みんなお願いしまーーす!!

「で、その場所はどこなんだい?」


僕はアルマンダさんの案内の元、夕暮れの町を走ってトリスケール君が襲われるであろう場所に向かっていた。彼女は補助魔法を使っているためか僕が全力疾走しているのに涼しい顔で着いてきている。

……僕も魔法が使えたらいいのになと尚更思ってしまう。


「トリスケール君の住んでいる家の近くだよ」


とアルマンダさんは当たり前のように言ってきたがいきなりトリスケール君の住んでる場所って言われても知らないって、なんて思いながらその場所を当たり前のようにいう彼女は本当に良く知っているなと思う。

……本当の町のカフェの看板娘? なんか国のエージェントじゃないかと思ってしまう。


「本当に君って何者なんだい……でも住んでいる家の近くなら周りに人住んでるから闇討ち出来ないでしょ?」


「彼、家ないよ?」


「はっ?」


家がない……? それはホームレスなのでは?


「彼、ホームレスだし」


「ホームレス!? いやいや希望者は学生寮入れるでしょ!?」


この学園には遠方から通う学生のための学生寮がある。別に遠方ではなくても本人の希望と家族からの了承があれば入寮できるのだが何故か彼はこの寮に住んでいないみたいだ。


「何故か彼入ってなくて学園から離れた河原の小さな小屋に住んでるよ」


「身の危険とか感じないのかな……!! 自分が学生だって自覚あんの? というか今までよく襲われなかったな」


「さぁ何でだろうね? その理由まで私には分からないさ」


「全て終わったら聞いてみるか……ところで河原って町の外れの河原かい?」


「イエス」


「じゃあ先に僕の屋敷寄ってもいい? 学園から河原に行く最短ルートに屋敷通るからそこまでタイムロスはしないはず」


「屋敷で何をするつもり?」


「少し準備をかな……」



道中にある僕の屋敷で僕は屋敷の人と少し話をした後、僕達は再びトリスケール君が住んでいる? 河原に向かって走り出した。


「さっき執事みたいな人と話していたけど何を話していたの?」


「僕なりに準備をね。なんならアルマンダさんは僕の屋敷で待っていても良かったのに」


「だからさっき言ったでしょ? “自分の身は自分で守る”って

ーー私こう見えて攻撃魔法得意なんだぜい? 特に火と風はね」


「そうとは言っても君、女の子だし……」


一応こちらもそのための準備をさっき寄った屋敷でしたのだがそれでも心配なのである。出来れば僕個人としては屋敷にいて欲しかったのだがアルマンダさんは断固として首を頷かなかった。


「女の子扱いしてくれるのは嬉しーー

ーーあれ、彼じゃない?」


僕達が町を抜けて河原に続く郊外の道を走っていると遠くに見覚えがあるブレザーをきた男子生徒が見えた。後ろ姿がトリスケール君に似ているような気がする。後ろ姿を見る限り、まだ襲われていないようである。


「おーいトリスケール君!!」


僕が彼の名前を呼ぶとこちらを振り向いた。どうやらトリスケール君で正解のようである。僕達はそのままスピードを落とさずに彼の元に向かった。


「……何してんだお前ら?」


走ってきた僕達を見てトリスケール君は訝しげにみてきた。それはそうだろう、いきなりクラスメイトが誰にも言ってない自分の住処の近くに来たのだから疑うのもおかしくない。


「よ、良かったまだ何も起きてないようだね……」


僕は彼が無事みたいで一安心する。

……あぁ安心したら一気に疲れが出てきた。


「うむ、それだったら良かったんだけどね

ーー少し遅かったみたい」


「「はっ?」」


と僕と彼が声をハモると周りの茂みからから男性が数人出てきて、僕達3人は囲まれてしまった。とりあえず僕達3人は背中を合わせて身構えることにした。


「うわぁ……私の予感的中だよ~当たって嬉しくない予感は久しぶりだけどさ」


「……これはなんだ?」


「こいつらは君が今まで倒してきた奴らが雇ってきた傭兵みたいだよ」


「ハッ、あいつらそれだけでここまでやんのかよ。つくづく馬鹿な奴らだな。てかなんでお前らはここに来たんだ?」


「それはね、このお人好しで甘ちゃんのレイがトリスケール君の事が心配で私の静止を振り切ってきたんだよ~私は渋々一緒にって感じ」


いきなり嘘をつくアルマンダさん。


「嘘をつかないでほしいな!? 僕何度も君の事止めたよね!?」


「えぇ……私シリマセ~ン」


「ちくしょう……覚えておけよ……!!」


前から思っていたけど僕、この子苦手だ。なんだろうかこの掴めない感じが苦手である。


「お前ら、いちゃつくな……とりあえずこいつらの目的は俺ってことか? ここは俺がどうにかするからお前らは隙を見つけて逃げろ」


「そうだったはずなんだけど……この状況を見てしまった私とレイも追加かな~」


「というかトリスケール君でもどうなるか分からないよ、相手は戦闘のプロだよ?

ーーだから僕も戦闘のプロを呼んだ」


「はぁ? お前は何を言っているんだ? どこにもいないだーー」


僕はトリスケール君が何か言う前に大声を出した。


「ってことでみんなお願いしまーーす!!」


「「はっ!!」


と突如付近から野太い声が聞こえてきた。そうしてさっきまで傭兵達が隠れていた茂みの後ろ側から傭兵以上の数の筋肉隆々の男性達が出てきた。その中には一人だけ燕尾服に身を包んだ白髪の老人がいた。


「レイお坊ちゃま、ここにハーストン家の私兵只今参りましたぞ」


と言うと白髪の男性が僕に頭を下げてきた。


「僕のわがまま聞いてくれてありがとうね、オピニルさん」


白髪の老人の名前はサウス・オピニルさん。僕の家、要するにハーストン家の執事長を務めている。この人は僕の祖父の代からハーストン家に勤めており、楽しみが僕とラウラを毎日見送り、無事に帰ってくるのを見ることらしい。


「いえいえ我が主の願いとあれば叶えますとも、ですが私だけの一存ではどうにもならないのでまさか旦那様にお話しされるとは、私驚きましたぞ」


僕が屋敷に寄った理由はハーストン家の私兵を呼ぶためだった。屋敷に寄った際にオピニルさんに話をして屋敷で暇していた私兵を借りてきたのであった。まぁ僕の一存だけじゃどうにならないと思ったけど早めに仕事を終わらせて帰ってきた父さんに事情を説明して私兵の数人を借りた。


「やぁ……本当に感謝してます。

ーーってことで傭兵さん達、顔色悪いよ?」


そして“ハーストン家の私兵”って聞いた途端、顔色を悪くする傭兵達。それもそうだろう、なんせ“ハーストン家の私兵”って王国の中でもかなりの強さを誇っている。王国に住んでいるなら余程頭が悪くなければ自分が置かれている状況は分かるだろう。


「ホォッホォッ……では始めますかの。レイお坊ちゃま、そしてご学友殿、少々お待ちくだされ

ーー数分で終わらせます故に、皆の者、行きますぞ」


「「はっ」」


まぁそれからの流れは早かった。オピニルさん含む僕の家の私兵達が傭兵達を圧倒して全員捕縛して終わった。流石ハーストン家の私兵だなぁなんて思っていると隣に立っていたアルマンダさんがポカーンとした表情を浮かべていた。


「わぉ……本当に数分で終わらせちゃったよ……君の執事凄いね……」


「い、いや……僕も改めて思うよ」


「--レイお坊ちゃま、こちらの処置は完了致しました。この者達はどうしますか?」


「そうだね、こいつらは近くの憲兵でも突き出そう。オピニルさん、ありがとうね」


「いえこれぐらいハーストン家の執事として当たり前のことです。それよりもレイお坊ちゃま、ご学友殿お怪我はございませんか?」


一通りの作業を終えたオピニルさんは僕達の方を見ると怪我の確認をしてきた。


「僕は大丈夫だよ」


「私もです」


「……俺も大丈夫です」


なんせ何か起きる前にオピニルさんが終わらせてくれた。いやぁ……強かったな僕の家の私兵。特にオピニルさん、年齢を気にしない身体の動かし方で傭兵達を圧倒していた。

……しかも魔法を一切使わず。


「それはとても良かったです。

ーーここで話は何ですから是非、我が主の屋敷にてお話しませんか?」


「そうだね、2人はどうかな?」


ここに留まっているとまたいつ襲われるか分からない。であるならば僕の屋敷の方が話をするならはるかに安心だ。隣のアルマンダさんを見ると目をキラキラさせて


「えぇ~私気になるから行ってみたい!!

ーートリスケール君も行ってみようぜい?」


とっても乗り気だった。


「俺は別に……」


トリスケール君はあまり乗り気じゃなさそうだ。


「トリスケール君は無理しなくてもいいけど。とりあえずこの場所危険だしどうかな?」


「あぁ……分かった」


「よしじゃあ僕の屋敷に行こうか

ーーオピニルさん、道中お願い」


「かしこまりました、屋敷までの道中は私どもがお守り致します」


と僕達は僕の屋敷に向かうことにした。




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