それが僕だ
オピニルさん達に道中守られながら僕達3人は僕の屋敷に着き、僕は2人を客間に通した。
「おぉ……流石国内有数の貴族の屋敷だね……というか椅子がフカフカ!! 私の店の椅子も全部これに入れ替えたいなぁ……レイお願い!!」
客間に入った途端、はしゃぐアルマンダさん。
「何を言っているんだよアルマンダさんは……あっ、トリスケール君も座って」
「お、おぅ……」
いつもは不愛想なトリスケール君も僕の屋敷に広さに驚いているようだ。僕も転生したころは屋敷の広さに毎日驚いていたが、もうこの屋敷で10年以上暮らしていると慣れてしまう。一応僕らがいる客間は屋敷で一番小さい客間だがそれでも僕達が通っている教室2個分の広さはある。
「ねぇねぇレイ、この高そうなお菓子食べていい!?」
「はいはい、食べながら話でもしようか。
ーーオピニルさん、お茶お願い」
「かしこまりました」
そして僕達はオピニルさんが持ってきたお茶とお菓子を食べながら今日あったことを話した。その話の中でアルマンダさんがトリスケール君が襲撃されるかもしれない場所を予測したと話したときは彼は突如大笑いし始めた。
「おいおいマジかよ!! まさか同学年の情報と予測で私兵動かしたのかよ!! すげぇな!!」
トリスケール君は僕が私兵を動かした理由を聞いて大きな声で笑い始めた。まぁ普通大して親しくもないどころか少し前に悪態をついてきたクラスメイトを助けるために自分の家に私兵を動かさないだろう。
「ハハ……アルマンダさんの情報は信ぴょう性のあるし、もし失敗しても僕1人の勘違いで済むからさ
ーーまぁ今回はアルマンダさんの情報が正しかったから助かった……もし間違っていたら母さんに何言われるか……あぁ何か寒気がしてきた……」
もし今回アルマンダさんの情報が間違っていて私兵を動かしていたら……母さんの笑顔で説教が始まる。
「ど、どうしたのレイ? なんか顔色悪いよ?」
「まぁ……僕にも事情があるんだよなぁ……」
僕の母さんはいつも笑顔でおっとりして優しいのだが怒るととんでもなく怖い。その怖さを知っているのは父さん、僕、ラウラだけだ、
「というか何故そうなるかもしれないって思ったんならどうして私兵を動かした?」
「だってそれは君が正しい事をしていたからだ」
「はっ?」
「だって君が今まで問題や喧嘩を起こしていたのって誰かを助けるためでしょ?」
「おいおい、何を言っているんだ……?」
「まず初日に喧嘩を吹っかけてきた連中はその直前に平民出身の学生を虐めていた、3日目のはまぁほぼ同じ理由でしょ。5日目の教師は女子学生の理不尽に説教していて、その上自分の立場を利用してセクハラまがいの事をしていた。どっちも本人、周りからの証言も確認済み」
「お前……どこまで調べた」
「とりあえず気になるところは調べた、かな」
「はぁ……お前って貴族の子息らしくねぇな。何でここまでするんだ?」
「それは君が正しい事をしていると思ったからだ」
「……」
「ほぅ……」
トリスケール君は真面目な表情をしながら、アルマンダさんは僕の事をニヤッとしながら見ていた。
「だって君は他の学生が見ないふりをしていた事に対して怒ったんだ。それはとても素晴らしい事だし、正しい事だ」
多少暴力的な行動であったのはいけない事なのだが、それでも彼が正しい事をしていたのは確かだ。誰も助けようとしなかった人達を彼は助けたのである。
「僕は正しい人の味方でありたいからさ。だから君を助けた、それだけの理由」
勉強も得意じゃないし、魔法なんて使えないし僕は家柄だけでこの学園にいるような人間だ。それでも僕は正しい人間でいたい。せめて人に笑われないような生き方をしたいと思うのである。
「フン……お前って本当に面白れぇーーな!!」
トリスケール君は僕の事を鼻で笑うといきなり大声を出した。
「ち、ちょっといきなり大きな声出さないでよ!?」
……鼓膜破れると思ったわ。
それぐらい大きいのである、ちなみにアルマンダさんは涼しい顔をしていた。多分魔法で軽減したのだろう。
「大貴族の息子がこんな事言うかよ!! 本当に馬鹿だぜ。
ーーでも見ていて飽きないだろうなお前は!!」
「あ、飽きない……?」
いきなり大声を出してきたと思ったら人を“馬鹿”と呼び、その挙句今度は“見ていて飽きない”と言われた。何だろう……ちょっと何言っているか分からない。僕は動物なのか?
「ハハハハハッーー!! 2人とも面白いって!!」
隣のアルマンダさんは腹を抱えて笑っていた。
……ちょっと君、失礼過ぎない?
そこまで笑う必要あるかな……と思う。
「2人とも……はぁ~まっいいか、何事も無かったし。あっ、そういえばさトリスケール君」
「なんだ?」
「君ってなんで学生寮に入らないんだ?」
「あっ、そう言えば何で?」
そもそも今回の襲撃も彼が学生寮に入ってさえいれば免れたかもしれないのだ。今回の件が一段落したので気になり聞いてみることにした。
「学生寮……あっ」
「「ん?」」
「申請忘れてたわ!!」
「「何してんの!?」」
「だよな~それ俺も思うわ!!」
「「笑えないって!!」」
目つきがいかつい転校生は竹を割ったような……いや割りすぎている性格であった。
それから彼の寮のことをどうするかを決めてその日は2人に護衛を付けて帰した。
僕 が私兵を動かしてから数日後……学園にてアルト・トリスケール君はいくつか変わったことがある。
「おい坊ちゃん、どこいくんだ?」
後ろからアルが声かけてきた。
あの件があって以降、彼は僕と一緒に行動するようになった。呼び方は何故か“坊ちゃん”なのは気になるけど、まぁそこまで気にすることはないのだろう。
「僕? これから学食に昼飯に行くよ。アルもどう?」
彼が僕を“坊ちゃん”と呼ぶように僕も彼を“アル”と呼ぶようになった。
「坊ちゃんに誘われて俺が断るわけねぇじゃん。いつものようにチャスやルネフも呼んどくか?」
「だね、呼ぼうか」
「おうよ!!」
僕とアル、ミラ、アルマンダさんはよく4人で食べている。まぁ僕も含めて4人は学年ではぐれ者なので他に食べる相手がいないというのもあるが同じクラスというのもあって話が合う。今までは男子1人だったのがアルが増えたことで男子と女子が同じ数になったことでそれなりに気を使わなくて済む。
そしてもう一つは……
「今日から生徒会主務補佐になった高等部1年アルト・トリスケールだ!! 坊ちゃんの足を引っ張らないように頑張るぜ!!」
僕の後ろでアルがいつも通りの大きな声で会長に自己紹介をしていた。
「あ、あの……レイ君? 彼は一体……?」
いつも微笑んでいる会長が珍しく驚いている。会長はさっき大きな声に驚いて書類を落としかけていた。
「いや……実は彼、結構問題を起こしていたせいで結構色々と評価悪くて……僕が彼のお目付け役になっちゃって……」
今までの行動もあってか退学一歩寸前までいったのだが僕が何とか話をして、生徒会の手伝いをさせるとととその際に行動に僕が全て責任を持つことでなんとか退学は回避させた。
……まぁ、その際に少し家の力を使ったが。
「あ、あぁ……なるほど……そういう理由だったんですか……
ーーこ、コホン!! トリスケール君、ようこそ生徒会へ。私は会長のフローレンス・ライシングです。これから生徒会の仲間として宜しくお願いね」
「おう!! 宜しく頼みまーーす会長!!」
「そ、そう……宜しくね……」
会長がアルの勢いに若干ひいている。
それもそうだろう、彼女の周りに今までアルみたいな性格の人間はいなかったからだ。
彼女にとってある意味、新しいタイプの人間なのだろうと思う。
「レイ君……貴方って本当に不思議な子ね……
ーーで、その後ろの女の子は誰かしら……?」
と会長は僕の後ろのいるアルマンダさんを苦笑いしながら見ていた。
「隣のトリスケール君と同じく主務補佐のチャス・アルマンダで~す」
「あぁ彼女はーー」
「ーーちょっとお姉さん、主務補佐が女の子って聞いてませんよ!?」
と僕が彼女の事を話そうとした瞬間、会長に僕の襟を掴んで前後に揺らし始めた。
……ば、バカないつの間に僕の目の前に?
この僕が気づかないだと……!! そして何か見た事ある、この風景。
「か、会長!? や、やめて……首を揺らさないで……!!」
華奢な見た目とは裏腹に結構強く振る会長。
「いいから話しなさい!! 何言っているか聞こえません!! 大体、貴方は何で毎回毎回女の子の知り合いが増えていくのかしら!?」
「か、会長のせ、せいではなせーー」
……あ、あれ、おかしいなぁ、なんか視界が暗くなってきたぞ。
「もうレイ君の馬鹿ぁーー!! お姉さん知らないからね!!」
「ぼ、僕……こ、今回わ、悪くない……はず……
ーーぐほっ……」
僕はそのまま気を失った。
……理不尽で、ある。
「で、レイ君、アルマンダさんが入った理由を会長の私に教えてもらえる?」
何事も無かったかのように椅子に座り会長モードになる姉さん。
彼女はプライベートではさっきのような年相応? の口調や行動になるのだが普段の学園だと会長モードとしていつも微笑んで落ち着いている。
「あの会長、しれっと何も無かったかのように言ってますけど僕、会長のせいで気を失っていたんですけど……」
「何かしら主務?」
笑っているけど目が全く笑っていない会長。
……うん、会長かなり怒っている。
「は、はい……」
「うわぁ……生徒会の上下関係垣間見たなぁ……」
「だな」
僕と会長の事を好き勝手言う2人。
「うるさいな、2人とも……。
ーーで、話しますけど。彼女、チャスの情報収集能力は目を見張--」
「チャス!? いつから名前で呼ぶようになったの!?」
……また会長が騒ぎ出してきた。
「か、会長落ち着いて……それは前にそういう話になって……」
「私から言いました~私が彼を名前で呼ぶので、ならレイも私を名前で呼んだらって話をしたんですよ~」
前にチャスから“私もレイって呼んでいるから私のチャスと呼んだら?”って誘いがあったので特に断る理由も無かったのでその提案を受け入れた。
……今回は素直にチャスに感謝したい。
「ふぅ……命拾いしましたねぇレイ君」
怖い怖い怖い!!
なんか僕全く悪くないのに命の危機に瀕していた。
……これが悪役キャラの宿命なのだろうか?
「あ、ありがとうございます……で話を戻しますが、チャスの情報収集能力は優秀で目を見張る事があったので僕が生徒会にスカウトしたんですよ」
今回のアルの件もあるし、彼女は何故か様々な情報を持っている。それなら生徒会に引き入れた方が生徒会にメリットもあるし、何よりも生徒会に入ったことで平民出身の彼女の待遇が少しは上がると思ったのである。無論、このことは誰にも言っていない。
「へぇ……本当かしらレイ君?」
隣の会長は僕をジト目で見てくる。
「いやいや本当ですって!! お、おかしいなぁ……なんで僕ってそこまで信頼ないかなぁ……」
「レイ君、学園創設以来の問題児の貴方が何を言うのかしら?」
「せ、正論が刺さる……」
会長を始めとする学生が思っている正論が心に強く刺さる。
何度も言わせて欲しいのだが僕は自ら問題を殆ど起こしていない……多分。
この日から生徒会のメンバーにアルとチャスが入荷したことで更に騒がしくなるのであった。
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