なんてこった

アルマンダさんの事件があってから数日後……


「マジか……」


 僕は自室で頭を抱えていた。


「ヒロイン達全員と出会ったちゃった……」


 当初の目的だと会長、ラウラまではしょうがないとしてもミラ、アリーヌ先輩、アルマンダさんと親しくなるとは予定外だった。


「否だってさ……困っていたら見過ごせないでしょ……」


 何故か僕は人が困っているのを見過ごせないタイプである。後者の3人は彼女達が困っているのを助けた事によって話したり親しくなった。何ならミラとアリーヌ先輩に至っては命を狙われていたのにも関わらず彼女達が困っていたのを見過ごせず手を差し伸べてしまった。


「あぁ……何してんだよ僕……」


 敵……ではないけどこれから自分を断罪してくる人達に塩を送っているのだ、なんとも馬鹿だろう。何ならミラとアリーヌ先輩の罪を学校に言えば2人は学校からいなくなる可能性もあった。だが僕の元の性格や自分がはまったゲームのキャラということもあって出来ないのである。


コンコン


誰かが僕の部屋のドアを叩く音が聞こえた。

……多分叩く強さ的にラウラだろう。


「はい?」


「お兄様、ラウラです」


僕の予想的中。

ラウラの兄を10年以上やっているんだ、これぐらい分かるさ。


「ラウラ、どうしたの? 入ってきていいよ」


「失礼します。

お兄様、1つ頼みがあるんですが……」


「うん、言ってごらん」


「確かお兄様のご学友に飲食店を営まれている方がいらしゃったはずなのですが……」


「あっ、アルマンダさんかな。彼女がどうしたの?」


「その御方のお店が前にルネフ様がとても美味しいって仰っていたので私も行きたいのですが、本日のお兄様のご予定は如何ですか?」


 僕に伺うように聞いてくるラウラ。要するにラウラもアルマンダさんのお店に行きたいのだろう。甘い物好きの彼女からしてみればどのような店なのか気になるのも当たり前だ。であるならば僕がすることは簡単。


「行こうか、アルマンダさんのお店に」


基本的に僕は休日暇な人間なのでやることがない。それに可愛い妹の誘いだ、断る理由はない。


「あ、ありがとうございます。では私準備してきますね」


と部屋を出るラウラ、気のせいかもしれないがその後ろ姿は少し嬉しそうだった。



ラウラを連れ立って僕達はアルマンダさんのお店に向かった。


「いらっしゃーー」


「こんにちわアルマンダさん」


僕達の顔を見た途端、お客さん向けの笑顔ではなく、ニヤニヤした笑顔になった。


「おぉ~レイじゃないか~後ろにいるのは妹さんかね?」


気が付いたら僕はアルマンダさんから“レイ”と呼ばれるようになっていた。


「うん、僕の妹のラウラだよ」


と僕は後ろに立っていたラウラに自己紹介を促した。ラウラは僕の後ろから出てきてワンピースの裾を持って挨拶をし始める。


「申し遅れました、レイ・ハーストンの妹のラウラ・ハーストンと申します。

いつも兄がお世話になっております」


「こんにちわ、私はチャス・アルマンダ。チャスでいいよラウラちゃん」


「い、いえ!! 流石に年上の方を呼び捨てなど……で、ではチャス様と呼びます」


「おぉ~ザ・お嬢様だねラウラちゃんって~

ーーさっ、お2人とも座って座って」


「分かった、座ろうかラウラ」


「はい、そう致しましょう」


と僕らは空いている席に向かい合って座った。僕らが座るとすぐにアルマンダさんがいつものようにメニュー表を持ってきた。


「何頼む~?」


「お、おいチャス!! 言葉遣い!!」


アルマンダさんが学園で僕達と話す口調で注文を聞こうとすると厨房にいるアルマンダさんのお父さんの声が聞こえてきた。


「あっ、お父さん僕気にしてませんから大丈夫です」


「お父様、私も大丈夫ですよ」


「だってパパ?」


「……いつも娘がすみません」


「だ、大丈夫ですって。 僕はいつものようにパンケーキかな。ラウラは何を頼む?」


「わ、私ですか? え、えっと…チャス様のお勧めはございますか?」


「え~っとね~パンケーキとかパフェとかどう?」


「確かお兄様はパンケーキですから、私はパフェを頼んでもいいですか?」


「はいよ~。パパ、いつものパンケーキとパフェ1つね」


「か、かしこまりました!! 少々お待ちください!!」


「もうパパったら緊張しちゃって~

ーーにしてもレイってこんな可愛い妹を持っていて幸せだね~」


「も、もうチャス様!! やめてください……」


「うん、僕はラウラみたいな可愛くて優秀な妹がいて幸せものだよ」


見た目が可愛いのもそうだが、何よりも毎日朝起こしにきてくれてしかも出来の悪い兄を見捨てず助けてくれるし面倒見がいい妹がいて本当に助かっている。

……というか“面倒見が良い”って兄が妹に言うってなんか変だよね?

なんて思っていると僕の発言を聞いたラウラとアルマンダさんの反応は対照的だった。


「お、お兄様!?い、いきなりな、何を言うの!?」


顔を真っ赤にして慌てるラウラ。語尾が敬語じゃなくなっているぐらい慌てているのだろう。


「お、おぅ……レイって本当に噂通りの人物だね……素で言ってるよ、この少年」


一方のアルマンダさんは面食らったような表情をしていた。いつも元気に笑っている彼女がそのような表情を浮かべるのは珍しい。


「そんなにおかしいことかな? 僕は自分が思った事を素直に言っているだけなんだけどね」


「それを言えるクラスメイトが怖いなぁ~いや天然の女たらし怖いわぁ~」


お盆を胸の前に持ってきて怯えるフリをするアルマンダさん。

……本心じゃないことはすぐ分かる。


「女たらしって……僕そんな事してないんだよなぁ……」


僕は無意識にマズい事を言ってしまうらしく、前に会長には

“レイ君は自分の発言に気をつけましょうか? お姉さん心配です……色々と”

と結構な本気のトーンで言われてしまった。


「お~いチャス!! 料理出来たから来てくれ!!」


「は~い。少し待っててね」


とアルマンダさんは厨房の方に戻って、料理をお盆に取るとこちらに戻ってきた。


「はい、レイはいつものパンケーキ~生クリーム多めの。そしてラウラちゃんはパフェ~サービスでいちご1つオマケ~」


僕の前には生クリームを乗せたパンケーキ、ラウラの前にはパフェが出された。


「美味しそうです……お兄様はよくこのお店にいらっしゃるのですか?」


「ミラほどじゃないけど2週間に一回、会長だったり、アリーヌ先輩とだーー」


「逢引の場所ですかここは!?」


我が妹がとんでもない誤解をしてらっしゃる。

……というか逢引って言葉古くない?


「ラウラ言い方!? なんか凄い誤解があるんだけどさ!?」


僕が会長とアリーヌ先輩と来ているのは生徒会の仕事が終わったあとに、会長に誘われたり、アリーヌ先輩も誘われたりするので行くのである。決して自分からは誘ってない。

……本当なのである。


「何ですかそれは!? 来るたびに一緒にくる女性が別ですか!?ルネフ先輩、会長、そしてベスランド様そして最後は私ですか!? コンプリートおめでとうございます!!」


怒りで感情が抑えられないのか若干変なノリになっているラウラ。

……というかコンプリートってなんだ、コンプリートって。


「よっ、色男~あれ私は? あっ、前に一緒に来たね~?」


「なんか嬉しくないコンプリートだね!? てかアルマンダさん僕の状況知ってるよね!?」


「えぇ~知ってるけどそっちの方が楽しいじゃんか~流石生徒会の色男」


「そのあだ名は誰がつけたのかな……?」


「命名者、チャス・アルマンダという人だよ。もう誰だろうねそんな酷い事をいうなんて」


「それ君本人だ!!」


これ以上不名誉なあだ名を増やさないで欲しい。ただですら魔法が使えないというだけでもこの学園での立場がないのに、女たらしや色男なんていうあだ名が増えたら本当にただのクズになってしまう。

……そう、まるで原作のレイ・ハーストンのような。


「お兄様は私の物……誰にも渡さない……」


彼女の綺麗な銀髪がゆらゆらと揺れているような気がする。

……ぜ、絶対気のせいだよね?


「あっ、レイの妹さん闇落ちしているよ?」


「ならフォローをしてよ!?」


「ユルサナイ……オニイサマハ……ワタシガズット……カンキン……」


「監禁!? ちょっと本当にヤバイって!!」


この後、ラウラをなだめるのに結構労力を使ったのかいつも以上にパンケーキが美味しかった気がした。

……やっぱり疲れた頭と体には糖分は必須だと思う。

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