足が重い
ラウラが高等部に進級してきて数日後の放課後……
「はぁ……」
僕は学園の庭で寝転がっていた。
本来生徒会の仕事に行かないといけないのだがどうも行く気になれない。
理由は簡単だ。
「もう少しで主人公のアクセル・フォンが来る……」
最近、頭の中ではずっとそのことばかり考えている。
主人公が来るということは僕ことレイ・ハーストンの断罪イベントが間近に迫ってきているということだ。そのイベントが起きるということは僕は学園退学、その後まもなくして死亡する。
「でも僕は……」
退学や命を落とすことよりも生徒会の面々に嫌われるのが嫌なのだ。
今まで僕に笑顔を向けてきた皆が突如、嫌悪や憎しみの表情で見られたら僕は耐えられない。
それが今から起きるって考えると生徒会室に行く足が重いのである。
「はぁ……」
このところため息の数が増えた。
ため息をつくだけ幸せが逃げていくと聞くが、この数日でどれだけの幸せが逃げていったのか分からない。そんな事を考えてばっかりのためか最近安心して寝れていないので結構な睡眠不足だ。
「ーーどうしたそんな浮かない顔をして」
「アル?」
声がした方をみるとそこには僕の親友、アルが立っていた。
「どこにもいねぇから探したぜ?
ーーてか最近、そんな顔ばっかりだぜ坊ちゃん」
「あぁ僕にも色々あんだよ……」
アルに言われるぐらい僕はそうとう表情に出ていたのだろう。
でも彼に今の悩みは言えない。
(だって“今から僕の断罪イベントが始まります”って言えないでしょ……普通)
アルも記憶が無いが多分ゲームの登場人物であろう。
そんな彼にこれから起こる事を言っても通じない。
「心配ごとがあるなら何かするか? たまにはイタズラでもすっか?」
「……たまにはそれもありかな」
いつもなら止める立場である僕もこのように言ってしまうぐらい疲れているのだろう。そんな僕を見たアルは心配そうな顔をしてきた。
「坊ちゃん、悩みがあるなら聞くぜ?
ーーまっ、俺の馬鹿な頭で正解が出てくるか分からんがな!!」
「アルは馬鹿じゃないでしょ。ありがとうね」
アルは見た目や言動でガサツなイメージを持たれがちだが、意外とだが結構気配りが出来る人間だ。普段の言動からは本当に想像出来ないのだがーー
「おう、教頭のかつらを剥がしにいこうぜ!!」
「何言っているの!?」
……前言撤回。こいつダメだ。
少しでも彼の評価を上げようとした僕は馬鹿だった。
「てか、思い出した」
何かを思い出したかのように言うアル。
……というか用事があるなら先に言うべきではないだろうか。
「何をだい?」
「そう言えば坊ちゃんを生徒会室に呼んでこいって伝言頼まれていたんだわ」
「あぁ……今日生徒会で集まる日だったのを忘れていた」
「おいおい坊ちゃんマジで大丈夫かよ? 生徒会が好きな坊ちゃんが忘れるなんてよっぽどのことだろ、本当にどうしたんだよ」
さっきまでおちゃらけた様子から真面目な表情に変わるアル。
……流石にこれ以上話すとボロが出てしまうだろう。
「あぁ大丈夫、これは僕が解決しないといけない事だからさ。
ーーさぁ行こうか」
「お、おう……」
呆気にとられるアルを尻目に僕は生徒会室に向かった。
「お兄様……今日はおかしなことしてませんよね?」
生徒会室の扉を開けた瞬間から辛辣な事を言ってくる我が妹ラウラ。
……僕ってそんなに信頼ないかな?
「大丈夫だ、僕はーー」
「ーー坊ちゃんなら教頭のかつらを取ろうとしていたぜ!!」
「アルーーー!?」
一応僕は生徒会室に向かう道中でアルには生徒会ではいつも通りの態度でお願いねと釘を刺しておいたのでとても助かるのだが、冗談が通じないラウラにそれを言うとどうなるか……
「……お兄様、貴方は何をしているのですか?」
冷たい視線を向けられる僕。
……ほら言わんこっちゃない。
「ら、ラウラ!? 僕そんな事してないよ!?」
「本当にラウラはレイの事が好きですね~」
とそんな僕ら兄妹の様子を見てニヤニヤしながら見てくるチャスがラウラをからかうとさっきまでの冷たい視線から一気に顔を赤くして反論してきた。
「チャス様!? べ、別にそ、そんな訳ないじゃないですか!!
何をい、言っているんですか!! お兄様がダメなのがいけないんです!!」
「……ごめんよ、出来の悪い兄で」
そりゃ自分でも出来の悪いことは知っているけども身内に言われると結構刺さる。
「ち、違うんですよお兄様!? も、もうチャス様!!」
「ハッハッハッ~ゴメンってばラウラ。でもレイって本当に面白いよね~
ーー貴方もそう思うでしょ、ミラ」
「……同意、レイもラウラも面白い」
「まぁまぁ皆さん、落ち着きましょう。
ーー丁度時間も良い時間ですし、お茶いかがですか?」
とアリーヌ先輩はお盆に人数分のお茶を入れて持ってきてくれた。
……本当にいつの間に入れているのだろうか。
「わぁ~いアリーヌ先輩のお菓子だ~」
「私もいただく」
「すみませんベスランド様……気が利かず……」
「ラウラさん、お茶入れは私が好きでやっていることですから気にしなくていいですよ
ーーお礼なら後輩クンを私にくれれば……」
「断固、拒否します」
ガチャ
「--今日も生徒会室は賑やかね。
皆さん、ごきげんよう」
「すみません会長……」
「いいのよラウラさん、貴方は兄のレイ君が好きですからね」
と会長は微笑みながらラウラをからかうように言った。
「会長まで!?」
最近、恒例になっているこの風景を見て僕は少し心が楽になっていくのを感じた。
「レイ君、ごめんなさいね。急に呼び出してしまって……」
と申し訳なさそうな顔をする会長。
「い、いいですよ!! 僕が忘れていたのが悪いので……」
元はと言えば僕が今日の集まりを忘れていたのがきっかけなので会長が悪くない。
「トリスケール君もごめんなさいね」
「俺のことはいいっすよ!!
ーーで、坊ちゃんを呼び出した理由ってなんですか?」
「そうですね。本日、先生方から私に話があるました」
「どのようなお話なのですか?」
「ーー転校生が来ます」
「……ッ!?」
とうとうこの時期が来てしまったかと身体がこわばる。
それを悟られないようにとりあえず頑張って口を開けた。
「どのような方なのですか?」
「あまり情報は無いのですが……確か名前はアクセル・フォン、レイ君と同じ学年です」
“アクセル・フォン”
自分が一番なりたかった人物の名前……そして今一番聞きたくない名前だった。
さっきアリーヌ先輩がいれてくれたお茶を飲んだはずなのに喉が渇き、指先が震えるのを皆に悟られないように我慢した。
「へぇ……この時期に転校生ですか~魔力が高いんですか?」
「おっ、俺みたいだな!!」
「そうだね~トリスケール君みたいな性格じゃないといいなぁ」
「ハハハッ、だな!!」
「あの……私皮肉気味に言ったんだけど……」
「無論分かってるぜ!! 俺ももう一人俺がいたら嫌になるな!!」
「ねぇレイ、貴方の部下さ、ポジティブ過ぎて怖いんだけど……
ーーあれ、レイ?」
「ん、ん……? ど、どうしたのチャス?」
「い、いやレイ、何か顔色悪いよ……?」
そんなに顔色が悪いんだろうか僕は。
「そ、そうかーー
ーーあ、あれ……」
チャスから心配されて、無事なのを説明しようと椅子から立ち上がると突如足に力が入らなくなり、その場に立膝の状態になった。
「お、おかしいなぁ……力が……」
なんとか立とうするが足に力が入らない、それどころか余計にバランスを崩して床に倒れた。
「おい坊ちゃん!? 大丈夫か!?」
「レイ君!?」
「お、お兄様!?」
「レイ!?」
「あ、あぁ……」
心配しているみんなに何を言おうと口を開けるが全く言葉が出ない。
「トリスケール殿、レイを保健室まで運ぼう!!」
「お、おう!!
ーーくそっ、坊ちゃん無茶しやがって!!」
(あぁ……また僕はみんなに迷惑かけてたのか……どこまで僕は……馬鹿なんだ……)
なんて思いながら僕の意識はプツンと切れた。
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