主人公との対決


話とは一体何だろう。

最初こそアルに謝りに行かなくてと思い、“今度でいいか”と断ろうとしたのだが有無を言わせない口調でいい募る彼に負けて場所を変えて話をすることにした。


「ここでは何だし場所変えようぜ」


そうやって僕が連れてこられた場所は旧校舎だった。

ここは今僕達が通っている校舎が出来る前、丁度僕の父親が通っていた頃に使われていた校舎であり、一応まだ残っているが生徒を始め教師陣も殆どこの場所には来ない。


何んでこんな場所で話をする必要があるのだろうかと思っていると僕達はある教室に入った。

そして入ってアクセルが僕の方に向き直った途端、彼はさっきまでの爽やかな笑顔から一転憎々しげな表情に変わった。


(おかしいな……僕、彼を怒らせる事したか?)


そもそも僕はアクセルと殆ど話したことがない。

なんせ自分のバッドエンドを引き起こす人物に自分から近づく人間は普通いないだろう。


「お前ってまさか“転生者”か?」


「……ッ!?」


アクセルからまさかの質問が飛んできたことに驚いた反応をしてしまい、その反応を見た彼は更に顔を歪めた。


「けっ……やっぱりか。だからシナリオと違うわけだ。何かシナリオ通りに進まないからよ、俺以外に転生した奴いるのかと思っていたら、まさか悪役のお前が転生者だったとはな」


「その口調だと……君も転生者か?」


「あぁそうだ、俺も元の世界からこのゲームの世界に転生してきた。

ーーまぁお前とは違って俺は主人公に転生出来たけどな!!」


と僕を見下すように言うアクセル。


「てかさ何でお前転生出来たのに悪役に転生したんだよ? まさかお前Mなのか?」


「好きで転生してないよ、君とは違って。で、話はなんだい」


僕は別にモブキャラでいいとあのクソ神に伝えはずなのだが、転生してみればまさかの悪役。

あの神に次会う機会があったらとりあえず文句を言いたい。


「そうだな、じゃあ俺の要件を言わせてもらうな。

ーーさっさと俺に副会長の座を譲れ」


「……」


案の定の答えだった。


「おいおい意味分からないか? シナリオ通りに主人公の俺に副会長の座を譲れってことだよ!!」


「意味は……分かる……けど……」


この男の言っている意味は頭で嫌なほど分かる。

ただ理解したくない。


「そりゃそうだよな~だってあんな可愛い女子に囲まれて仕事出来るんだから俺に譲りたくないよなぁ? でもなぁ俺は主人公、お前は悪役、どっちが副会長の座は相応しいか」


そんなの言われなくても分かる。

勉強も出来る訳でもなく、魔法に至っては全く素養がない。

正確も臆病な僕なんかよりも目の前で僕に副会長の座を譲れと言っている主人公の方がいいだろう。


(ハハハ……だよな……自分でも分かっていたけど他人に言われると結構刺さるなぁ……)


僕が落ち込んでいるとアクセルはまるで勝ち誇った顔を浮かべた。


「そうだ悪役のお前はさっさとこの学園から消えろ!! 嫌われ者のお前に味方なんていないんだよ!!」


確かに僕は先ほど数少ない理解者に酷い言葉を吐いた。

アルは全く悪くない、ただ僕の八つ当たりなのに彼は申し訳なさそうな顔をして去っていった。


(はぁ……本当に僕はいない方がいいのかもしれないな。ここは大人しく譲るか……)


“譲るよ”と言いかけた瞬間、アルにほんのさっき言われた発言を思い出した。


“それによ、今の状況マズいだろ? 坊ちゃんだって本当は分かってるだろ?”


“いいや問題あるな。まず坊ちゃんが生徒会の面々と対話しようとしてない。

ーーそれに言いたい事があるなら口に出さないと相手に伝わらないぞ?”


アルは僕の事を本当に心配してくれた、レイ・ハーストンの1人の友達として。

……本当に僕には勿体ないぐらいの親友だ。


(ねぇ、アル。少しだけ僕頑張ってみるよ。終わったら謝りに行くね)


と僕は自分が持っている勇気を振り絞ってアクセルの方を向いた。


「おっ、ついに譲る気になったか? ったくおせぇーー」


「--アクセル・フォン、君に聞きたい事がある。

その答えによっては僕は君に副会長の座を大人しく譲るよ」


「質問だと? さっさと言え」


「お前は副会長になって何がしたいんだ?」


その言葉に対して彼は鼻で笑いながら答えた。


「そんなの決まっているだろ。

ーーハーレムだよ、ハーレム」


「……」


「せっかくギャルゲーの世界に転生したんだ、しかもお前とは違って主人公にな。

生徒会の女どもは全員美人ときた、ならば俺の好きに選べるだろ?」


「ハーレムだけなのか……?」


「あぁそれ以外に何がある!! しかもこのゲームさ、元はPCゲーが元だろ?

ーーならやることは決まってるだろ、男なら一度は憧れることだからな」


「そうか……なら……」


彼の発言を聞いて、僕の意思は固まった。


「よし、じゃあさっさと譲れ」


「断る」


「はぁ?」


「僕はお前に副会長の座を譲る事を断るって言っているんだ!!」


「った、な、な、なんだと……」


僕の答えが予想外だったのかさっきまでの余裕を浮かべた表情が崩れていた。


「僕はお前には絶対副会長の座を譲る訳にはいかない!!」


「は、はぁ? お前頭悪いんじゃねぇの? この世界でのお前の立ち回り分かっている?

ーーお前は悪役のレイ・ハーストン、俺は主人公のアクセル・フォンだぞ!!」


「あぁ僕の立場なんて誰よりも知っているさ!!」


僕は自分に才能がないというのは嫌というほど知っている。

転生前の世界でも運動や勉強もまともに出来なくて、両親には呆れられて、コミュ障のせいで本音を語れる友達もいなかった。ただ学校に行って、授業受けて、終わったら家に帰るだけのつまらないルーティンを繰り返していくだけだった。


……だからこそこの世界に転生出来たと知った時は今度こそは頑張ってみようと思った。

主人公とまではいかなくてもそれなりに平均ぐらいまでは頑張ってみよう、と。

だけど実際は前の世界と何も変わらなかった。運動はそれなりに鍛えることが出来たがそれ以外の勉強、魔法などは上手くいかずに何度も落ち込んだ。


それでも前の世界とこの世界で1つ決定的に違う事がある。

それは……


“坊ちゃん、悩みがあるなら聞くぜ”



ーーこんな僕でも親友だと思ってくれる奴がいる。



“私なら出来ないことはよほどの事ではないと諦めてしまいますから……それを10年以上続けているのはとても凄いことですよ”


“いや~本当にレイって不思議な子。生徒会のみんなが気に入るのも何となく分かる~”


“本当か!? 流石私の友達……親友!!”


“それでも私は貴方に感謝しているのです。

ーー見ず知らずに私を助けてくれた貴方を”


“ほら行くわよ副会長のレイ君”


ーー生徒会のメンバーとして認めてくれるみんながいる。


そんな彼らのために対した能力がない僕が出来る事はほぼ1つだろう。


「僕が生徒会の副会長に相応しいなんて思ってもないし、会長の隣に相応しくないなんて誰よりも分かっていたから、主人公が来た際には大人しく副会長の座を譲ろうと思っていたさ」


「ほぉ……分かってんじゃんか、ならよさっさとーー」


「だがお前には絶対譲るものか!!」


こいつは誰かのためではなく、自分のことしか考えてない。

ーーそんな奴に副会長の座を……生徒会をを譲りたくない!!

そう考えるとさっきまでの弱気だった気持ちもどこかにいったかのように勇気が湧いてくる。


「お、お前何を言っているんだ……?」


相変わらず驚いているアクセルに構わず僕は続ける。


「副会長の座も、生徒会のみんなも何もかもお前に譲るものか!!

例え主人公のお前が相手でも、自分が悪役のレイ・ハーストンだとしてもだ!!」


「フン、お前に何が出来る? 大した能力もないくせによ」


先ほどまでのうろたえた表情から変わり、憎々しげな表情に変わった。


「あぁ確かに僕は自慢できる能力は何もない!! なら今まで以上に何事にも努力する!!」


今以上に僕は会長には物事の進め方の考え方、ラウラに日頃の勉強を教わり、ミラに剣の指南をつけてもらって、チャスには情報を集める技術を、アリーヌ先輩にはお茶……ではなく人を見る力を教わってみよう。

そして少しずつでも力を貸してくれた皆の力になれるように頑張っていく。


「おいおい1人でか? 味方のいないお前がそんなーー」


「ーー違う!! 僕は1人じゃない!!

僕を……僕の事を本気で心配して、一緒に笑える素晴らしい親友がいる!!」


そう言うと僕は一度言葉を区切って、息を大きく吸った。

そして……


「ーーだからお前にだけは負けるものか!! 例えお前以外に負けたとしてもお前だけには負けるわけにはいかないんだ!!」


言い切るとアクセルは、憤怒の形相になった。

ブツブツと何かの言葉を繰り返している。

そして真っ赤な顔のまま大きな声を出した。


「生意気言いやがって……!!

ーーおい、お前ら出てこい!! 」


とアクセルが言うと教室のドアから何人もの男たちが出てきた。

歩き方や雰囲気的にどうやらその道のプロだろう。

雰囲気的にどうやら彼は僕をここで始末するつもりのようだ。


(結局こいつは交渉が決裂した場合は僕を始末するつもりだったんだな……)


「お前って本当に馬鹿だなぁ~!! ノコノコとついてくるなんてなぁ!!

ーーじゃあな悪役のレイ・ハーストン!!」


今の状況で勝ち誇った顔をするアクセル。

だがこれで勝った気になっているこいつにはまだ一泡吹かせてやろうと思う。


「悪いけどまだくれてやるわけにはいかないんだよね……!!」


と言うと僕は教室の窓に向かって走り出す。

そして走った勢いのまま窓ガラスを破って教室を飛び出た。


「あっ、テメェ!! 逃げんじゃねぇ!!

ーーてかてめぇら何ぼっさとしてんだよ!! 早く追えよ!!」


後ろでアクセルの怒号が聞こえる。

そのまま僕は新校舎に向かって走り出すのだった。

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