ラウラの看病
会長と買い物をした2週間後……
「さぁ行きましょうかお兄様」
いつにも増してやる気のラウラ、今日は彼女と2人で買い物の予定なのである。先週会長と2人で買い物に行った事がラウラの逆鱗に触れて、機嫌を直すために次の休みに一緒に買い物に行くことで許してもらった。
そして今日がその当日なんだが……。
「……」
「どうしましたかお兄様?」
「ねぇラウラ」
「はい、どうしましたか?」
「体調悪い?」
「いきなり何を言い出すんですか? せっかくのお兄様との買い物の当日に私が体調を……」
「ちょっとごめんね」
僕はラウラのおでこと僕のおでこを合わせた。
「ひゃっ!? ちょっとお兄様!?」
ラウラは驚いて離れようとするが僕はそんなのお構いなしにくっつけ、ラウラの体温を計った。昔は彼女に同じことをよくやっていたと思い出していると、なんとなくラウラが体調が悪そうだ。
「ん……ラウラ熱あるでしょ?」
「そ、それはお兄様がい、いきなり近づいてくるから……ですよ!!」
「これぐらい兄妹のスキンシップだから当たり前でしょ。
ーーそれに体調の悪さ、今日からじゃないでしょ?」
何となくだが体調の悪さは今日からじゃない気がした。彼女の兄をして10年以上なのでラウラが変だとすぐ分かるのである。
「……」
少し目を泳がせて黙るラウラ。
……そうやら僕の発言は見当はずれではないようだ。
「沈黙は肯定って受け取るけど、本当はどう?」
「ごめんなさい……実は昨日から体調悪くて……」
「やっぱりね……今日は無しね。帰るよ」
僕がラウラの手を引いて、屋敷に戻ろうとすると彼女はその場から動かなかった。
「こ、これぐらい少しぐらい無理すれーー」
「無理は駄目。ラウラは前からあまり身体が丈夫じゃないでしょ? もしここで無理して何かあればどうするの?」
「むぅ……」
「ラウラに何かあったら僕悲しいよ、大事な妹なんだからさ」
「はい……お兄様を悲しませるのは妹失格ですね……分かりました、今日は帰ります」
ラウラは渋々といった感じで屋敷に戻って自室に戻ったのだが
「37・5か……完全に熱だね……」
ラウラの体調は予想以上に悪かった。
自室に戻るといきなり倒れてしまい、僕がベットまで運び、家の使用人を呼んで必要な物を揃えてもらた。本来僕がいない方がいいと思うのだが使用人達に“レイお坊ちゃまは是非ここにいてください!!”と言われ良く分からずとりあえずいる。
……使用人達が何故そこまで必死に僕を留めようとするのか分からないが。まぁ特に断る理由もないのでそのままいるけど。
「ごめんなさい……なんか自室に戻った途端、緊張の糸とでもいうのでしょうか……プツンと切れてしまって……一気に身体にきました」
申し訳なさそうに言うラウラ。
「ここまでなら無理は駄目だよ……というか僕怒りたいんだけど」
僕個人はあまり人に怒らない、というか人に怒れない。だけど今回はかなり怒っている。
「はい……」
ラウラも滅多に怒らない僕が怒っているのを見て少し怯えている。
「なんでこんな体温なのに無理したの? ラウラはあまり身体が良くないのを理解しているでしょ?」
ラウラは生まれつき身体が良い方ではない。小さい頃はしょっちゅう熱を出したり、学園を休んでいた。中等部になってからはそこまで体調を崩すことは無くなったので少し安心していたが……。
「うぅ……今日の買い物をどうしても行きたかったので……宿題や生徒会の仕事を遅くまで……」
あぁ成程、彼女はいつも休日に回す勉強や仕事を平日に無理に押し込んだため、日頃の生活リズムが狂い体調を崩してしまったのだろう。
「ラウラ……買い物なんていつでも行けるのに」
「ごめんなさい、ダメな妹で……」
「そこまで誰も言ってないけど……まぁとりあえず今日はゆっくり寝て」
「はい……あの……今日の買い物の……」
「ラウラの体調が良くなったら来週でも付き合うよ」
今回の買い物は前に僕がやらかしたこともあるが、ラウラの頼みとあれば僕が断る理由がない。というかラウラは変なところで弱気だ。
「ほ、本当ですか……う、嘘じゃないですよね?」
……彼女から見て僕は嘘つきに見えるのだろうか。まぁ確かに日頃の行いならしょうがないか。
「こんなことで嘘をつかないよ。
ーーとりあえず今日は寝て。僕は自室にいるからさ」
流石に兄の僕がいたらラウラも寝れないだろうと思い、僕は自室に戻ることにした。自室で本でも読んで過ごそうと思っていたのだが……何かが僕の服の袖を弱く握ってきた。
「あ、あの……お兄様」
「ん? 来週は予定空けておくから大丈夫だよ。だからゆっくり寝て」
「そ、それじゃなくて……」
「違うの?」
「お願いがありまして……」
「いいよ、何をすればいいかな?」
「私が寝るまで……」
「寝るまで?」
果たして僕は何をすればいいのだろうかと思っていると、ラウラがその内容を話してきた。
「--手を握ってもらってもいいですか?」
「手を?」
「はい……お兄様に手を握ってもらえると……安心してゆっくり寝れそうです」
記憶を振り返ると幼い頃のラウラは僕の手を握ったまま寝ていたりすることがあった。よくこの屋敷に来たばかりの時は1人で寝れなかったので僕と同じ布団で手を握ると穏やかに寝ていたことを思い出す。
「手を握るのぐらいなら……」
「お兄様の手だ……」
僕が手を握るとラウラは少し穏やかな顔になった。その様子は幼い頃のラウラそっくりである。
「うん、僕の手だよ。これでいい?」
「はい……今日はゆっくり寝れそうです……」
というか寝てもらって体調を戻してもらわないと困るのだが。
「はいはい、ゆっくり寝て」
「すぅ……」
僕の手を握って、数分後には穏やかな寝息を立てて寝たラウラ。寝たので手を離そうとしたのだがラウラが結構しっかり握っているため中々離れない。
「マジか……こりゃしばらくこのまんまか……」
でも久しぶりに妹から頼りにされて少し嬉しい自分がいる。ラウラは大体の事を1人でこなしてしまうためあまり僕の出る幕はない、だから今回のように頼られると嬉しい。どうせ今日はやることがないからいいかと思っていると……
「ねぇ……お兄ちゃん……」
「寝言……?」
僕は自分の事を“お兄ちゃん”とは絶対呼ばないので呼んだのはラウラだろう。もうラウラが僕を“お兄ちゃん”と呼ばれなくなってしばらくたつ、正直言うとたまには“お兄ちゃん”と呼んで欲しいのだがそんな事を言ったらラウラから永久凍土並みに冷たい目線を向けられる。
「1人はいやぁ……」
「ハハッ、随分はっきりとした寝言」
僕はそのまま繋いでいない手でラウラの頭を撫でながら、寝ていて聞こえないだろうけどラウラの寝言に対しての返答をした。
「大丈夫だよ、僕はラウラを1人にしないよ
ーーだって僕はお兄ちゃんだからさ」
彼女は実の両親と死別しており、それもあって僕の家族に引き取られた。だからこそ“1人になる”というのが嫌なのだろう。であるならば僕は兄として妹に二度とそんな思いさせないようにしないといけない。
「えへへ……」
そんな僕の言葉が聞こえたのかラウラは満足そうな顔を浮かべて再び静かな寝息を立て始めた。彼女がここまで穏やかな顔を浮かべるのは珍しい。
「今日はゆっくり寝て、明日からまた仲良く登校しようか
ーーでも、この手離れないよなぁ……」
と僕はラウラにがっちり握られた手を見て、いつになったら手が離れるのだろうかと思いながらそのまま彼女の頭を撫でる続けるのであった。
次の日、ラウラは元気になっていていつも通りに一緒に登校するのであった。
「お兄様、昨日はご迷惑をおかけしました」
「気にしないって僕はラウラの兄なんだから当たり前だよ」
元気なら兄はいいのである。だが僕は当たり前の回答をしたつもりなのだがラウラ的には好印象みたいで
「流石お兄様、妹として誇らしいです」
妹からの好感度が上がった。
「そこまでかな……」
「えぇお兄様ポイント高めです」
「何のポイントかな……」
そしてそのポイント溜まったら何と交換できるのかな……なんて思ってしまう。
「まぁそれで週末はどこに行こうか、多分ラウラ行きたい場所あるんだよね?」
「あっ、実は行きたい場所があるんですよーー」
と週末の予定を一緒に話しながら学園まで登校するのであった。
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