頑張らないと
僕が倒れたその日はオピニルさんに迎えに来てもらい早退した。前世からの記憶を振り返っても早退は初めてのことである。
屋敷に帰り、両親からはとても心配されたが“大丈夫”と言い切って心配する両親達を振り切り無理矢理自室に戻った。一時期に比べて体調は良くなったけど……気分が暗い。
「はぁ……かっこわるいなぁ……僕」
ベットに制服のまま倒れこんだ僕。
自分の体調管理も出来ないなんて本当に情けなく思う。
「言えないよなぁ……」
よく悩みを人に話せば解決すると聞くが、人に話せない悩みだ。
本来の主人公“アクセル・フォン”がもう少しで転校してくる。
それは悪役“レイ・ハーストン”の断罪イベントまでのカウントダウンが始まる……そして、その先に待っているのはレイ・ハーストンの死、つまり僕が死ぬということだ。
「もう死にたくない……」
ーー段々と意識が無くなっていく瞬間
ーー徐々に冷えていく身体
ーー急に蘇ってくる昔の記憶
前世で味わった死の瞬間、感覚等あんなのもう二度と味わいたくない。
……まぁもう一回味わいたいなんて思う人はいないだろうけど。
だがそれ以前に僕はやらないといけないことがある、それは……
「明日みんなに謝らないと……」
今日は生徒会の仕事を殆どやらず倒れて早退してしまった。今日本来僕がやるはずだった仕事を他のみんなで分担してくれたんだろう。本当に会長を含めてみんなには頭が上がらない。こんな僕には勿体ないぐらいの仲間だ。
「でも……僕は……みんなから糾弾される、んだよな……」
シナリオ通りだと僕は生徒会の面々から糾弾される。
僕にとってはもう一度死ぬよりも今まで仲が良かったみんなから憎しみをこもった目を向けられて糾弾される方が一番辛い。
「そんなの嫌だ……」
そんな事を考えているとまた気分が悪くなってきた。
「とりあえず明日は謝ろう……それから考えよう……色々……」
次の日……
「行ってきます」
「皆様、行ってきます」
僕はいつものようにラウラと一緒に屋敷を出た。
一応、身体の方は寝たらいつも通りになり、屋敷に住み込みの医者に診てもらって大丈夫というお墨付きをもらったので登校するのである。
「お兄様……体調の方は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。昨日は心配かけてごめんねラウラ」
「い、いえお兄様が元気なら私は構いません!!
でも無理はしてませんよね? お兄様は昔から無理しがちですから……」
「ハハ、大丈夫だって流石に昨日の今日で無理はしないって」
僕は人より出来る事が少ない。だから多少は無理しないとみんなに追い付かないのだ。
だけど今のこの状況でそんな事言ったらラウラを余計に心配させてしまうので言わないが。
……最悪、ラウラの事だから彼女自身も休んで看病するとか言い出しそうだし。
なんて思いながら屋敷の門を出たら……
「あれアル、それに会長達……」
そこにはアルや会長達、生徒会役員が全員いた。
「おっす坊ちゃん~」
「レイ君、大丈夫?」
「レイ、もう大丈夫なのか?」
「後輩クン、無理は駄目よ?」
「へいへいレイ、体調はどうだい?」
「僕はもう大丈夫だけど……というかみんな、どうしてここに?」
僕がみんなに尋ねると会長がみんなを代表して答えた。
「昨日レイ君がいきなり倒れたんですよ? 皆さん、貴方が心配だったんです。それでみなさん今日レイ君の家の前まで来たというか……なんか決めてないのに集まっちゃった感じです……」
「俺は日課のトレーニングのランニングを延長してな~その道中でミラと会った。な、ミラ?」
「わ、私は日頃の鍛錬の道中にたまたまレイの家があったから寄っただけだ!!」
前にミラのランニングに付き合った事があるけど僕の屋敷の前なんて道中に無かった気がするが、やっぱり日々道を変えているのだろう。本人も否定しているようだし。
だがその様子を見たチャスは新たにイタズラの対象を見つけたかのようにミラに話しかけた。
「えぇ~“たまたまレイの家があった”から来たの? そんな偶然あるかな~?
同級生として気になるな~その真相?」
「そ、それはだな!!」
「ーーあらあらそういうアルマンダさんはどうしてこちらに?
貴方こそご実家からこちらは学園とは反対側のはずですよね?」
アリーヌ先輩に言われてみて、そう言えばチャスの家は僕と学園の大体中間にある。
そのため僕の家に来ると学園から遠ざかってしまうはずだ。
……でもアリーヌ先輩、貴方こそ学生寮ですから、尚更僕の家から遠いですよね?
「私は登校前に朝食の出前たまたま頼まれまして、その帰り道に丁度レイの家があったんですよ?
ーー先輩こそ、学生寮なんですからわざわざこちらに来る必要はないですよね?」
朝食の出前ってそんなサービスやっているんだと初めて知った。
「私もたまには散歩してから登校したいと思いまして、道を決めずにフラフラしていましたら、あらまぁなんと後輩クンの家の前に来てしまいました~」
……いやいや登校前に散歩なら道を決めないと遅刻しますって先輩。
「あ、あの皆さん……レイ君が若干置いてきぼりですよ? あと私も少し……。
ーーそろそろ行きましょうか」
みんなの勢いに若干驚きながら言う会長。
「そうですね。ここで立ち話もなんだし、行きましょうか」
僕が会長の意見に倣うと他の皆も賛同し始めた。
「おう、行くか!!」
「おっけ~!!」
「うむ、では行こう。護衛は任せるがいい」
ただミラだけは少し違うが。
「いやミラ、護衛はいらないよ?」
「なんだと!?」
「……いや普通そうでしょ」
「ぐぬぬ……仕方ない」
としょんぼりするミラ。
……なんか罪悪感が湧いてくる。
「じゃあ私の護衛して!! 可愛い私を!!」
「うむ、可愛らしい姫を守るのは騎士の役目だな!!」
なんか解決したみたい。
……ひょっとしてミラって結構単純なんじゃ。
「ところで会長」
「はい、何ですかレイ君」
「どうして会長は僕の家に?」
他の面々は僕の屋敷に来た理由は分かったが会長が来た理由は分からなかった。
会長の屋敷は僕の屋敷から学園に向かう道中にあるのでわざわざ寄る理由はないはずだろう。
と、思って言ったのだが会長からは呆れられた目を向けられた。
「あのですね……流石に昨日いきなり倒れたんですよレイ君は?
会長として貴方の幼馴染としても心配しますよ……普通は」
「あっ……そうでしたね……ごめん、姉さん」
僕が普段呼ばない“姉さん”と呼んで謝ってきたので会長は言い過ぎたのかと思ったのか申し訳なさそうに言ってきた。
「い、いえ私も言い過ぎました、ごめんなさい。でもレイ君、皆さん貴方の事が心配だったんですよ。だって私以外の皆さんも口では“たまたま”なんて言っていますが貴方の事が心配で何も決めていなかったのに全員揃ってしまいましたからね」
「何となくですがそんな気がしてました」
アルぐらいは本当にトレーニングのついでに来そうだが、他の3人も同じように“たまたま”なんて言ってくるものだから馬鹿な僕でも察してしまう。
本当に僕なんかにか勿体ない人達だ。
「だから、皆さんに後でお礼言っておいた方がいいですよ?」
「うん、そうするよ。
ーーありがとう姉さん」
「えぇ、どういたしまして。
さぁレイ君、今日は昨日出来なかった分、仕事してもらいますからね?」
「分かりました、今日はパシリから雑務まで徹夜でやります」
「い、いや流石に徹夜はやめてくださいね? フリじゃないですからね?」
生徒会の面々で話しながら登校した後、学年が違う会長、アリーヌ先輩、ラウラと昇降口で別れた。
「ところで坊ちゃん、今日の宿題やったか?」
「げっ……少し終わってないなぁ……」
「ハッハッハッ、心配すんな坊ちゃん。
ーー俺は全くやってない!!」
「自慢げに言えないよそれ!?」
「もうレイにトリスケール君~君達は何をしているんだよ~。
ーーで、ミラ宿題見せて!!」
と隣で歩いているミラに頼み込むチャス。
……よりによって学年で問題児扱いされている3人が宿題をやってないとなるとまた教師からネチネチと言われかねない。
「君もかチャス……」
「教室でいいか? 私も不安だが出来る限りは努力したつもりだ、一緒にやろうレイ」
「助かるよミラ、本当にごめんね……次は気を付ける」
「レイは仕方ないだろ、昨日早退してしまったのだから。
ーーそれよりも後の2人は何をしていたんだか、気になる」
「「うぐっ……」」
ミラから冷たい目線を向けられて気まずいのか目線を逸らす2人。
……大方遊んだりしていたんだろう。
何とかミラに教わりながら宿題を終わらせて、丁度良いタイミングでチャイムが鳴った。
「さて皆さん、今日は報告がございます。
ーーこのクラスに転校生が来ることになりました」
教室が教壇に立つといきなり、こう言ってきた。
その瞬間、僕はとても嫌な予感がした。
「入ってきていいですよ
ーー
(マジかよ……!!)
ガラッ
教室のドアが開くと同時に赤い短髪の1人の男子生徒が入ってきた。
その人物こそ、僕がこの作品で慣れるならなりたかった、そして一番今見たくない人物である
この物語の主人公、アクセル・フォンだった。
「アクセル・フォンです。
ーーこれから宜しくお願い致します!!」
ーーレイ・ハーストンの断罪イベントまで1ヶ月
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