逃げろ


「……と、さっきは大口を叩いたけどやっぱりか」


僕は相変わらず旧校舎に別の教室にいた。

最初こそは新校舎に逃げて助けを呼ぼうとしたのだが、何故か旧校舎から出れない。

道中で追っ手の1人と鉢合わせてしまい、なんとか気絶させた後、近くの教室に入り、呼吸を整えている。


「多分だけど、この校舎から出れないように結界でも張ってるんだよなぁ……」


この場所ごと見えない壁に覆われているみたいだ。

数年前アリーヌ先輩に襲われた際に、彼女が周りから気づかれないように気配遮断の魔法を使ったようにアクセルは雇った奴に使わせたのだろう。


元々旧校舎に殆ど人が来ない。

そのため音が出ないように結界を張られたら、人が気づくはずがないだろう。


「本気で僕を葬るつもーー

ーーって危っ!!」


一瞬ヒヤッとしたので隣に受け身を取って避けると、さっきまで僕がいた場所に鋭い岩が飛んできた。

後ろを見ると、追っ手の1人が再び詠唱の準備をしてるようである。


「ちくしょう……!! やっぱり休ませてもらえないか……!!」


と僕は手元にあった木片を追っ手の1人に向けて蹴り飛ばした。


「っ……!!」


向こう側も僕の反撃に驚いたのか詠唱を一度止め、木片を避けたのを見てから、その隙に僕は再び走り出した。


「本当に僕ピンチじゃないか……!!

数年ぶりにバッドエンドが迫ってきているじゃん……」


ーー完全に締め切られた空間で助けも呼べない


ーー相手はプロの追っ手


ーー僕は魔法を使えない、しかも相手は全員魔法が使える。

アクセルに至っては魔法を適性がかなり高い。


「あいつの言う通りシナリオ通りに進んでいるのか……」


順序こそ違うものも悪役の僕が死ぬのはシナリオ通りに決まっているのだろうか。


「いやいや、弱気になるな僕。

さっきアクセルに大口を叩いたんだ、こんなところで諦める訳にはいかないだろ。

僕はハーストン家の長男そして生徒会副会長のレイ・ハーストンだ」


弱気になりかけた僕の心にもう一度発破をかけた。

そうだ、もしシナリオ通りに進んで命を失う事になっても大人しく死ぬなんて嫌だ。

なんならいっそ最後まであがいてみよう。


「頑張れレイ・ハーストン、まだ僕は皆に伝えていないことがあるんだ」


アルや生徒会の面々には自分の臆病さで心配をかけてしまった。

謝ったからといって今までの関係でいてもらえるか分からないけど何もしないよりはマシだろう。


「--こっちにいたぞ!!」


後ろを振り向くと追っ手の1人が僕の方を指さして大声を出している。


「やべっ……!!」


僕は再び走り出した。

逃げながらもこの場を切り抜ける作戦を考えながら。





「はぁ……はぁ……クソっ……辛いなぁ……」


逃げ始めて、どれぐらい経ったのだろうか。

旧校舎の時計は全て撤去されている上に、僕も腕時計を付け忘れているため正確な時間が分からない。

ただ外を見ると夕暮れになり始めているので1時間は逃げているのだと思う。


「てか敵何人いるんだよ……多すぎるだろ……アクセルって本当に学生なのか?」


最初に気絶させた刺客以外に、不意打ちで2人ほど仕留めたが敵が減っている感じがしない。まぁ最初に気絶させた奴は復活しているのかもしれないがさっきから追っ手の数が減らない。

刺客自体の腕にもよるが刺客を雇うのは結構金がかかることであり、ただの学生のアクセルがこんな大人数の刺客を雇えるとは思えない。


「くっ……痛い……さっきはミスったなぁ……」


と僕は自分の左肩を抑えた。手を見ると血がべっとりついている。

さっき追っ手に追われている時に、刺客の放った魔法が当たり血が出た。


「とりあえず応急措置でもしておこう……ブレザーは置いていこう」


僕はブレザーを脱ぐと、ワイシャツの袖をちぎり傷口にまいた。

よく見てみるとブレザーにも結構な血がついている。

こんな事したらラウラや母さんに怒られる案件だが今回は構ってられない。


「よし、じゃあ行くーー」


「--ガスト・アイス!!」


と僕が歩き出そうとした瞬間、目の前に氷の風が吹いてきた。

それが運悪く怪我をしている左肩の傷に当たって、顔をしかめる。


「ちっ……!!」


僕は近くの大きめな教室に飛び込んで、そのままドアを閉めた。

閉めた後、自分は入った教室を見ると、そこは旧校舎の体育館の様である。


「ふぅ……ひと段落じゃないけど……少しはーー」


「--少しはなんだレイ・ハーストン?」


「……ッ!?」


その声がした方を振り向くと、そこには勝ち誇った顔をしているアクセル・フォンがいた。


「まんまと俺の作戦にハマってくれて助かるぜ」


「作戦だと……? どういうことだ」


「お前って本当馬鹿だよなぁ!!

ーーだってよプロの刺客がただの学生であるお前を逃すわけないだろ?」


確かにプロの刺客がただの学生である僕を取り逃すはずがない。

普通ならおかしいと思う事もさっきまで逃げるのに必死だったため全然思いつかなかった。


「なると、僕はお前の作戦通りにここにおびき出されたって事かい?」


「ようやく理解したか、いやぁ~結構頭を使ったぜ?

なんせここにお前が自ら来るように刺客の攻撃タイミングなんかも気にしたからな」


攻撃が激しかったり、緩かったりと変な波があった気がするがまさかあれも作戦の内だったらしい。


「ちっ……まんまと君の作戦に乗ったってわけか」


「あぁここまで簡単に引っかかってくれて助かったぜ、ざまぁねぇけどな!!

ーーおい、お前ら出てこい!! あいつを仕留めた奴には一番多く払ってやる!!」


とアクセルが言うと彼の後ろから数人の刺客が出てきた。

その中には僕が不意打ちで気絶させた奴もいたが、様子をみると全くダメージが入っていない様である。


「ここまでか……」


と僕は片膝を床についた。

さっきまで自分を勇気を振り絞って奮い立てていたが、完全に終わったと分かった瞬間、身体から力が抜けていくのが分かった。


(ハハハッ……結局バッドエンド回避は無理だったのか……頑張ってきたつもりだったけどなぁ……)


ここまで頑張ってきたつもりだったがどうやら無駄だったみたいだ。

結局、悪役の僕はどう頑張ってもバッドエンドを回避できないのか。


「じゃあなレイ・ハーストン!!」


「みんなごめん……!!」


衝撃を備えようと目を閉じようと瞬間、


「ーー坊ちゃんに怪我なんてさせねぇ!!」


パリン!!


とその声がすると同時に上で硝子が割れる音が聞こえ、そしてそのまま窓を突き破ってきた影は僕とアクセル達の間に立ちふさがった。


「あ、アル……?」


そこには僕の親友であるアルがいつもの笑顔を浮かべて立っていた。


「よぉ坊ちゃん、優しいのはお前の長所だけど流石に知らん奴についていくのはどうかと思うがな~まっ、そういうところが俺は好きなんだけどな」


と言うとアルはアクセル達の方を見ると憤怒の感情を露わにしていた。


「さぁてテメエら覚悟は出来てんだよな?

ーー俺のに怪我させたんだからなぁ!!」


その声は表情に違わず、如実に怒りを伝えてくる。

怯みながらもアクセルは自分に余裕があると思っているのか表情を変えずに話し始めた。


「フン、たかが1人だろ? 1人に何が出来るんだ?」


「なぁアクセル、お前に怒っているのは俺だけじゃないみたいぞ

ーー多分そろそろ来るぞ、この学園の最大戦力」


「最大戦力だと……?」


とその時、後ろで扉が凄い勢いで飛んだ。

その方を見るとそこには……


「レイ君!! 大丈夫ですか!?」


焦った顔の会長。


「大丈夫ですかお兄様!?

お兄様に何をしているのですか貴方達は……!!」


「何をしているんだろうね~少し遅れていたら危なかったね~でもラウラの気持ちも分かるなぁ。私も今日とても気分悪いなぁ~」


ラウラとチャスがいつの間にか僕の傍に立っていた。

……なお2人とも今まで見た事無いような怖い顔をしている。


「私の親友に怪我をさせるとは……!! 誰から我が剣の錆にしてくれようか」


ミラに至ってはいつも以上に冷たい目線を男達にしていた。


「貴方方ですか私の可愛い後輩クンを傷つけようとしたのは……?

ーー五体満足で帰れるなんて思ってないですよね?」


いつもの優しい声はどこにいったのか冷たい声を発してくるアリーヌ先輩。



ーーそこには生徒会のみんなが立っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る