ミラと料理

 キャンプの予行練習から1週間後……土曜日の昼さがり


「ーーレイ、頼みがある」


 突如、ミラが僕の屋敷にきた。いつもは3日前ぐらいに連絡をくれるの彼女にしては珍しい。


「珍しく突然来たねミラ、どうしたの?」


 まぁ僕はいつものように休日はやることがないのでアポなしでも大体暇である。

……自分で言っていて悲しくなる。


「レイにしか頼めない内容なんだが……引き受けてくれるか?」


 ミラは人に頼みごとをするのが苦手な性格なので毎回申し訳なさそうに言ってくる。


「僕に出来る事なら引き受けるよ。ミラにはいつも助けてもらってるからさ」


 いつも勉強や生徒会の仕事を助けてくれている友人からの頼みを断る理由がない。

……それに好きなゲームのヒロインなら尚更だ。


「そ、そうか。流石私の友達だな」


 少し嬉しそうなミラ。そんなに僕が頼みを聞いたのが嬉しいのだろうか。


「まぁ立ち話はなんだから入りなよ」


「あ、ありがとう。お邪魔します……」


 僕が屋敷の中に入るように促すと、彼女は恐る恐る入ってきた。


「で、僕は何をすればいいのかな? 体術は同じぐらいだし、勉強に至っては逆に教えて欲しいぐらいだからさ」


 そうやって自分で言っていると僕って長所が無いんだと悲しくなる。


「あぁ生徒会の面々の中で一番レイが頼みやすいことだ。

ーー私に料理を教えて欲しい」


「ん……? 料理だって?」


まぁ確かに生徒会の面々では料理を得意な方というかチャスやアル以外は料理が出来ない。会長とラウラに至っては本当にダメな感じである。


「あぁ、私に料理を教えて欲しい!!」


「別にいいけど……でも何でいきなり……?」


「先週のキャンプの予行練習で自分の実力不足を感じたんだ……料理をレイとアルマンダ殿の2人に任せてしまってこのままだとキャンプの際に他の班員に迷惑をかけてしまう……」


 ミラは真面目な性格で責任感が強い。だからこそ自分が出来ない事で他の班員達に迷惑をかけるのが許せないのだろう。


「そんなミラに1つ吉報」


「何だ?」


「キャンプだけど僕、ミラ、アル、チャスは全員同じ班だよ」


「な、なんだと……?」


「いやだって僕達はほら、先生達も手を焼く生徒達だからさ。ひとまとめにしておきたいんでしょ。だから料理が出来る僕とチャスがいるから大丈夫だよ」


 僕は事前にその情報をチャス経由で聞いており、最初はなんで僕達4人が同じ班なのだろうかと思っていたのだがその理由を聞いて納得してしまった。

……というかチャスは情報を本当にどこから仕入れてくるのだろうか。

でも僕、アル、チャスはまぁ問題児扱いされるのはいいけど真面目なミラが僕達と一括りにされるのはあまり良い気分じゃない。


「ほ、本当か!! レイも一緒なのか!?」


「う、うん僕、アル、チャスも同じ班だよ」


「そうか……そうなのか……同じか……よしっ」


 いつもの面々と一緒なのが嬉しい様子のミラ。やっぱり気心の知れた友達がいるのは嬉しいだろう。生前の僕はそもそも友達がいなかったので分からないがクラスメイト達は修学旅行のグループ分けで誰と誰が一緒になるかで結構騒いでいたのを聞いていたので何となく分かる気がする。


「班員も4人だし、僕とチャスいるから大丈夫だって」


「あぁ……そうだーー

ーーって違うんだ!! そうじゃないんだ!!」


「な、何が違うんだ?」


「レイ、アルマンダ殿、トリスケール殿、そして私……一番料理が下手なのは私じゃないか!!」


「あぁ……なるほど」


「アルマンダ殿は飲食店の娘、レイはよく美味しいお菓子を作ってくれる、トリスケール殿は見た目の割に料理得意なのを知った……」


「まぁ彼はサバイバル生活送っていたしね……」


 色々な事があり河原でサバイバル生活を送っていたアルはあんな見た目に反して結構手先が器用で、料理なんかも結構出来る。正直前のキャンプの予行練習の時にアルを料理側に入れるか迷ったが、流石にアリーヌ先輩とミラという女子2人だけを薪集めに行かせるのは心配だと思ったのでアルを薪集めの方に配属させたのだ。


「私に出来る事と言ったら、薪に使う木を切る……もしくは包丁で机を切るだけだ……」


 机を切るのはどうなんだろうかと思ってしまうが今それを言ってしまったら目の前のミラが更に落ち込んでしまうので言わないでおこう。


「それで僕に料理を教わりにきたのね……なるほど……」


「だから頼む!! この通りだ!!」


「うん、分かった。僕で良ければ教えるよ」


「本当か!! 流石私の友達……いや親友!!」


 何かミラの中で僕が“友達”から“親友”にグレードアップしたみたいだ。


「おぉ……親友か……」


「あぁレイは親友だ。いつも私が困っているときに助けてくれるからな!!

ーーさぁ善は急げだ、早く教えてくれ!!」




 という事で僕とミラは屋敷の調理場に来た。


「さぁやろうか」


「分かった、まずは何をすればいい?」


 エプロンを付け、腕まくりをしてやる気一杯のミラ。


「まずは包丁の持ち方だね。持ってみて?」


 僕が包丁入れに刺さっている包丁を指さすとミラは包丁を持ち、不満げに呟く。


「フン……それぐらい私に出来--」


「はい、アウト」


「何だと!?」


 まさかの包丁を持った瞬間に早速ストップが入れることになった。

……なんか見たな、このデジャブ。


「ミラ……前にも言った気がするんだけどさ……包丁とサーベルは違うんだ。

ーーそして包丁を持った瞬間、目つき変わったからね? 誰と決闘するつもりなんだい?」


「うぐっ……相手は……野菜だ!!」


 見苦しい言い訳をするミラ。いつもの凛々しい態度はどこにいったのやら。


「野菜は倒さない!! あと包丁で刺そうとする構えはやめなさい。何か色々と嫌な想像をしちゃうから」


 ……主に自分の本来のバッドエンドを想像してしまうので。確か原作だと僕は父親が放った刺客によって刺され、敵対する派閥を排除するための駒に使われた。思わずその光景と目の前のミラの表情と包丁の持ち方を見て背筋が凍ったのである。


「ぬっ……まずは包丁の持ち方から教えてもらおう……」


「だね。まずは僕のーー」


とそれから僕はミラに包丁の持ち方から料理を教えていった。





一通りミラに教えたあと外を見ると夕方になっていた。


「ふぅ……もうそんな時間か……」


「でもミラ凄いね。まさかこんな短時間でそこまで出来るようになるなんて」


 最初こそ包丁の持ち方がとても心配だったのだが、ミラは飲み込みが早くて僕が教えていくことをどんどん吸収していって簡単な炒め物や煮物などの料理ぐらいは出来るようになった。

……ラウラは同じ時間かけてもダメだったのだから。


「何を言っている、レイが教えるのが上手いんだ。私はレイの言われた通りにしているだけだぞ? これでキャンプの時に3人にかける迷惑を少しは減らせただろう」


「別に迷惑なんて思ってーー」


「--あらレイに、ルネフさん」


と声がしたので後ろを見るとそこには母さんが笑顔で立っていた。


「お、お、おじゃましています!! レイのお母さん!!」


「はい、ようこそ私達の屋敷へ。それで2人は料理をしていたのかしら」


「うん、ミラに頼まれて料理を教えていたんだ」


「は、はい。今度の学園の行事のために料理を練習しておこうと思い……レイに教わりに参りました」


「そうなのね。レイは何も迷惑をかけてないかしら」


「め、迷惑なんてそんな……今日は朝から私が突撃してきたので……迷惑をかけているのはむしろ私の方なので……」


「いいのよ、レイは暇だから」


容赦がない母さんの一言。


「……母さん、酷くない?」


「レイ、落ち込むな……? 泣くな、私がいるぞ……?」


「うん、ありがとうミラ。僕もう少し頑張る」


「あぁ頑張れ」


「それでレイ、ルネフさんの料理の腕はどうかしら?」


「簡単な炒め物や煮物は作れるようになったよ」


「はい、レイに教わって何とかここまで出来ました」


「そうなのね。では、1つアドバイスをしてもいいかしら?」


「はい、お願い致します!!」


「料理は食べて欲しい人の事を考えながら作ると美味しくなるのよ」


「あぁ……聞いたことある」


 前世でも話を聞いた事があるが料理を作る際には食べて欲しい人の事を考えながら作ると美味しくなるみたいで、よく僕は会長やラウラの事を考えながらお菓子を作る。


「なるほど……食べて欲しい人……ですか……なるほど……勉強になります」


「で、ルネフさんは誰の事を思いながら料理を作るのかしら?」


「そうですね……

ーー……ッ!!」


といきなり顔を赤くするミラ。一体誰の事を想像したのやら。とても気になる。


「あれ、大丈夫ミラ?」


「だ、だ、だ、だ、大丈夫だ!! 問題ない!! あぁ問題ない!!」


ミラはわざと大きい声をだして誤魔化そうするが、それはミラの癖で何かを隠しているのだろう。


「おぉ……? ならいいんだけど……」


「あらあら青春ね~レイはルネフさんが誰の事を想像したと思う?」


「ち、ちょっとレイのお母さん!? それはまずーー」


「えっ、そんなのミラのお父さんでしょ?」


「「……」」


 突如、ミラと母さんから憐みの視線を受ける僕。

……何かこれもデジャブ感じる。僕はたまに会長達からも同じような目線を受けるのだがその理由が全く分からない。


「えぇ……なんか間違った事言った? だってミラってお父さんの事尊敬しているからそうかなぁ……って思ってさ」


「レイ……貴方は……はぁ……ラウラの気持ち分かるわ……」


「え、えっ、ラウラ怒ってるの? 最近何か怒らせたかな……」


 と頭の中で記憶を整理していると最近怒らせてばっかりだった事に気づく。

……あとでクッキーを差し入れにいこう。丁度材料が余ってることだし。


「はぁ……レイ……これから心配だわ……」


「あの……母さん、さっきよりも強くため息を吐かないで欲しい」


「ごめんなさいねルネフさん、私達の息子がこんな感じで……」


「い、いえだ、大丈夫です!! レイはこんなところがありますけど良いところ沢山ありますから!! 」


「ミラ……“こんなところ”ってどんな事なのかな……?」


なんて聞いたものをミラは最後まで教えてくれなかった。

……気になったがまぁ親友が困る事は聞かなくていいかな。



ミラが帰った後……


「ねぇラウラ」


「お兄様、どうしましたか?」


「はい、これ」


 僕はラウラの部屋に行き、手作りのクッキーを渡した。

……理由はさっき記憶を振り返った際に最近ラウラを怒らせてばっかりだと思ったからである。ちなみに今日のクッキーはいつもより少し豪華なクッキーを作った。


「クッキーですね……いきなりどうしましたか?」


「いや……何となくかな……はい、どうぞ」


「ありがとうございます、お兄様も一緒に食べませんか?」


「僕、一緒にいていいの? 怒らない? 憐みの視線僕に向けない?」


「本当にどうしたんですかお兄様……」


……妹よ、兄は色々大変なんだ。

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