キャンプの予行練習 後編

 僕達は僕とチャスが作った料理を食べた後、山の上にある宿泊施設に泊まっていた。


「--と、こんな感じで報告書をまとめて出したいと思います。皆さん宜しいでしょうか?」


 会長がさっきまで話していた内容をしっかりまとめて学園に提出する報告書を作り、簡単に内容をまとめたものを読み上げ、他の面々に確認していた。


「僕は大丈夫です」


「私もだ」


「大丈夫よ~」


「俺も問題なしだな」


「異議な~し」


「私も異論はございません」


 と僕を始めとする生徒会の面々が特に異論はないとの旨を伝えると、会長は満足そうに頷いた。


「ではこれで提出しますね。さてみなさん、今日の内容は完了です、皆さんお疲れさまでした」


会長が告げると各自伸びをしたり、机に突っ伏したりと一気に真面目な空気が切れた。


「ふぅ……終わった」


「お~い坊ちゃん何かしようぜ!!」


 後ろで立っていたアルが声をかけてきた。何故か彼は会議中ずっと僕の後ろで立っている。まるで僕が立たせているように思われがちだが一応彼の席は用意しているのだが、何故かアルは座らない。


「“何かしようぜ”って何をするつもりなんだいアル?」


「そうだな……この森広いから……あっ!!」


 と何かを思いついたかの様に声を上げるアル。


「ん?」


「肝試しなんてどうだ? ほらこの森広いからよ、驚かしがいありそうだしな」


「肝試しか……でもアル」


「ん? あっ、まさか坊ちゃん肝試しが苦手だとか……」


「う、うん、まぁ好きじゃないけどさ。

ーー誰が驚かすの?」


「そんなの俺に決まってるだろ?」


 アルはイタズラとか悪だくみとか結構好きだ。だからこそ自分で肝試しをやろうなんて言い出したのだろう。でも僕の予想だとアルは色々と忘れていると思うので試しに聞いてみた。


「一応、聞くんだけどさ道は決めているの? もう今日は暗いから今からは無理じゃないかな?」


 外を見るともう日が沈みかけている。この山はかなり広いので変に日が沈んでいるところで道を決めていないのであれば確実に迷うだろう。


「あっ、マジだ……俺だけなら何とかなるが……坊ちゃん達はマズいな……」


「ま、まぁアルなら大丈夫かもしれないけどね……」


 アルは学生寮に入寮する前はホームレスに近い生活をしていたのでサバイバル生活は得意だろう。だが僕達がそんな事をしたら朝日を見れるか分からない。


「でも肝試しはキャンプの内容に入れてもいいかもしれないね。僕達生徒会の面々が驚かす側とかさ」


 そんな話をしているとさっきまで机に突っ伏していたチャスはいきなり起き上がり目をキラキラさせてきた。


「おうおう楽しそうじゃないか~私の事を散々馬鹿にしてきた貴族の坊ちゃん共に仕返ししてやろう~!! 私が全力で驚かしてやるぜい」


 確かに貴族の子息や令嬢達はこういうの苦手だろうから、日頃馬鹿にされているチャスからしてみれば“学校の行事”という名目を使って仕返し出来るから嬉しいのだろう。


「おぉ~チャス乗り気だなぁ~。坊ちゃんはどうするよ?」


「僕は参加するよ。一応生徒会役員がいた方がいいだろうしね

ーーまぁあまり信頼ないけどね……」


「ハッハッハ~だな坊ちゃん!! 学園じゃ“狂犬を従えている問題児”なんて呼ばれてるしな!!」


「“狂犬”ってアルだよね!? というか僕の評判悪っ!?」


 転校してきたばかりの頃はアルは手当たり次第に喧嘩を吹っかけていた様子から陰では“狂犬”なんて呼ばれている。実際は喧嘩を吹っかけて事には理由があり、生徒達に説明しようかとアルに聞いたところ“別にいい”と言われてしまったので言っていない。そのため未だに陰では“狂犬”と呼ばれている。


「だよなっ!!」


 だがこの男、自分が陰でそう言われていても殆ど気にしてない。逆にそのあだ名で呼ばれるを楽しんでいる様に思える。

……そのポジティブシンキングは羨ましい。


「……ちょっとお兄様?」


 そうして誰かが僕の悪事を言うと、その場にいたら必ずと言っても過言じゃないラウラの冷たい声での説教。

……おかしいなぁ、何でこういう時にラウラいるのかなぁ?


「ら、ラウラ……こ、これには事情があって……いやでも事情あるのかな……僕悪い事したかな?」


「“ハーストン家の私兵を勝手に動かした”“上級生の首元に手を突き付ける”これだけでも充分だと思いますが? そもそも前者だけでもかなりのことだと思いますが如何だと思いますよ?」


 あの時はアルが危ないと思って父さんに直談判して何とか動かしてもらったが、その日母さんにめちゃくちゃ説教された。なお私兵を動かした理由を父さん、母さんには説明したけどラウラには説明していなかったことを思い出す。この生徒会の面々の中で私兵を動かした理由を知っているのはアルとチャスだけだ。


「ですよね……はい、すみません」


「ま、まぁラウラさん。レイ君はいつも誰かのためを思って行動しますから。今回も同じですよ……多分……絶対とは言えないんですよね……ごめんなさいレイ君」

 

 最初までは僕のフォローをしようとしていた会長だったが、途中から自信を無くしていったのか声が小さくなっていき、最後は謝られた。


「ちょっと会長!? するなら最後までフォローお願いしますって!!」


中途半端なフォローは結構傷つくのである。

……しかもそれを長年の付き合いのある相手からだと尚更へこむ。


「……」


無言で僕から申し訳なさそうに目を逸らす会長。


「そこで目を逸らすの止めて欲しいです会長!!」


「ごめんなさい……レイ君」


「本気の謝罪は更に悲しくなりますからね!?

ーー僕の扱いはなんなのさーー!!」


 山の頂上に僕の心からの叫びが響くのであった。





そして次の日……


「さぁ皆さん、下りますよ!!」


と朝から元気一杯の会長。


「えぇ……下りたくない……」


「後輩クン~おんぶしてください~あとで何してもいいですから~」


「ち、ちょっとベスランド様!? 何を言っているのですか!?

ーーお兄様!! 妹の私ならおんぶしても何も起きませんよ!!」


 と降りることに文句を言う体力が無かった三人組。一応寝たのでそれなりに体力が戻っているだろうけどそれでも上りの疲れを身体が覚えているのだろう。

……あと、僕だっておんぶして下りるのは疲れます。アルやミラではないんです。


「いやチャス、アリーヌ先輩にラウラ……下りれば休めるんですよ? あともう少し頑張りましょうよ」


「うぅ……後輩クンが厳しいです……」


「お兄様が厳しい……」


「へいへい~頑張りますよ……頑張って降りるぞ~」


「というか3人は何で魔法を使わなかったの? 使えば楽になると思うんだけど」


「「あっ……」」


3人とも同じ様な反応をしていた。この様子から察することはただ一つ。


「まさか忘れていたの……? チャスはいいとしてラウラも?」


「あれ、私ってそんなキャラなの?」


「だ、だって学校行事ですし……」


「疲れていて忘れていたわ……よし、なら帰りは」


「何を言っているの3人、魔法使うのは禁止です

ーー使ったら先生に報告しますからね?」


「「は~い……」」


会長に教師に告げ口をされるのを恐れて渋々、彼女の命令に従うのであった。


結局、3人は最後まで魔法を使わず山を下りたのだが……まぁその結果は3人ともへとへとになっていたのであった。

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