転校生来たる

ーーアクセル・フォン


“青い月の見える丘で”における主人公。

魔力の高さを見出されて学園に2年生の5月という季節外れの次期に転入してきた男子学生。学園に転校する前は早くに両親を亡くして孤児院に引き取られた後、訳あって僕らの学園に転入してきた。

赤い短髪で爽やかな笑顔が特徴であり、ノリが良くお人好しな性格のだが周りの女子生徒からの好意に対してはとんでもなく鈍感。魔力の高さを見出されただけあって攻守共に強い魔法を使え、その上サバイバル生活で培った高い身体能力を使っての肉弾戦も結構得意。


そんなザ・ギャルゲーの主人公みたいな人物がアクセル・フォンという人物だ。

……そしてこの人物とヒロイン達に僕はこの1ヶ月後に断罪される。

特に何をやったわけではないが、ここがゲームの世界ならいつ僕が悪者扱いされてシナリオ通りに断罪されるか分からない。そんな事を考えながら僕は過ごしていた。


アクセル・フォンが転校してきて数日後……


「なぁ坊ちゃん」


「ん? どうしたの?」


「あの転校生人気すげえな」


「そうだねぇ……」


と僕とアルは遠くの学園の廊下で沢山の人達に囲まれているアクセル・フォンを見ていた。

彼は笑顔で周りの人から聞かれることに答えているのだろう。


アクセル・フォンが転校してきて数日、学園内は彼アクセル・フォンの話題で持ち切りだった。

なんせ彼は膨大な魔力と爽やか風なイケメンの風貌も相まって人気にならない方がおかしいだろう。


「俺もあんな風にチヤホヤされてぇな~」


なんて隣でアルは羨ましそうにつぶやく。


「多分だけど僕とアルは無理だとおもうよ……日頃の生活態度と評判で」


窓枠に寄りかかっている僕達は学園での問題児としての評判を確立している。そのため周りから冷たい目線を向けられることはあってもアクセルのようにチヤホヤされることはない。

……言っていて悲しくなったのは秘密だ。


「それなっ!! 自分で言っておいてなんだが、あんなチヤホヤされるよりも一緒にいて楽な奴と飯食ってる方がいいな」


「それは同意だね。

ーーじゃ、丁度時間的に良いし、食堂におやつでも食べに行こうか」


放課後で小腹が空いてきたころだったし、アルから“飯”という単語が聞こえてきたので丁度いいなと思った。


「坊ちゃんいいねぇ~おっしじゃあ行くか!!」


「今日は何食べる?」


「ここはデカ盛りパフェ一択だな!!」


「お、おぅ……あの胸焼けしそうなパフェなのね……」


アルが食べようとしているデカ盛りパフェというのは通常サイズのパフェに乗っている具材が3倍ぐらい乗っており、僕自身甘い物が好きな方だがあまりの多さに途中でギブアップしてしまった代物だ。

だがアルはそれを笑顔で平らげてしまう。


「あれ旨いよなぁ……」


「アルって凄いよ……色々と」


なんていう会話をしながら僕達は食堂に向かうのであった。





また数日後……


「アクセル・フォン人気だなぁ……」


「そうだねぇ……」


僕達はまた同じように窓枠に寄っかりながら庭を見ている僕とアル。

その目線に先には同級生と庭で楽しそうに談笑しているアクセル・フォンがいた。


「なぁ聞いたか坊ちゃん」


「なんだい?」


「何か噂話なんだけどよ、アクセル・フォンが生徒会に入るって話があるらしいな」


「あぁ聞いた」


最近アクセル・フォンが生徒会入りが噂されている。

まぁあれだけの魔力を持っていて、勉強も出来て、その上性格も良ければ教師達も生徒会に推薦したくなるだろう。まるで僕とは真逆だと思って笑ってしまう。


「あいつら坊ちゃんにもう少し感謝しろっての」


「良いよ僕は気にしてないから。

ーーさて、今日の仕事やるよ」


と僕は手元に今日の生徒会の仕事をまとめたメモを広げた。


「坊ちゃんがいいなら構わないが……まっ、いいか。で今日は何をすんだ俺達は?」


そんな僕を見てアルは渋々と言った感じだった。


「今日は美化委員から要望があった“庭を荒らす犯人を捜してほしい”って依頼だね」


「あぁあれか数日前から噂になっている庭を荒らしている輩って奴か。まさに俺に相応しい依頼じゃないか!! 燃えてきたぜ!!」


最近、学園ではアクセル・フォンと同じぐらいの噂になっているのは学園にある庭を荒らしている輩のことだ。誰かが庭を荒らしているらしい。


「ちなみに僕らの主な仕事は“犯人を捕まえる”じゃなくて“庭の手入れ”だからね。荒らされた庭を整理だよ」


僕が今日受けた仕事は荒らされた庭の手入れだ。流石に犯人を捕まえるのは教師陣がやってもらえるみたいなので僕達は学生としてやれることをするだけである。


「嘘だろ……やる気失くしたわ……俺帰るわ……」


自分が思っていた仕事とは内容が違ったことが余程ショックだったのか再び窓枠に身体を預けた。


「……帰るなって、というか態度変わりすぎでしょ、ほら行くよ」


「へいへい~……あぁ合法的に暴れたい、殴りたい、蹴りたい、何か壊してぇ」


暴力的な言葉のオンパレード。

そんなアルを僕はたしなめる。


「まぁまぁアル。

僕達が合法的に暴れるって言ったら結構マズい問題が起きた時だと思うから、僕達が暴れなくて済むってことは学園が平和ってことだからさ」


自分に自信がある訳じゃないがアルや僕はそれなりに戦える。

僕やアルが本気を出すってことは一般生徒には手の余る事件が起きた時だと思う。

なら彼はふてくされているが今の状況が幸せなのだろうと思っている。


「やっぱり坊ちゃんらしいなぁ……その考え」


「まぁ僕達は生徒会役員だし、僕は副会長だからね。学園のみんなが幸せならいいんだよ」


僕がその様に言うと、アルは満足げな表情だった。


「おっし、じゃあそんな坊ちゃんの幸せを俺が壊すわけにはいかねぇな。庭の手入れいくか!!」


「おう」


「てかよ、坊ちゃん最近生徒会の仕事さ外の仕事ばっかりやってるよな?」


「そりゃ僕事務作業苦手だからに決まっているでしょ」


「いやそうだが……俺よりも得意だろ……

ーーじゃなかった、俺、坊ちゃんが生徒会室に行ったの最近いつだよ?」


「う~ん……いつだっけなぁ……あっ、1週間前にはいったよ」


「1週間前!? おいおいマジかよ……」


僕の返答に心から驚いた様子のアル。若干だが呆れている様子。


「大丈夫だよ、一応日々の仕事の報告はきちんと提出してるから」


事前に会長から仕事の種類を生徒会室に置いてもらっているのでそれを誰もいない時間に取りに行き、終わったら報告書を生徒会の顧問経由で提出している。

……会長やラウラからは若干不振に思われているに違いない。


「そういう問題じゃないと思うが……」


「ほら、アル行くよ」


「……納得いかねぇけど、行くか」


と後ろのアルは納得いかないといった表情で渋々僕の後ろについてきた。


(ごめんね、アル……君の思っている通りだよ)


僕は最近生徒会室に行ってない。

理由はアルに話した“事務作業が苦手”ではなく、別の理由がある。


(言えないよなぁ……このあと生徒会の面々に断罪されるのが怖いから会いたくないなんて……)


今日はいつもと変わらず笑顔だったけど、次の日行ったら昨日とは一転、嫌われているかもしれない。それがいつなのか分からない。今まで仲良くしていた生徒会の面々から憎しみのこもった目を向けられて平気でいられるほど僕はメンタル強くないし、何なら気が弱いほうだ。


(アルには……この状況言っても分からないだろうしなぁ……“実は僕、悪役キャラに転生しちゃったんです”なんてなぁ……)


記憶がないけど、ゲームの登場人物のアルにこの状況を言ってもポカンとされるだろう。

であるならばこれは僕が解決しないといけない問題だ。


(だけど解決策思いつかないんだよなぁ……はぁ……)


「おいおい坊ちゃん大丈夫か?」


「あぁ大丈夫、心配してくれてありがとうね。

ーーさっ、庭の手入れ行こうか。はぁ……」


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