会長と買い出し

 学園での定期テストが終わった6月のとある休日……


「会長、今日は何を買うんですか?」


今日は生徒会の活動に必要な部品の買い出しに僕は会長と町に来ていた。


「むぅ……」


「あれ会長……?」


会長に問いかけてから返事がないと思っていると会長は少し不満気な表情だった。


「ちょっとレイ君、ここは学園ではないんですよ?

ーーさぁその場で相応しい呼び方で呼んでください」


“会長”という呼び方がダメなら思い浮かべるのは1つだけだ。

……ただそこまで呼び方にこだわるのかなんて思うけど。


「えぇ……まぁ

ーー分かったよ、姉さん」


「宜しい、今日はペンや議事録を書くノートを購入です」


「その量なら姉さんだけでもいいじゃん」


「……へぇ、ミラさんの料理教室に付き合って、アルマンダさんのご実家の手伝いはやるのに一番付き合いが長くて会長である私の買い物は断るんですか? あっ、ラウラさんは大丈夫です結構です」


「い、いやぁ……その……」


 何だろう今日の姉さんは何故か機嫌が悪い。というかラウラはいいってどういう意味ですかね。姉さんとラウラは幼い頃は仲良かった気がするのだが、ある一時から2人はバチバチな関係になった。事あるごとに喧嘩をしていて止めるのが僕なのでとても疲れる。

……ゲームの作中では2人はいつも仲良かった気がするんだけどなぁ。


「会長の私を差し置いてレイ君は生徒会のみんなと仲良くするんですね~」


「……はぁ、分かった分かった。今日は姉さんに付き合うよ」


これ以上言い訳をしたら明日以降の生徒会の仕事に支障をきたしそうなので今日は姉さんに付き合うことにした。


「よしっ、じゃあ行きましょう!!」


僕が渋々と言った表情で答えると姉さんはパァッと表情を明るして笑顔になった。

……どうやら少しは機嫌を直したみたい。


「はぁ~い……」




「--よし、全部買えましたね」


と手元に持っているメモを見ながらさっきまで一緒に買っていた文房具を確認する姉さん。買い物自体は僅か10分ぐらいで終わった。


「全部買えたんだ、じゃあ今日は帰ろうーー」


「何を言っているんですかレイ君? まだ帰りませんよ?

ーーまだ私の買い物が残っていますからね」


「えぇ……僕いらなくない?」


「ミラさんの料理ーー」


「--分かった分かった付き合うよ」


 またさっきの面倒なことになりそうなのでここは僕が折れることにした。

……姉さんは一度機嫌を悪くするとリカバリーがとても大変なのである。なおよく姉さんと喧嘩するラウラも同じぐらいリカバリーが大変だ。なんでそういうところは似ているんだろうか。


「はい、いい子ですね。お姉さん嬉しいです。

ーーでは私買いたい小物があるのでそこに行きましょう」


と僕は会長が行きたがっている雑貨屋に向かうのであった。





「ーーふぅ……歩きましたね」


姉さんの買いたい物がある店をいくつか回ったあと、僕達は町のカフェで休憩していた。姉さんが買いたいものはいくつかの店に分かれており、その上姉さんが珍しく“あっ、こっちにも買いたい物があったのを忘れていました”ということもあり街中で結構な距離を歩いた。


「そうだね、これで姉さんが買いたいものは全部買えた?」


「えぇ買えました。お付き合いありがとうございますね」


「良かった……あぁコーヒーが身体に染みる……」


「フフッ、レイ君って本当にコーヒー好きですよね」


そう言いながら姉さんは紅茶が入ったカップを優雅に持った。見た目も相まってその仕草がとても似あっている。


「まぁコーヒーは好きだからさ、ブラックを飲むと頭が冴える気がするんだよね。あとよく甘い物を食べるからその口直しみたいな感じかな」


「でもレイ君って昔から小さい頃からブラックですよね? 同年代の子達は砂糖が入っていてもコーヒー飲めなかったのに貴方は昔から砂糖入れなかった気がします」


「……ま、まぁね」


 そりゃ僕転生前からコーヒー飲んでいましたからね。僕も幼い頃は飲めなかったけど高校生になった頃から普通にブラックが飲めるようになったから転生した後もコーヒーを飲んでいる。何なら一日一回はコーヒーを飲まないと気持ちが落ち着かないという中毒一歩手間だ。


「そう考えるとレイ君って昔から大人びていましたよね……私と初めて出会った時も妙に大人びていたというか同年代の子が言わないような言葉言っていましたし……」


「げっ……」


そりゃ僕は今の年齢に17年追加しているもの。同年代に比べたら大人びてしまうのは当たり前だろう。


「でも姉さん」


「はい?」


「僕と初めて出会った時の会話なんてよく覚えているよね?」


「あっ……!! そ、それは……!!」

ーーきゃっ!!」


姉さんは勢いよく椅子から立ち上がろうとしたため急にバランスを崩してしまった。


「姉さん!?」


倒れそうな姉さんを支えようと僕は立ち上がり、ぎりぎりのところで間に合い支えることが出来た。

……日頃身体を鍛えて良かったと思った瞬間である。


「危ない……ちょっと姉さん気を付けてよ」


「ごめんなさいレイ君……少し油断していました……」


さっきの会話にそんな慌てるところあったかなと思いながら姉さんをみると、とある違和感を感じた。


「何をしてるのさ……あと姉さん、足くじいてない?」


「……ごめんなさい、足くじいちゃいました」


と申し訳なさそうに謝ってくる姉さん。


「はぁ……本当に何をしているの……足元に気を配ってよ」


「うぅ……いつもはレイ君に注意しているのに……まさか注意されるなんて……」


注意されるなんては余計だ。

……そりゃいつも注意されるのは僕だけども。


「とりあえず姉さん歩ける?」


「大丈夫……って言いたいんですけど……歩くの厳しいです。で、でも少し休めば歩けると思いーー」


「無理は駄目だって、もし無理して悪化したらどうするの?」


「はぅ……」


「まぁいいや、姉さん。ちょっとごめん」


と僕はその場でかがんだ。そしてそのまま会長の足に手を伸ばして……


「えっ……?

ーーひゃっ!!」


僕は会長を自分の前に抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこである。


「ち、ちょっとレイ君!? これは一体なんですか!?」


「姉さん暴れないで、危ないから」


「はぅ……こ、これは……」


「これが一番運び易いと思ったんだ」


 まぁおんぶも方法の1つだと考えたけど、それだと姉さんがお持ちの立派なふくらみが僕の背中にあたって僕個人が色々と危ないと思ったので抱っこの方を選択した。

……でも立派なふくらみを背中に感じてみたいと思ったのは秘密にしておこう。


「で、でもこれだとみんなから注目されて……恥ずかしいですよ……」


確かに街中で僕達は注目を浴びている。街中でお姫様抱っこをしているのもあるだろうけど、姉さんの綺麗な容姿も注目の的の理由だろう。


「そりゃ姉さん可愛いからしょうがないでしょ」


「か、可愛い!? わ、わ、私が!?」


「何を言っているのさ姉さんが可愛いのは僕だけじゃなくて学園のみんなの周知の事実でしょ。とりあえず今日はもうこのまま帰るからね」


「は、はい……でも……れ、レイ君の顔が近い……です」


「姉さん、嫌かもしれないけど顔が近いのはこの体勢上仕方ないので許して」


好きでもない男子の顔が近いのはあまり気分の良い事ではないだろうけど、この体勢上しょうがないので彼女の意見は無視することにする。


「い、嫌じゃないけど……うぅ……」


と姉さんは終始顔が真っ赤でうつむいていた。





その後僕は姉さんをお姫様抱っこの状態で彼女の屋敷まで送り、そのまま使用人の方に姉さんを任せて帰ろうとした。


「今日はごめんなさいレイ君」


「いいって、でも次は気を付けてね。姉さんが怪我すると僕も心配でしょうがなくなるからさ」


姉さんは会長なので生徒会にとても必要なのもあるし、僕個人幼馴染が怪我したら心配してしまう。


「はい……気をつけます……」


「じゃあまた明日学園で」


「レイ君、また明日」


と僕は姉さんに手を振って屋敷を後にした。


「ふぅ……今日は疲れた……でも会長軽かったなぁ……」


「--でしょうねお兄様?」


「えっ……」


聞きなれた声がした方を見ると……


「こんばんはお兄様」


そこにはラウラが笑顔で立っていた。暗闇からいきなり現れたものだから心臓に悪い。

……そうして僕には分かる、あの笑顔は心からの笑顔ではない、かなり不機嫌な時の笑顔だ。


「ら、ラウラ!? どうしてここに!?」


「どうして? それは私がお兄様の妹ですから当たり前です」


「いやいや全然当たり前じゃないからねラウラ!? 理由になってないし!! というかいつから?」


「朝からです」


「最初からじゃないか!? 暇なの!?」


今は夕方の5時、朝からとすればかなりの時間尾行していた事になる。

……暇なのだろうか?


「フローレンスさんの事ですから私を除け者にしようとしていたので今日は尾行させていただきました。2人で仲良く休日デート、最後はフローレンスさんをお姫様抱っこですかぁ……」


ラウラが言っているのは前のキャンプの予行練習のことだろう。あれはラウラが始まる前に登場したので姉さんはかなり悔しがっていた。どうやらそのことを結構根に持っているみたい。

……そしてさっきから発言が怖い、ただ怖い。


「ねぇ……ラウラ……君ってそんな子だったけ?」


と僕が若干怯えながら言うとラウラは目が笑ってない笑顔のままこう言ってきた。


「フフッ……私をこうさせたのはお兄ちゃんですよ……?

ーーさぁお兄ちゃん、ゆっ~くり私とお話しましょうか? 私寂しかったんですよねぇ……」


そうやって徐々に僕に近づいてくるラウラ。

……おかしいなぁ、さっきから寒気が止まらないぞ?


「ひぃ……!?

ーーラウラごめん~~!!」




ーー拝啓、父さん、母さん。

妹のラウラは病んでしまいました。

何か接し方を間違えたのでしょうか?

僕なりに接してきたつもりなのですがどうやらどこかで間違えてしまったようです。


そして差し出がましいお願いだと思いますが僕に女性との接し方を教えてください。

確かお父さんの知り合いにそういう関係が得意な方がいらっしゃったと思います。その方のご都合が宜しい日を教えていただければこちらからお伺いします。

お手数をお掛けしますが宜しくお願い致します。


レイ・ハーストンより

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