ファーストエンカウント~チャス中編~
ーーチャス・アルマンダ
彼女は家こそ一般家庭だったが優秀な成績を持っていたため学園には特待生で入った。それを作中だとレイはよく思っていなかったらしく
“一般市民のお前のような奴がいるから学園の品位が下がる”
なんてことを日々言い続けていたのを彼女は受け流しながらも内心激怒していたらしい。最後、レイが糾弾される際にチャスは彼が今までやってきた行いを全て調べ上げて学園中にばらまいた。
僕達が高等部に進級して数日後……
「へぇ……ハーストン君が魔法を使えないのは本当だったんだ」
「……泣きたい……そんなに有名かなぁ僕のこと……」
「アルマンダ殿、それ以上レイにその話題を振らないでもらえるか……? その話題が出る度にかなり落ち込むんだ」
「な、なんか本当のことみたいだね……ごめんね……」
僕ら3人は食堂で話をしながらお昼ご飯を食べていた。何故教室で食べないのかと言うと
僕……学園創設以来の問題児、そして魔法を使えない
ミラ……騎士団長の娘ということもあり貴族の子息と仲が悪い
チャス……平民出身のためあまり良い目で見られてない
という各自がそれぞれクラスおろか学年で中々馴染めない3人だからだ。
……でも僕は自ら問題を起こした記憶がないんだがなぁ。
魔法を使えないのは百歩譲ってもいいとしても問題児扱いされるのは癪だ。
「でもいいの? 2人は私なんかとご飯食べてて。ほら私平民出身だからさ、あまり良い感情持たれてないのは分かるからさ~」
アルマンダさんは意外だけどとても気を遣う人だ。情報の収集が速いだけあって周りの人の雰囲気に敏感で僕達に気を使っているみたいである。
「「何を今更」」
僕とミラがハモった。
「えっ?」
「ほら僕、問題児でみんなに知られているし……魔法を使えないし……だから今更ねぇ」
「まぁ私もあまり良い感情を持たれてないからな……今更気にしたところで私は身分の差で人を差別しない。そんなの私自身が許せない」
ミラの真面目な理由に対して僕の理由がしょぼくて少し心が痛む。そんな僕達の反応にアルマンダさんは不思議そうな表情を浮かべたが小さく微笑んだ。
「フフッ、2人とも面白い人だねぇ。ねぇ今日放課後用事ある?」
「僕は生徒会の仕事ないから特にないかな」
何故か僕は中等部に続いて高等部でも生徒会に所属している。勿論誘ったのは元会長、フローレンス姉さんだ。ただ中等部と違うのはしれっとミレーヌ先輩やミラも生徒会に所属している。
「私は鍛錬以外ない」
「じゃあさ、私の家に来てよ。この前のお礼がしたいんだ」
「アルマンダ殿のご実家は何をされているのだ?」
「私の家は小さな飲食店なんだ~。お菓子とかあるよ?」
そう言えば原作でもアルマンダさんの実家は小さなカフェを経営していたんだった。確か自分の店をレイにバカにされたのが決定的だった気がする。
「お菓子だと……!!」
“お菓子”という単語に目をキラキラとさせるミラ。彼女は見た目こそ凛々しいが中身は年齢相応の女子なのでお菓子や可愛いものが好きだ。
「へぇ……僕はやることないし行こうかな……ミラはーー」
「是非行かせてくれアルマンダ殿!!」
沢山の人がいる食堂なのを構わず大きな声を出してアルマンダさんの手を掴むミラ。
「……うん、予想通りの反応だね。じゃあアルマンダさん、今日お邪魔させてもらっていい?」
「いいよ~むしろウェルカムだね」
と僕らは放課後にアルマンダさんのご実家に行くことになった。
放課後……
「さぁ、ようこそいらっしゃい私の家へ」
アルマンダさんに連れてこられたのは学園から歩いて20分ほどの場所にある小さな店だった。
雰囲気的には都会の隠れ家的な喫茶店に近い。個人的にツタが邪魔にならない程度にあるのが結構気に入っている。
「雰囲気良さそうだね、ミラはーー」
「甘いもの……甘いもの…」
ミラは道中もずっと“甘いもの……お菓子”と呟きながらにやけていた。
……正直そのにやけ顔が少し怖かったのは秘密だ。
「あっ、ダメだこりゃ僕の話を聞かないぞこれ」
「ルネフさんの舌にかなうか分からないけど
ーーママ~帰ったよ~」
「おかえり……あらその2人はチャスのお友達かしら?」
「そうなのかな……2人には入学式当日に助けてもらったんだ。こっちがレイ・ハーストン君、そしてこっちがミラ・ルネフさんだよ」
「ん? ハーストン……? ルネフ……?
ーーはっ、ま、ま、ま、まさか政務官のハーストン家と騎士団長のルネフ家のご子息ですか!?」
アルマンダさんが彼女のお母さんに僕達を紹介すると僕達の名字に気が付き驚きの声を上げた。
……まぁそれもそうか、なんせ国の政治トップの息子と騎士団長の娘をしれっと自分の娘が連れてきたのだから驚くのも仕方ないだろう。
「まぁそうです……」
「は、はい……お恥ずかしながら」
「し、少々お待ちください!! 夫を連れてきます!!」
と言うとアルマンダのお母さんは厨房に走っていった。そうしてすぐに彼女のお父さんも僕達の前に一緒にきた。
「こ、こ、こ、この度は私どもの店に足を運んでいただき……」
緊張なのか言葉が途切れ途切れになっている彼女のお父さん。
……なんか見てて申し訳なくなる。
「もうパパ~そんなに緊張しなくてもいいじゃんか」
「そんな訳あるか!! 大貴族のご子息とご令嬢だぞ!? もしなんか不手際なんかあったら……
ーー私どもの娘がご無礼を働いてしまい申し訳ございません!!」
「い、いえ僕達は気にしてないので……ねぇミラ」
「そうです、彼女は私とレイの友人です。私も全く気にしておりません」
「だってさパパ、ママ。気にしすぎだよ~」
「いいのでしょうか……?」
「僕は全く気にしてませんって、でも何よりも……」
「甘いもの……お菓子……」
「……すみません、同級生が甘い物の禁断症状が出てきそうです。何か注文しても宜しいですか?」
「あっ、は、はいっ!! 早急に準備致します!!
ーーおい、チャスお前も準備を手伝え!!」
「は~い、じゃあ2人とも何頼む? これがメニュー表だよ」
といつの間にかエプロンを付けたアルマンダさんからメニュー表を受け取った。メニュー表を開けるとそこには定食からスイーツまで様々なメニューが載っており、どれも美味しそうだなと思った。その中でも僕はパンケーキを頼むことにした。
「じゃあ僕はパンケーキを頼もうかな」
「は~い、ルネフさんは何頼む?」
「私はここからここまでを頼みたい」
そう言うとミラはメニュー表のスイーツの欄を端から端までをなぞった。
……こんな頼み方をする人初めて見たぞ。
「あ、あのルネフさん……私の店としては嬉しいけど……お金は?」
「あぁその件は心配いらない。私はあまりお金を使わないので財布に沢山ある」
この子、基本的に真面目で常識的なのだがたまに理性のタガが外れる。大体は甘い物か恋愛小説関係だ。
「ミラ……少し遠慮しようか……」
そしてその理性が外れた状態の彼女を止めるのが僕の役割というわけだ。
「むぅ……ではこの3品を頼む」
「わ、分かった、お父さん聞こえてたでしょ~お願いね!!」
「は、はいかしこまりました!!」
そうして待つこと数分……
「お待たせ~!! パンケーキにミニパフェ、チーズケーキ、ガトーショコラだよ」
と僕達が頼んだ食べ物がテーブルの上に並んだ。どれも美味しそうに見える。いや絶対美味しいだろう。
「美味しそうだね」
「ふわぁぁぁ……甘い物……沢山……ここは天国か」
ミラは目の前に広がるスイーツにいつも以上に目をキラキラさせて普段出さないような声を上げていた。
「じゃあいただくね」
「あぁいただく」
「はい、召し上がれ~」
そうして僕達はそれぞれ頼んだものを口に入れた。
「美味しい」
その言葉が素直に口から出てきた。どうやらミラも同じ様な事を思ったらしく顔をキラキラさせていた。
「美味だな!! こんな美味な物を作るとはアルマンダ殿のご両親は天才か!?」
「ルネフさん大げさだって~」
「いやでも本当に美味しいって、ミラの言う通りだよ」
僕はパンケーキを頼んだが、絶妙な焼き加減による触感、そのパンケーキに合うように作られているシロップの甘さなど全てが噛み合って美味しさを作っている。
……今まで食べたパンケーキの中で一番だと心の奥底から言える。
「ハーストン君まで……もう褒めても何もでないよ?」
僕達2人から褒められて恥ずかしいのか照れながらも笑顔のアルマンダさん。
「レイ、今度会長達も連れてこよう」
「そうだね。3人なら絶対喜ぶよ」
「あれ、会長ってライシング先輩のこと?」
「そうそう、あと僕の妹とか副会長のアリーヌ先輩も呼ぼうかなって」
特にラウラはミラと同じぐらい甘い物が好きなので絶対この場所が気に入るだろう。
「ライシング家のご令嬢だって!? 娘は一体どんな交友関係を持っているんだ……」
そんなお父さんの声が厨房から聞こえた。
娘が入学してから数日後に国の有力貴族の子息、令嬢と交友があるなんて言ったら普通の親なら驚くだろう。まぁそんな驚く交友関係の中に僕も入っているのだが。
「こ、これからも私どものお店をごひいきに……」
アルマンダさんのお店を出る際に彼女のご両親が揃って店の外まで送ってきた。
「や、やめてくださいって……僕はこのお店が好きなのでこれからも来ますよ」
「そうです、これからも私は週一で来ます」
……ミラは一度言ったら絶対やるから多分本当に週一で来るだろう。僕はこの子が
「今日はありがとうね2人とも、また明日教室で」
「うん、じゃあまた明日」
「あぁではまた明日だな」
と僕達はアルマンダさんの店を後にした。
帰り道、ミラは先ほどまで食べていたものの感動が忘れられないのか少し興奮気味だった。
「美味しかったねアルマンダさんの店」
「あぁ本当に美味だった。あそこの店の甘い物を全て食べたいと思う」
「ハハハ……程々にね」
多分、ミラは近いうちにあの店の常連になりそうだ。いや、なるだろう。
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