俺のダチ

俺ことアルト・トリスケールは転生者だ。

元の世界で交通事故に巻き込まれて意識を失った後、“神”と名乗る変な存在に


“転生してみないか?”


というラノベでよくある展開に遭遇し、特に断る理由もなかったので俺はその提案に応じて転生した。それから俺はこの世界でゲームに登場しないキャラのアルト・トリスケールという名前を名乗っている。



今回は俺が転生した世界で気に入っている親友、レイ・ハーストンという人物について語ろうと思う。


 本来のゲームでのレイ・ハーストンは作中随一の嫌われ者として嫌われている。対して頭や力、魔力が高いわけでもないのに家柄だけで威張っている。ヒロインの各ルートに行く前の共通ルートの途中で主人公とヒロイン達に今まで自分がやってきたことをバラされ学園を追い出されたあと、最後自身の父親の政敵を蹴落とすための策略に使われ呆気なく人生の幕を閉じる事になる。


……だが俺がこの世界で俺が出会ったレイ・ハーストンという人物は全く違った。


まず大して能力が高くないというところだが、原作と違って魔法は全く使えない。いやまさかと思ったが魔法は本当に使えない。更に学力の方もそこまで高いとは言えない。


「坊ちゃん、今日も組手頼むわ」


「えぇ……アルと組手すると疲労が半端ないんだよなぁ……」


と嫌そうな顔をする坊ちゃん。


「そこをなんとか頼む!! 俺の相手できんの坊ちゃんぐらいしかいないんだって」


「分かった、分かった一回だけだよ、きな」


 魔法が使えないが、その代わりと言ってなんだが身体能力がかなり高い。同年代どころかこの世界の人間の中でもかなり高い方になる。なんせ学園で坊ちゃんの組手に相手に慣れるのが俺と同じクラスのミラ・ルネフという女子生徒だけだ。


そんな坊ちゃんの戦い方としては攻防備えたオーソドックスな戦い方なのだが、対魔法を頭に入れて戦ってくる。


「じゃあ行くぜーー!!」


とこちらが魔法を詠唱をしようとした瞬間……


「ーーだからさせないって前に言ったでしょ!!」


気が付いたら目の前に坊ちゃんの拳が目の前にあり、ぎりぎりのところでかわした。このように坊ちゃんは相手がしようものならとんでもない速さでパンチを当ててくる。そのため坊ちゃんの前で詠唱をするということは一撃をくらう覚悟をしないといけない。


「やっぱ早ぇな坊ちゃん!!」


結局坊ちゃんと戦う際には体術じゃないと相手にならない。


「喋っている暇あるのかいアルは!!」


とこんな強さを持っているので学園で坊ちゃんに喧嘩を売ろうとする命知らずはいない。これが魔法が使えない坊ちゃんが学生から虐められない理由だ。





そして各ヒロインからの印象だが、これはとある日の坊ちゃんがいない日の生徒会室の話をした方が早い。


「ういっす、アルト・トリスケール入ります~

ーーってあれ?」


「今日はレイ君は私と動くんです!!」


とヒートアップしているのが生徒会の会長であるフローレンス・ライシング。


「何を言っているんですか!! お兄様は私と動くんです!!」


その会長と言い争っているのが坊ちゃんの妹のラウラ・ハーストン。現在は中等部なのだが何故かしょっちゅう高等部の方にいる。

……だが来る前に中等部の生徒会の仕事は終えてから来るのだがら凄い。


「ふ、2人とも落ち着くんだ……」


ヒートアップしている2人を止めようとしているのが同じクラスのミラ・ルネフ。


「なんて止めようとしているミラさんや、しれっとレイと動こうとしてないよね~?」


ミラをけん制しながらしれっと坊ちゃんと動こうとしているのが同じクラスのチャス・アルマンダ。坊ちゃん、俺、チャスの3人は高等部の問題児として扱われている。


「そ、そんな訳ないだろう!!」


「みなさん、静かにしましょう?

ーーここは間を取って後輩クンは私とお茶です」


そして漁夫の利を狙おうとしているアリーヌ・ベスランド


「「抜け駆け禁止!!」」


とゲームでのメインヒロイン達が生徒会室で揉めていた。

そんな生徒会の面々を尻目に俺はいつもの様に生徒会室の壁に寄りかかり、上を仰ぐのである。


(今日も生徒会は正常運転だな……早く坊ちゃん帰ってきてくれ……)


実はこれが坊ちゃんが生徒会室にいない時の正常なのである。

なんと坊ちゃんはメインヒロイン達全員から好意を持たれているのだが、当の本人は全然気が付かない。

本来のレイ・ハーストンは性格が傲慢で常に人を見下した態度を取るのだが、この世界のレイ・ハーストンは真逆で大人しく、人を見下すところか自分を卑下して、その上かなりのお人好しである。


「というかラウラさんは中等部ですよね? どうしてここにいるのかしら……!!」


「中等部の先生に許可を頂きましたので合法です

ーー残念でしたねフローレンスさん?」


「ぐぬぬ……」


……合法ってなんだろうか。

会長と坊ちゃんの妹は本来とても頭が良いのだが、坊ちゃんが絡むとお互いポンコツになる。2人とも坊ちゃんに対して好意を分かり易いぐらい示しているのに当の本人は全く気が付かない。なんなら坊ちゃんは自分がおもちゃとして扱われてると思っている。


(まぁこっちはいいとして……こっち側は……と)


と俺はもう1つの言い争いのグループを見た。


「いいじゃんたまには私だってレイと行動したい~」


「おやおやダメですよベスランドさん? たまには後輩クンを癒してあげましょう

ーー勿論、癒すのは私ですけど」


「はっはっはっ~癒すなら同じクラスの私の方がレイも気が楽ですよ?」


「「フフフッ……」」


勿論こちらは見えないが2人の間にはバチバチの火花が出ているに違いない。


「い、癒すだと……だ、ダメだ……そ、そんなこと……!!」


ミラは1人で変な妄想の世界に入っていた。


(全員優秀なんだよな……本当不思議だ……とりあえず坊ちゃんはよ帰ってこい……!!)


生徒会の面々は全員がかなり優秀なのだが……このようにレイが絡むと取り合いになる。こんな感じで喧嘩をする割には各々の仕事を終わらせているのだから不思議だ。


……結局この喧嘩は坊ちゃんが補修が終わり生徒会室に来るまで続くのであった。





「はぁ……にしても本当に不思議だな坊ちゃんは」


俺は自室のベットに横たわりながら、そう呟く。

なんせ性格や能力が原作と違い過ぎるのだ。


ーー傲慢どころか自分を卑下している


ーー魔法が使えないが学園で並ぶ相手がいないぐらいの体術を習得している


ーーヒロイン達から好意を持たれているのに全く気付かないという鈍感


余程の鈍感じゃない限り自分がどれだけ恵まれている環境に置かれているのに気づくはずなのに坊ちゃんは余程の鈍感なのである。


「でも坊ちゃんはそれがいいところなんだよなぁ……馬鹿みたいに真っすぐでお人好しで」


能力があるくせに自分が魔法が使えないのを気にしてを卑下して落ち込む。それでも坊ちゃんは馬鹿みたいに真っすぐで、こっちが心配になるぐらいお人好しで、一緒にいて本当に毎日楽しいし飽きないのだ。


「そのお人好しの性格に俺もそんなお人好しに救われた1人だしな」


俺も転生した際に自分の能力の高さを使って暴れた。だが暴れすぎて学園内での危ない連中に目をつけらて一時は命の危機を感じたが坊ちゃんがまさか自分の家の私兵を借りて俺を助けてくれた。


その後屋敷で俺を助けた理由を聞いたところ


“僕は正しい人の味方でありたいからさ。だから君を助けた、それだけの理由”


聞いているこっちが恥ずかしくなるような真っ直ぐな理由を俺に言ってきた。

それを聞いてから俺は坊ちゃんの味方でいようと決めたのである。


「さて……問題は……1年後のアレだよな……」


“1年後のアレ”とは原作におけるレイ・ハーストンの断罪イベントだ。

その日、レイ・ハーストンは主人公とヒロイン達から一気に断罪されて学園を追い出されるというゲームの共通ルートの大きなイベントである。


「今の坊ちゃんの状況だとあり得ないと思うが……」


ヒロイン達との関係はかなり良好で、謀略を企む父親に至っては溺愛されている。そのため断罪イベントなんて起きないだろうが、どうなるか分からない。


気を付けないといけないのがまだ主人公が転校してきてないのと、生徒会の面々以外の学生と教師からはあまり坊ちゃんが良い印象を持たれていないことだ。

これがどの様に1年後に響くか分からない。


「だが心配すんな坊ちゃん、俺は最後まであんたの味方でいる」


俺が襲われそうな時、坊ちゃんは全く関係ないのに自分の家の私兵を呼んで助けにきてくれた。であるならば俺はその恩に報いないといけない。


それに俺は原作に登場しないキャラだ、であるならばもしゲームのシナリオにおける強制力が発生したとしても俺には効かないはずだ。

それを使えば俺は最後まで坊ちゃんの味方でいられる。


「レイ・ハーストン、あんたからもらった恩に報いるために俺は全力であんたの力を尽くすと誓おう。

ーーあんたの命が尽きるその時まで、な」


俺は誰に聞かせるわけでもなく、そう呟くのであった。

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