが、そのシャツもかなり血が滲んでいる。
「そう言えば……魔法がかすったんだよな……でもミラに教わった回避術とかは助かったよ」
正直、ミラに教わった回避術が無かったら道中で命を落としていたのかもしれない。
「うむ、そうか、よかった……
ーーではないだろ!? その怪我で何を言っているんだ、 無茶にも程がある!!」
珍しくノリツッコミのミラ。
真面目な彼女がノリツッコミをするとは珍しい。
「このシャツみたら母さん怒るだろうなぁ……」
「お兄様が気にするところはそこですか……」
「だってラウラ、母さん怖いの知ってるじゃん
ーーなんか今から胃が痛くなってきた」
「自分の命を狙っていた連中よりも自分の母親の方が怖いってレイって不思議だねぇ~」
「えぇ本当です、私なんて心配すぎてアクセル・フォン達を消そうかと思いました。
ーー割と本気で、灰も残さないようにそのぐらい」
アリーヌ先輩だと本当にやりかねないのが怖い。
「アリーヌ先輩、女の子がそんなこと言ってはいけないと思いますよ……?
ーーとりあえずだけどさ、みんなありがとう、そしてアル、ごめんね」
「ん? 坊ちゃん何かしたか?」
「--さっきはごめん。僕、アルに酷い事を言ったよね……最低だ」
僕はさっきアルに対して八つ当たりに等しい事を言った。
「あぁ俺は気にしてねぇって。それに俺も調子に乗っちまってな、お互いおあいこで、どうだ?」
アルは僕がさっき言った事を全く気にしてないようで、そして逆に自分が調子に乗ってしまったと申し訳なさそうな顔をしている。
「だけど僕の方が酷い事を……」
「だから俺は気にしてねぇって。
ーーまぁそれよりも俺はさっきあいつに言ってくれた言葉が嬉しかったな」
「言葉……?」
「あぁ“僕の事を本気で心配して、一緒に笑える素晴らしい親友いる!!”ってな。
ーーいやぁ、あれさ聞いているこっちが恥ずかしかったなぁ?」
とニヤニヤしながら言ってくるアル。
「なら言うなよ!? 僕だって恥ずかしいんだからさ!!」
あの時は勢いで言ってしまったが、冷静になって振り替えてみるとかなり恥ずかしい言葉を言ってしまったと穴があったら穴が入ってそのまま墓石を立てて死にたい……!!
……まぁ実際死にかけているが。
「というか何で聞こえているの!?」
確かにそのセリフを吐いたときは旧校舎の入り口に近い教室だったけど、当時アル達は外にいたはずなのに何故聞こえているのだろうか?
「んなもん魔法に決まっているだろ?」
アルが当たり前のように言ってきた。
「便利だな魔法って!! 使える奴が羨ましいよ、こんちくしょう!!」
そりゃこの世界は魔法が発達しているだろうけど、いくらなんでも聞いて欲しくない時がある……ん? ちょっと待って魔法で聞いたってことは……?
「ちょっと待って、ま、ま、まさかみんな聞いているの?」
思わず僕がみんなの方を見ると……
「おうとも我らが副会長の熱い気持ち受け取ったぜい!!」
「まさかレイがあそこまで感情的になるとは思わなかったぞ、でも嬉しかったぞ」
「やっぱりレイ君らしくて好きですね」
「妹として少し恥ずかしいです……でもお兄様らしいです」
「フフッ、後先考えずに言うところは後輩クンらしいですね」
「殺せ!! なんなら今すぐ殺してくれ!! 恥ずかしさで死にたくなる!!」
アルだけでも恥ずかしいのにまさかの全員に聞かれているなんて……!!
ある意味死ぬよりも辛い、この状況。
「おいおい坊ちゃん照れんなよ~俺達全員、嬉しかったんだからよ」
「その代わり僕は今すぐにでも死にたいけどね!!
ーーというかアル、チャスはそのにやけ顔やめろ!!」
「「ニシシ~」」
この2人はけっこう息ぴったりな事が多い。
「こいつら……!!」
恥ずかしくなりみんなから目線を逸らすと、アクセルが拘束を振り払っているのが見えた。
だがみんなはアクセルが拘束を振り払ったのに気づいていない。
「ーー俺の思い通りにならない世界なんて死んじまぇ!!」
とアクセルはそう言うと大きな火の玉を作り出し、僕達に向かってとんでもないスピードで飛ばしてきた。
(マズい!! 反応できていない……!!)
みんな戦闘が終わったという思っていたのといきなりすぎて会長も含めて誰も動けなかった。
……ただ僕だけはアクセルが拘束をほどけたのを見ていたため、みんなに比べて反応出来た。
「くそっ……!!」
「お、おい坊ちゃん!? 何してんだよ!?」
「レイ君!?」
僕は火球とみんなの前に立った。
特に何か考えがあるわけではない、ただ
まるでアリーヌ先輩の暴走を止めた時の様な感覚である。
(あんなの当たったら大けがじゃ済まない……!!
ーーだけど僕だけで済むなら……!!)
僕は身体が丈夫だけが取り柄だ。
他のみんなに比べたらあの火球をくらっても何とかなるかもしれない。
(みんなは僕を助けてくれたんだ……なら今度は僕が守らないと!!)
バーーン!!
「ぐはっ……!!」
火球はそのまま直撃して、その衝撃でみんなの後ろに吹っ飛んでいき、ホールの壁に激突する僕。
魔法の痛みなのか壁に激突した痛みなのか分からないが痛すぎて指一本動かせない。
「れ、レイ君!? し、しっかりして!!」
「いや……いや……お兄ちゃん……し、しっかりしてよ……?
ねぇ……ねぇってば!!」
「アクセル、貴様……よくも私の親友を!!」
「ラウラ、ミラ落ち着いて!!
ーーちょっとレイ、しっかりしてよ!!」
「アルト君、レイ君を運んで保健室に連れていけますか!?
私も回復魔法を道中でかけ続けますので!!」
「あぁ任せろ!!
ーーおい、坊ちゃん死ぬんじゃねぇぞ!!」
頭がぼんやりしているため何を言っているかよく分からないが、みんなが心配しているのは分かる。
(なんだ……僕も誰かのために出来たじゃないか……まぁ策略で死ぬのが早まっただけだろ……でも……結局僕はみんなに心配かけてばっかりだなぁ……謝っても謝り切れないなぁ……)
と思いながら僕は意識を手放した。
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