どうするか
「はぁ……本当にどうしよう……」
「へいへいレイ、どうしたんだい? そんな世界の終わりのような顔をしちゃってさ~笑おうぜ~」
「アルマンダさんか……今さっきまで転校生の件で呼び出しだよ」
最近、毎日の恒例になりかけている教師からの呼び出し。呼び出される理由は勿論、転校生アルト・トリスケールの事だ。最近も最初の1週間程ではないが校内で小さないざこざを起こしているため生徒会役員で問題児? である僕に教師達は言ってくる。教師なんだから自分達で解決しろと日々思っているが彼が教師よりも普通に強いので教師達も対応に困っているのだろう。
「同じ問題児だからか~よっ、問題児」
「問題児なのは否定しないけど……いや僕は問題児なのか?」
「まぁ色々と問題起こしているらしいじゃんか~
ーー知らんけど」
「おい」
じゃあ何故言ったし。
「まぁまぁ大貴族の長男なんだから落ち着いて~悩みがあるなら私の実家に来なさいな。甘い物でストレスフリーなんてどうだい?」
「しれっと自分の店の宣伝するんだね……」
「まぁ飲食店の娘だからね~
ーーって話をしているとまた転校生君、やらかしているみたいだよ」
とアルマンダさんが指をさした方をみるとそこには例の転校生アルト・トリスケールが1人が数人を相手にして圧倒していた。
「またか……止めに行くか」
出ないとまた何言われるか分からないだろうし。
「じゃあ私も行こうかな~野次馬楽しいし」
「野次馬かよ……って行かないと」
僕とアルマンダさんは転校生が暴れている中庭に向かった。
「オラッ!!」
「ぐっ……」
そこではトリスケール君が1人を殴り飛ばした後だった。
「ストップーー!! 全員喧嘩を止めて」
「あぁ……?」
僕が止めに入ると睨んでくるトリスケール君。
……おぉ、結構怖い。
逆に彼と対立してた集団は僕が現れた瞬間、助けを求めるように僕の方に飛び込んできた。
「お、おい助けてくれよ生徒会だろお前!!」
「そりゃ僕生徒会だけど……とりあえず両者とも話を聞かせてもらうからね」
「……」
「って言った側から去ろうとしないでもらえるトリスケール君」
しれっとその場から去ろうとした彼を僕は見逃すわけがない。
「……チッ」
彼は憎々しく僕の方を見てきた。いやぁ怖い怖い。
「あいつが殴ってきたんだ!! 俺達は何もしてないんだ!!」
「……って言ってますけど主務さんや、どうします?」
「どうしようかな……とりあえずこの場を無かったことにしようかな」
「お、おい!! なんで無かったことにすんだよ!! 俺達は被害者なんだぞ!!」
「学園で問題児扱いされている僕が言うのもなんなんですけど先輩方って学園内での評判あんまりよくないですよ
ーー今回の件は本当に先輩方は何もしてないんですかね?」
今、目の前にいる上級生達は日頃の行いはあまり良くなく、自分より出身が低い学生をよくイジメておりまるで本来のレイ・ハーストンのような事をしている。前から生徒会の中でも彼らは悪い意味で話題になる連中なのだ。
「当たり前だろ!! 俺達は何もしてない!!」
「本当に何もしてないんですか? 今なら僕は何も見なかったことにしておけば先輩方は怪我だけで済みますよ? もし先生を呼べば怪我だけでは済まない可能性がありますよ」
「くそっ……お前ら帰るぞ
ーーレイ・ハーストン、てめぇ覚えておけよ……!!」
とリーダー格の男は不満げにその場から去っていった。
「うわっ、本当にあのセリフ言う人いたんだ……」
「いるんだねぇ……にしてもレイって意外と言う時は言うんだねぇ~先輩相手にあそこまで啖呵を切るなんてクラスメイトとして誇らしいよ」
「だって前からあいつら前から評判良くなかったからね
ーーなんならその情報はアルマンダさんの方が知ってるでしょ?」
「はっはっはっ、そんな私が知ってると思う? 私が知っているのは彼らがしてきた恐喝や暴力、それらを親の権力で握りつぶしてきた等々かな~」
……この子、絶対知っている。なんせ原作でも情報収集は得意なのだから。
「充分知ってると思うんだよな……なんなら僕よりも知ってるんじゃないかな……
ーーあっ、トリスケール君大丈夫?」
「……無事だ」
「そう、なら良かった。でもそろそろ危ないよ? 先生達も君の事を結構問題児扱いしているから……」
「フン、貴族の坊ちゃんは平民の俺にも優しいんだなぁ? 俺よりも問題児扱いされている自分の立場を見直したらどうだ?」
「うぐっ……」
言い方は言い方だけど正論なのが胸に刺さる。
「ちょっとトリスケール君、流石にその言い方はないんじゃないかな……彼は彼なりに考えて言っているんだよ? あまり頭も良くないし気弱な彼なりに」
「アルマンダさんは僕をフォローしたいのか、けなしたいのかどっちなの?」
あとプラスとマイナスの言葉だが後に言った方が相手の印象に残りやすいそうだ。この場合後に言った方
“あまり頭も良くないし気弱な彼なりに”の方がトリスケール君に残りやすい。勿論アルマンダさんはこの事を知っていたかはどうか知らないが何となく知った上でやっている気がする。
「そんなの知るかよ。
ーー話は終わりか? じゃあな」
と言うとトリスケール君はその場から去っていった。
「あっ、ちょっ……はぁ……」
「あらら、ドンマイ」
僕は声をかけてみたものも彼はそのまま足を止めることなく、僕は肩をがっくり落とした。アルマンダさんはそんな僕の肩に手をあてて笑顔で言うのであった。
その日の放課後……
「本当にどうしようかな……彼、全然話してくれない」
僕は中庭でアルマンダさんと話していた。話の内容は勿論アルト・トリスケールの事である。
「本当だね~まさに取り付く島もないって感じだね。
ーーそんなレイに耳よりの情報です!! 今ならトリスケール君とひと悶着あった人物の情報をーー」
「それは大丈夫。だってアルマンダさんの情報料高そうだし。何よりも僕自身も調べたからさ」
実は僕なりに彼と喧嘩やひと悶着あった人物を調べていたのである。まぁ会長やラウラほど要領は良くないので地道にコツコツとだが調べた。
「ほぅ……それはどんな情報だい?」
「今まで彼が喧嘩したり問題を起こした連中は教師を含めて全員があまり良い評判を聞かないって事ぐらいだね」
僕も調べて分かったのだが今回被害者だと思っていた連中は殆ど全員が良い評判を聞かない連中だった。
「レイも中々やるじゃないか~合格~」
「合格って……これって何の試験だったのかな?」
「私の弟子への試験だよ。
ーーっていう冗談はほっといてレイの言う通り。初日と3日目連中は平民や小貴族の子息を虐める。6日目の教師はまぁ酷いの一言に尽きるね。辞めないのはライシング家の遠縁だからってだけだし」
前から聞いていたがあの教師は会長の家の分家出身なのだ。そのため学園で働いているのも、今まで問題を起こしても辞めなかったのは血筋だけである。
「調べた通りだったか……しかも教師に至ってはトリスケール君が殴る少し前に女子生徒に理不尽に怒っていたって本人と周りからの証言も得たんだよな」
「おぉ~そこまで調べたんだ~生徒会主務は頑張るんだな、偉い偉い」
「絶対そう思ってないだろ」
「あっ、分かった? てへへ」
「その笑顔で誤魔化せると思わないで欲しいなぁ……」
「まぁ私の可愛い笑顔で許してくれたまえ」
「はぁ……可愛いのは認めるけど……それとこれは別だーー
ーーってどうしたのアルマンダさん、顔が赤いよ?」
ふと返しの言葉が来ないなと不思議に思い、アルマンダさんを見ると顔を赤くして表情が固まっていた。
「お、おぅ……前にも言っていたのを聞いていたけど自分が言われるなんて思ってなかったな……これが天然の強さか……恐ろしいや……」
なんかよく分からない事を言っていた。
「……ん? 天然の強さ? 僕は自分が思った事を素直に言っているだけなのになぁ……」
前に会長やラウラに言われたのだが僕はどうやら女性に対して失礼な事を言ってしまうらしい。
会長には
“レイ君は女性の容姿を褒めるのはやめましょうか? ほ、ほらレイ君ってデリカシーないですから。で、でもお姉さんには言ってもらって大丈夫ですよ”
なんて言われるし、ラウラに至っては
“お兄様は女性の容姿を褒めるの禁止です、ただし私は心が広いので許してあげますので私には言ってくれて構いません”
と言われたことがある。
それ以降は僕も出来るだけ気を付けているのだが、どうやら僕はまだまだみたいだ。
……でも他人には言ってはいけないのに、会長とラウラは言うのは良いのは不思議である。
「まぁそれが君の良いところなんだろうね。それでなんだけど……」
さっきまでの困ったような笑顔から一転、真面目な顔になったアルマンダさん。
「アルマンダさん?」
「それがね……どうやらトリスケール君に恨みを持っている連中が彼に報復をしようとしているみたいなんだよね」
「えっ……報復?」
「そう、流石に今までに彼色々な方面に喧嘩を売っているからさ……各方面からめっちゃ恨みを買っているんだよ」
まぁそれはそうだろう。この学園にいる学生は大体が貴族の子息か子女である。中には親が偉いのを自分が偉いと勘違いしている輩がいて、そういう輩に限ってプライドは山の如く高いのだ。そんな輩が平民出身のトリスケール君に負けたらその高いプライドが折られて……まぁこれ以上は言わなくても分かるだろう。
「おいおい……それってマズいんじゃないかな……でもトリスケール君強いから……」
「確かに彼は強いけど、それって同年代ではって話でしょ?
ーーでも戦闘のプロが相手ならどうだろうね?」
「まさか傭兵?」
「うん、そうだよ。彼ら傭兵雇ったみたいだよ~集団で
ーー多分今日ぐらいに実行するんじゃないかな」
「それはまずいじゃん!! 助けに行かないと!!」
幾らトリスケール君が強いと言ってもそれは同年代の間での話ってだけであって、戦闘を仕事にしている傭兵が相手だとどうなるか分からない。しかも集団となれば尚更危険だ。
「おいおいレイ、さっき彼は君に結構酷いな事を言ったんだよ? しかもさっき喧嘩をわざとうやむやにしたのに感謝の一言も言わずに去っていったぜい? そんな人を助けるの?」
「まぁ確かにそうだけど、僕が彼を助けるのと彼が僕に感謝を感じるのは別でしょ。
ーーなら僕は勝手に彼を助けさせてもらう」
僕の行いは彼にとってみれば余計なお節介なのかもしれない。だけどそれで彼を見捨てるのは僕はどうしても出来ない。まぁ自分でもお人好し過ぎると思うがどうしても自分の信条は曲げられないのである。
「ハハハッ、やっぱりレイはそうだよね~それが生徒会主務だ!! おっけ~楽しそうだし私も行くよ」
「いやいやアルマンダさん女の子でしょ? これから行く場所絶対危ない場所だよ?」
「私を誰だと思っているんだい?」
と言われたので僕は彼女の印象を素直に言ってみることにした。
「町のカフェの看板娘」
「そりゃそうだけども!! ほら私ってこの学園に特待生で入ってきているんだよ?
ーー魔法が使えないレイよりも魔法の面では戦力になるぜい?」
「そうかもしれないけど……」
「大丈夫だって自分の身ぐらいは自分で守るよ」
「……分かった、僕も出来る限り頑張るけど期待しないでね」
「おうともっ!! さぁ行こうじゃないか学友を助けに!!
ーー場所は何となく分かるから」
「君って一体何者なんだい……」
と僕とアルマンダさんは急いで彼女の予測していた場所に向かうのであった。
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