ファーストエンカウント~チャス後編~
「アルマンダさん」
とある日僕が昼休みに校内を1人で歩いているとアルマンダさんの後ろ姿が見えたので声をかけた。
「あっ、ハーストン君。今日は1人かい?」
「うん、アルマンダさんは?」
「私は相変わらず1人だよ~言わなくても分かるでしょ?
ーーあっ、そう言えば昨日もルネフさん来たよ」
「本当に行っているんだミラ……
ーー何もしてないよね?」
「ううん、何もしてないよ。毎回甘い物を3品頼んで食べて帰るだけだよ、律義にメニューの上から3品を」
まさか本当にあのメニュー表を上から3品づつ頼んでいって完食するつもりなのか? ミラならやりかねない。いややるだろう。
「真面目だな……なんかごめんね友達が」
「いいって、私のお店のリピーターが増えて嬉しいかな。まさか学園でのイメージからは想像つかなかったけどね……」
と苦笑するアルマンダさん。
まぁミラは学校でのイメージは凛々しい女騎士そのものであり、見た目も相まってか男子よりも女子に人気があるぐらいだ。ただ出会った時と変わったのは初めて会った頃はショートカットだったのだが髪を伸ばし始め今では長い髪を後ろでリボンで結んでいる。
「よく学園でバレないな、不思議だ……」
僕の前だとあそこまでバレバレなのによく同級生の前で完璧に隠せると思う。ミラが隠すのが上手いのか、皆が気づかないだけなのか、はたまた両方なのか。
「ルネフさんは頑張って隠しているんだよ……まぁハーストン君の前では隠すのを止めた……のかな~?」
「なんだよ、それって」
「まぁルネフさんなりの理由があるんだよ……多分だけど会長さんや君の妹さん、副会長さんも同じ理由な気がするけどなぁ……でもルネフさんは自分でも理解してないだろうね」
「会長達と同じ……? 全く分からない……」
「ハーストン君って本当に噂通りの人なんだねぇ……」
何故か呆れながら言われる僕。はて、今のどこに呆れられる要素があったのだろうか。頭の上に疑問符を浮かべながらも僕は全く分からないかった。
「ーーおい、庶民」
明らかに人を見下したように呼ぶ声にアルマンダさんが振り向き、僕も同じ方向をみるとそこには入学式当日に彼女に喧嘩を吹っかけていた貴族の息子とその取り巻き達がいた。
……といかこいつら貴族の序列的にそこまで上位階級じゃないんだよね。僕の家よりも大分格下。
「なんだい~私はチャス・アルマンダっていうパパとママがつけてくれた名前があるんだよ? “庶民”なんて名前じゃないんだよねぇ」
そんな貴族の息子にも怯えることなくいつも通りの対応をするアルマンダさん。この子って前から思っていたけど結構肝が据わっている。見ているこっちがヒヤヒヤ。
「黙れ、俺が庶民のお前を気に留めてやってんだ。ありがたく思え」
そしてこちらもいつも通りの対応をする貴族の息子。
……というかそのセリフって本来悪役である僕レイ・ハーストンが言うはずでは? まるで仕事を取られたような感覚だがちっとも怒りが沸いてこない。逆にその発言をすることに対して怒りが沸いてくる。
「えぇ~なら私の事は無視してもらっていいよ~?
ーーはい、私は空気で~す。貴方の目には見えません~」
と相手の言ってきた言葉を使って煽るように言ってくるアルマンダさん。それを言われた相手も一瞬顔をしかめたがすぐにニヤニヤした笑みを浮かべてきた。
「確かにお前は空気だな。
ーーこの学園の品位を汚す空気だ。そんな汚れた空気は喚起しないといけないよなぁ?」
「お前言い過ぎだろ……!!」
貴族だからと言っても庶民をここまでけなしていいはずがない。それにこいつらの言葉は何も証拠があって言っているわけではない、ただ自分達の偏見である。思わず僕が身を乗り出そうとしたところ、アルマンダさんに止められた。
「えぇ嫌だなぁ~私程度で汚れるならこの学園も大したことないじゃんか。だってさただの庶民が来ただけでこの学園の品位が落ちるって?
ーーそもそも庶民をよってたかって虐める君達が“品位”なんて言っても説得力皆無だよ~?」
「お前……!!」
「おっ? おっ? 殴る? 殴ってきますかね? 私は構いませんよ~? 私はぜひ君達の言う品位を見てみたいものですねぇ~?」
「黙れ、大衆食堂の娘が!! どうせ客に媚びないとやっていけないんだろ? あぁこれだから庶民はつらいよな」
「私への個人攻撃から次は私の家かぁ~なんか見ていて悲しくなってくるなぁ~」
「ーーいい加減にしろ」
「あぁ?」
「ハーストン君?」
「さっきから見ていてお前らを見ていて思うが本当に見苦しい。それでも貴族の子息か?」
僕はいつも違う口調で話すことにした。モデルは僕にまるで興味が無かったころの父さん。
ーーだってそうでもしないと目の前のこいつらを僕が殴りかねないからだ。僕は彼女みたいに口が上手くないし、感情をコントロールするのは苦手だ。
「なんだと……!!」
「貴族なら貴族らしくいろと思うが……女を男が数人で囲んでなじる、本人の努力ではどうしようもない“生まれ”を馬鹿にする……どちらをとっても貴族の品位を下げる行為だ」
僕にとって複数の男性が1人の女性を囲んでなじる、その人の生まれを馬鹿にするという行為はこの世で嫌う行為である。そのためそれを平然とやっているこいつらが許せなかった。
「お前……!!」
相手は僕が言った事に余程ムカついたのか顔を真っ赤にし始めた。
……逆にあわあわし始めるアルマンダさん。
「他人に言うならまずは自分の行いを正しくしろ。それは貴族である前に人間として当然の行いだろう?
ーー身分にあぐらをかくな、自分の努力でどうにかしろ」
「魔法を使えないくせに偉そうに言うな!! お前だってハーストン家っていう身分にあぐらかいてるだろ!! どうせお前が生徒会にいるのも、この学園に入れたのも全てハーストン家っていう家のおかげだろうが!!」
「まぁもしかしたらそうかもしれないな。だがーー」
と言うと僕はミラから学んだ体術の要領で身体を動かして相手の反応が追い付かないスピードで首元に手を突き付けた。
「--魔法が使えないなりに努力をしているんだよ」
僕の動きが予想外だったのか完全に怯えた表情をしている。
「お、お、お前……魔法を使えないはずじゃ……!!」
こいつ、完全に僕が魔法を使ったと思っているが、ミラから学んだ足の運び方と身体の動かし方を応用したものである。
「無論魔法ではない、体術の応用の1つだ。
ーーさぁどうする? 大人しく去るか、僕と一戦やるか。好きな方を選べ」
「わ、分かった……ここはこれまでにしてやる。だから離せ」
そう言われたので僕は首に突き付けていた手を引っ込めて
「あぁ、今日はこれぐらいにしてやろう。
ーーお前に免じて、だろうか?」
「……っ、覚えておけ」
と捨て台詞を入って取り巻き達と一緒に去っていった。
「は、ハーストン君……」
「あっ、ごめんアルマンダさん……ついカッとなって」
「い、いや私はいいんだけど……意外とハーストン君って強いんだね」
「まぁ魔法が使えないからね、なら他の手段で身を守らないとさ」
体術は日々ミラに鍛えられているのでそれなりに身に着けている。
……まぁ遠距離から魔法を撃たれたらおしまいだが。
「ふ~ん、というかさハーストン君って意外と怒るんだねぇ~
ーーしかも口調も変わるなんて、さ」
「口調を変えないとあいつら本気で殴りそうだったし、というかさアルマンダさん」
「なんだい?」
「僕が口調を変えないとアルマンダさん、あいつらに向けて魔法撃っていたでしょ?」
「あら、分かっていたの?」
と意外とあっけらかんと言うアルマンダさん。
「だってあいつらが君の両親の事を馬鹿にし始めた瞬間、手を強く握り始めたからさ」
あいつらは気づかないかったかもしれないが、彼女は両手の拳を力強く握りしめて我慢しているのが僕には見えていた。いつ怒りが爆発するか分からなかったので代わりに僕が前に出て矢面に出たのである。
「そこまで見ていたのかい」
「まぁ僕自身、あいつらが許せなかったのもあるけどね。
ーー生まれを馬鹿にするなんて我慢ならなかったからさ」
それもあるしアルマンダさんや彼女の家族の事を知らないくせに彼女の事を馬鹿にするのが許せなかった。
「君って不思議な人だよね~本当に」
「うるさいなぁ……君だってご両親が馬鹿にされてイラっときたでしょ?」
「まぁちょっとね……あんなうるさい家族だけどさ」
なんて言っているがアルマンダさんは家族の事をとても大切に思っている。初めてアルマンダさんのお店に行ってから、僕も何回かお店に行ったが彼女のご両親は心から彼女の事を大切にしていたし、アルマンダさんの方もご両親の事を大切に思っていたのが良く分かった。
「アルマンダさんも不思議な人だねぇ……」
さっきはそっぽを向きながら言っていたが多分それは家族を大切に思っているのをバレたのが恥ずかしいからだろうと勝手に思っている。
「何よ、その口調、私の真似?」
「いやぁ~別に~?」
「何か癪に障るなぁ……」
なんて会話をしながら僕達は昼休み一杯話をするのであった。
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