掃除をしよう

 とある日の休日……


「よいっしょ……そっちはどうアル?」


 僕は手に持ったゴミを下ろして一息をついて、後ろにいたアルに声をかけた。


「こっちはもう少しで終わりそうだぜ、坊ちゃん

ーーにしても悪いな、休日に俺に付き合ってもらって」


 彼は頭にタオルを巻き僕よりも多い量のゴミを運んでいた。アルは見た目も相まって頭にタオルを巻いているのが非常に似合っている。

……夏場とかトングを持って肉を焼いていそう。しかも焼くの上手いやつ。


「良いって、僕暇だし」


 僕達がいるのは学園の中にある学生寮である。その中のとある一室で僕とアルは学園指定のジャージに着替えて休日返上で掃除をしていた。僕は基本的に暇なのである、言っておいて悲しくなるが。


「にしてもすげぇな、坊ちゃん。まさか教師達に寮の事を交渉するなんて」


「まぁ流石に家が無いっていうのはマズいかな……って思ってね」


 数日前、僕は教師達にアルの寮の件を交渉した。最初は寮の部屋が一杯だと取り付く島もないと状況だったが、彼が類まれな魔力を持っていることの他国に取られていいのか、そしてここは学園なのだから学園が学生を守らなくていいのかと話したら、教師達も渋々学生寮で物置部屋として扱われていた部屋を借りた。

……まぁその際にアルと喧嘩した教師の秘密とハーストン家の権力を使ったのだが、結果オーライというやつだ。


 その代わり部屋を借りる条件として部屋の掃除は僕とアルと2人がやることになり、そうして休日に学園に登校して2人で掃除をしているのである。朝早くから始めた掃除も昼になる頃には部屋にあったゴミは無くなって、スッキリとした部屋になった。


「結構かかったな……」


窓を開けると新鮮な風が部屋に入ってきた。

……やっぱり換気は大切なんだと思う。


「おう、そうだな。というかこの部屋って他の部屋よりも広くね? 特別待遇ってやつか!!」


「ハハハ……ある意味そうかもね……」


 特に僕と君はある意味特別扱いされてますからね。


「ところでアル、君の私物は?」


「ん、私物はこれだけだが」


 とアルが指をさした方を見るとそこには少し大きめのリュックがあった。


「えっ!? あれだけなの!? 教科書とは服はどうしたの!?」


「教科書は基本的に教室に置きっぱなしだし、服は制服以外あまりないからな」


「お、おぉ……?」


 例えそうだとしても荷物少なすぎやしないか? 会長の一泊の荷物の半分以下の量だ。前に会長に気になりそんなに持っていく必要ありますかって聞いたら、“レイ君ってデリカシーが無いですね”と言われてしまった。デリカシーって何だろうか? なんて言ったら会長に長い時間怒られるから言わない。


「それに寮生活ならベットあるし、机もあるし最低限度のあるからな。物が無くてもいいだろう?」


「た、確かに……」


「よし、これからは安心して夜寝られるぜ!! いやぁ~今までは夜は周りに罠とか張っていたんだが今日からそんな手間も無くなるぜ!! あんがとよ坊ちゃん」


「今までどんなサバイバル生活送っていたんだよ……」


 本当に良く今五体満足で生きていると思う。


「うっし、片付け終わったしメシにしようぜ。にして便利だよな~休日も学食やってるなんてな」


「まぁ寮があるんだからなきゃ困るでしょ」


 この学校は寮があるためか休日も学食がやっている。平日に比べてメニューの数は少ないものも、寮生活の学生は学園の外に出るために申請が必要なので、結構助かっている学生もいるとのこと。僕は勿論実家から通っているので、その恩恵にあやかったことはないが今日はその恩恵を感じることになりそうだ。


「いねぇな人……」


「まぁ寮生活の学生ぐらいしかないからね」


 僕達はジャージ姿のまま学園内のある学食に向かった。寮住まいの学生が何人かいるぐらいでいつもの昼の騒がしさは無かった。


「さっ、飯食べるか」


「おうよ、坊ちゃん何食べる?」


「適当に選ぼうかな、アルは?」


「超スタミナ定食一択だな」


「おぉ……よくあんなカロリーの塊みたいな定食食べれるね……しかもほぼ毎日じゃないか。というか今日休日だから販売されているの?」


 アルが好んでほぼ毎日のように食べている超スタミナ定食は揚げ物が山盛りに盛り付けられている定食で僕は今までアル以外にこの定食を食べている人を見た事ない。そして今日は休日、流石に生徒がいつもより少ないのにその定食が売られているはずが……


「超スタミナ定食1つ」


「はいよ、いつもありがとうね~

ーー超スタミナ定食、1つ宜しくね」


 元気な学食のおばちゃんの声が聞こえた。


「あんのかい!!」


 何で需要が少ない定食がこんな休日にも販売されているのか疑問だ。そしてこの学食のおばちゃんも毎日いるような気がする……。


「お~い坊ちゃんも頼まねぇのか?」


「あ、あぁちょっと待って」


 この学食の奇妙さに驚きながらも注文をしに行くのであった。

……結局僕は普通のパスタを選んだ。




「ふぅ……食った食った」


 僕達は中庭のベンチで食休みをしていた。アルはいつもの様に超スタミナ定食を平らげていたのだが僕はその量を見るだけでお腹一杯になってしまう。


「だね……この後どうする? まだ手伝うことある?」


 時間は昼過ぎで、僕は今日特にやることがないのでこれから掃除があるって言われてもやるし、適当に家に帰って本でも読もうかなと思っていたぐらいだ。


「いやあとは俺1人で何とかなるから坊ちゃんの助けは大丈夫だ。

ーーそれよりも坊ちゃん頼みあるんだが」


「なんだい?」


「一発さ、坊ちゃんと組手してみたいだよなぁ」


「えっ……僕と?」


「そうそう、荒れていた際に強そうだ奴とやりあったんだけど、全員弱くてさ。だけど坊ちゃん、体術得意なんだろ? マジで一度やってみたいんだよ」


「そりゃ魔法使えないから護身術程度は習得したよ……」


 ミラやオピニルさんに体術や身体の使い方を学んでなんとか近距離ならそれなりに魔法を使われてもなんとかなる程度にはなった。正直、僕はそこまで強くはないのでアルの相手にはならないだろうと思う。


「程度って言うけど一度相手になってくれよ~」


 絶対、アルと1戦やったら掃除以上に疲れる。なんせ相手はミラと同じぐらいの体術の使い手だし、何よりも魔法の適性もある。そんな相手と組手なんてしたら絶対疲れる。だが僕達は掃除をしたあとだったのでジャージなので普通に運動も出来る。


「はぁ……1戦で良い?」


 あまり乗り気ではなかったがアルからの頼みというのもあって断るにもいかず、1戦だけ引き受けることにした。まぁ食事後の運動としよう。それに僕自身もアルの実力を試してみたいという考えもあった。


「うっし!! 良いぜ!! 一回でもレイ・ハーストンとやりあえるなんて身に余る光栄だな!!」


 学生達は僕と戦う事を嫌うのにアルは僕と戦うことに逆にノリノリなのである。

……本当に不思議な人間だ。


「そうかなぁ……? 場所はどこで?」


「ここで良くね?」


確かに休日だから元々学園に人はいないので中庭で僕達が組手をしても、そこまで騒ぎにならないだろう。


「はいよ。じゃあ早速やる?」


 僕はベンチから立つと軽く準備運動をし始めた。その様子を見て、アルはニヤッと笑うとベンチから立ち上がると同じように準備運動をし始めた。そうしてお互い準備運動が終わったところで向き合うように立ち、お互い拳を構えた。


「おうよ。

ーーんじゃあいくぜぇ!!」


「よし、こい!!」


僕達の中で戦いのゴングが鳴った。






10分後……


「ったく強えぇな坊ちゃん……」


「そう言うアルだって……充分強いって……もう無理」


僕達は芝生に倒れこんでいた。

お互い10分間、本気で組手をしていたので結構疲労困憊なのである。

なんせ一発目のアルの右ストレートを躱してからお互い派手に身体を動かしていたからだ。


「これでアルは魔法が使えるのか……僕勝てないじゃん」


 さっきの組手は魔法禁止だったので互角だったが、僕は元々魔法が使えないのであまりその制約が意味がない。寧ろ不利になったのはアルの方で、魔法が使える状態だったら遠距離から魔法を撃たれて僕は一方的にボコられる。


「いやなぁ……実はさっきの組手で魔法撃てるかって想像したんだが、近距離なら坊ちゃん撃たせてくれる隙作らせないだろ……」


「まぁ近距離での戦い方はそれなりに心得ているからね……魔法撃たれたら僕おしまいだからさ」


僕自身が自分の能力が分かっているため、弱点をカバーするために色々と考える。いつどこで酷い目に合うか分からないのでとりあえず接近戦では負けないようにしているのだ。

……ミラ、オピニルさん本当にありがとう。


「よく考えてんなぁ……久しぶりだぜ……ここまで楽しかったのは、もしかしたらこの学校に転校してきて一番楽しかったかもしれねぇな……」


なんて満足そうな顔をするアル。


「楽しんでもらえたら幸いだね……もう今日は何もしたくない……疲れた……」


さっきまで家に帰って何しようかな……って考えていたのに今はもう何もしたくない。今すぐ自分のベットに行って何も考えずダイブしたい。なんなら明日に疲れが続く気がする。


「奇遇だ……俺もだぜ……」


「「うげぇ……」」


と僕らは同じ声を上げながら地面に横になっていた。


結局その日はしばらく中庭で横になり休んだあと、僕は屋敷に戻った。


「た、ただいま……」


「お帰りなさいお兄--

ーーど、どうなさいましたか? とても疲れているようですが……」


「ハハハ……少し運動をね」


屋敷に帰るとラウラが僕の疲れた表情を見て、不思議そうにしていたがアルと組手をしていたなんて言ったら彼女に何言われるか分からないので誤魔化すことにした。


「はぁ……」


ラウラは僕の返答に納得がいっていない様子だったがそれ以上は聞いてこなかった。

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