転校生来たる……?
僕が高等部1年の6月になった頃のとある日の朝礼
「さて今日は皆さんに新しい仲間を紹介したいと思います」
「先生、転校生ですか?」
「えぇそうです」
と転校生の出現に騒ぎ出すクラスメイト達。まぁ確かに転校生がくるってなるとどの学校でも盛り上がるのは変わらないみたいだ。
……だが僕は違った。
(ん……? この時期に転校生だって? そんなのゲームの展開になかったよな……)
主人公が来るのは高等部の2年生である。転校生が来るのは1年早い。まぁゲームの中で紹介されないだけであって主人公の他にも転校生はいたのかもしれないがこの学園に転校生は珍しいので作中で転校生が目立たないことはないと思う。
(あのクソ神がまたやらかしたか? 考えたくないけどあのクソ神ならやりかねない……)
なんせ人を手違いであの世に送った神だ。本来の展開を早めることぐらいしかねない。
(マズいな……まだ根本的な対策が立てれてない。どうするか……バッドエンドが早まるなんて聞いてないしな……)
「どうしたレイ? 顔色が悪いぞ」
隣の席のミラが心配そうに見てくる。
「あ、いや大丈夫だよ、心配ありがとう」
「ならいいのだが……」
パンパンッ
「みんな静かに!!
ーーさぁ入ってきていいよ」
ガラッ
と教室のドアを開けて入ってきたのは長身のイケメンであった。身長は180を超えていて、体格を見ると結構鍛えられていると分かる。だが目つきが結構厳しく、イケメンなのを少し損をしているような気がする。
そしてその男子生徒は教壇の隣に立つと
「アルト・トリスケールだ」
と短く自己紹介をするのであった。
(アルト・トリスケール……? はてゲームにそんな人物いなかった気がするけどな……まぁモブの転校生でもいたんだろうな……うん、そうしよう)
ひとまず僕はバッドエンドを回避したのに胸を下した。
「トリスケール君の席は……ハーストン君の隣が空いているようだね、君の席はあそこだ」
「……分かりました」
と教壇の前から僕のミラとは逆の隣の席に座った。
隣に座ると改めて体格の良さを感じる。
(絶対力強いだろうな……というかこの学園に転校生ってことは魔力も凄いんだよなぁ……あぁ羨ましいなぁ……)
「おい」
「う、うん?」
「さっきから俺を見て何かあったか?」
「い、いや特に意味はないよ。あっ、僕の名前はレイ・ハーストン。トリスケール君宜しくね」
「お前が……レイ・ハーストンか」
何故か僕の名前を聞いた途端、目つきを少し変えるトリスケール君。まさか僕の悪名は学園外でも有名になっているのか? だとしたら結構ショックだな……。
「うん、そうだけど……どうしたの?」
「いや特にないな、気にすんな」
と言い、会話を一方的に切られてしまった。
「そう……」
僕は少し胸に違和感を残しながらもそれ以上は聞けなかった。
アルト・トリスケールが転校してして数日、彼は同じ転校生のアリーヌ先輩と同じように学年構わず注目を浴びるのだが、羨望の視線を集めていた先輩とは真逆に危ない人物として注目を集めていた。
まず転校初日……同学年の貴族の子息8人を1人で全員倒す。
3日目……初日に倒された男子生徒の兄が同じように何人かでアルト・トリスケールに喧嘩を売ったが、初日と同じように彼1人に返り討ちにされてしまった。
6日目……今度は学園の教師を殴り、気絶させた
等など、転校してきてから僅か1週間で今まで学園一の問題児であった僕の悪評判を上回る問題行動を起こしていた。この学園に転校生と来るだけあって魔法の適性はかなりあり、彼自身の腕力も相まってかなりの強さを誇っていた。
……というか個人的にここまでしないと越されない僕の悪評ってどこまでなのかと気になってしまう。
「はぁ……どうしようかなぁ……」
僕は生徒会室の机に突っ伏していた。
僕がここまで疲れている理由は勿論、転校生アルト・トリスケールのことである。
「浮かない顔ですねレイ君、はいお菓子」
といつの間にか僕の隣に立っている会長がお菓子を出しながら話しかけてきた。
「ありがとうございます……聞いてくださいよ……」
「はい、何ですか? 例の転校生の件ですか?」
「そうですよ……生徒会の顧問からは“同じ問題児なんだからどうにかしろ”って言われるし……今回殴られた教師からは嫌味を休み時間たっぷり言われましたし……」
2人とも僕を同じ問題児っていう括りで文句を言うのを止めて欲しい。
“同じ問題児だからハーストンに言えばいい”って考えやめろと思う。
「そ、そうなんですね……レイ君大変ですね……」
「もう無理……」
「あっ……えっと……レイ君、いい子いい子~」
と会長が頭を撫でてくれる。
(あぁ……癒される……会長に頭撫でられるの気持ちいいな……)
まさか会長のナデナデには癒しの魔法が自然に込められているのだろうか。いやこの際はどうでもいい、今はだたただ癒されたい、荒れ果てた僕の心を癒してほしい、キブミー癒し。
「ーーあら後輩クン」
「その声はアリーヌ先輩ですか?」
僕は頭を生徒会室の扉とは逆の方に倒しているためアリーヌ先輩の姿が見れないが、その優しそうな声でアリーヌ先輩だと判断できた。
「はい、そうですよ。
ーーねぇ会長、私も後輩クンの頭を撫でていいかしら?」
「アリーヌさん、今私がレイ君を撫でているの。あとにしてもらえるかしら?」
「会長、もう充分撫でたでしょう? 後輩クンもそろそろ別の人に頭を撫でられたいですよね~?」
「何を言っているのかしら? レイ君は私に頭を撫でられたいですよね~?」
「「フフフッ……」」
僕は2人の表情を見ることが出来ないが多分、2人とも表情こそ笑顔だろうけど目線で絶対バチバチっていう火花が散っているだろう。
「あ、あの2人とも……僕もう大丈夫だから喧嘩は……」
僕は身の危険を感じて立ち上がろうとしたのだが……
「「私が撫でます!!」」
「はっ?
ーーへぶっ」
と2人に突然頭を強く押される僕。
……最早それは“撫でる”ではなく僕の頭を“押さえつける”だ。無論癒しなど一切ない。そしてさっきの押さえつけで頭を机に強くぶつけた。とても痛い。
「アリーヌさん、レイ君が痛がっているでしょ!! 早くどかしなさい!!」
「フフッ、会長こそどかしたらいかが? 貴方の幼馴染が痛がってますよ?」
「や、やめて……痛い痛い」
2人とも相手に負けじと力を強くしているためか僕の頭が更に机に強く押し付けられる。
……何度も言うが癒しではなく、もう痛みしかない。本当に痛い。
「私は会長でお姉ちゃんです!!」
「なら後輩クンは私の命の恩人です。
ーー恩人のために何かをしたいと思うのは変かしら?」
アリーヌ先輩は多分僕達が中等部の時の事件の事を話しているのだろう。僕はそんな大した事をしてないが先輩がそう思ってくれるのは嬉しい……だがそれを今会長の前で言わなくていいと思う。
……だって
「命の恩人……?
ーーまさかレイ君また何をしたのかしら……!!」
激おこの会長。
声が一転底冷えするような声に変わり、見れないが多分顔を真っ赤にしているのだろう。
「待って待って会長!! 僕は何もしてないよ!?」
僕はあの時はただ夢中で先輩の手を掴んで魔力を自分に流しただけだ。
「“僕は”ですって……!!」
「細かい事を気にしーー
ーー痛い痛い!! ごめんだから頭を強く押し付けないでーー!!」
「か、会長……後輩クンがそろそろ辛そうですよ……」
アリーヌ先輩が助け舟を出そうとしたものも会長の怒りは収まらないようで。
「お姉さん命令で早く話しなさーーい!!」
「ごめん姉ちゃーーん!!」
……この後、なんとか先輩の事件の件は誤魔化したが僕の額には真っ赤な跡が残ることになった。そしてその日は終始会長は機嫌が悪かった。
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