ファーストエンカウント~チャス前編~
アリーヌ先輩が僕達と知り合ってからは前以上に愉快で騒がしい日々を送れた。
まぁそれがどんな日々なのかを説明すると……
「ということでレイ君、今日は私の手伝いをしなさい。なお会長命令なので拒否権はないです」
一見真面目そうな事をして職権を乱用してくる会長ことフローレンス
「会長!! 昨日も同じことしてましたよね!? 職権乱用です!!」
そんな会長を見ながらちょくちょくキレているラウラ
「拒否権がない……な、なんて背徳的な……」
1人で変な妄想をしているミラ
「ねぇ後輩クン、早く私のモノにならない?」
何故か僕に執着しているアリーヌ先輩
「あの……僕の身体は1つしかないのですけど……皆さん落ち着きません?
ーーはぁなんかおかしいな……」
最後にオマケの僕。
この5人で過ごす日々は本当に楽しくて、完全に自分がバッドエンドを迎える悪役キャラだと忘れるぐらい彼女達の日々は楽しいと思えるぐらい色鮮やかな日々であった。
そして時が経ち、会長とアリーヌ先輩が高等部に上がっていった。
「今日で会長職ともお別れね……」
「お疲れ様でした会長」
「もうレイ君、私はもう会長じゃないわ
ーー前の呼び方で呼んでください」
「はぁ……分かったよ、姉さん」
「よし、じゃあレイ君、会長宜しくね」
「え、えぇぇぇぇぇぇーー!?」
と卒業時に会長から会長職を投げられ、僕は渋々会長職を務めた。会長職に就いて改めて思ったのは姉さんは本当に要領が良かったなぁという事だ。僕は姉さんと違って要領が悪いので誤った指示を出したりして、ラウラと始めとして役員には迷惑をかけた。
「会長職嫌だぁ……」
「そんな文句を言いながらも必死に書類を見ているお兄様は凄いですね」
なんて涼しい顔をしている我が妹ラウラは僕以上の速さで書類に目を通している。
……もう会長職ラウラに譲ろうかな。
「だって終わらないんだもの……ねぇラウラ、ここで1つていーー」
「無駄口叩いている暇ありましたら早く仕事終わらせてください、会長?」
「はい……頑張ります」
……妹が冷たすぎてお兄様泣きそうです。
でも小言を言いながらも僕に最後まで付き合ってくれるラウラは本当に面倒見がいい。
「ねぇラウラ」
「文句や弱音なら後でーー」
「ーーいつも助けてくれてありがとうね」
「べ、別に礼を言われる程をしてません……妹として当たり前の事を……」
恥ずかしいのか顔を赤らめそっぽを向くラウラ。
「でもいつも本当にありがとうね、僕はラウラが妹で嬉しいよ」
「は、は、早く仕事終わらせてください!! もう無駄口が多いんですよお兄様は!!」
「はいはい、頑張ります~」
「絶対心に思ってないですよね!? も、もぅーー!!」
会長とアリーヌ先輩が高等部に上がって一年後、僕とミラも高等部に上がった。
「嫌だぁ……お兄様がいなくなるなんて……」
何故か半泣きのラウラ。
先ほど昨年、姉さんにされた“会長職譲るね”をしたら突如涙目になった。
「い、いやラウラ……? 僕同じ敷地内の高等部に進むだけだよ? なんなら1年後にラウラも……」
「そ、そうだぞ、ラウラ殿。貴方も1年後には……」
「私泣きますよ!? いいんですか妹が泣くんですよ!?
ーーうえぇぇぇぇぇーーん!!」
感情が高ぶってしまったのか大声で泣きだすラウラ。彼女がこんな大声で泣くのを見るのは何年振りだろう。
「いやもう泣いてるじゃん!? ごめんミラ、先に帰ってもらえーー」
「私も悲しくなってくるな……うぅぅぅぅ……」
も らい泣きだろうか隣のミラも若干涙ぐんでいる。
「そうして何故ミラも泣く!? と、というか2人とも泣かないで……なんか周りの視線が辛いから……」
……泣いていない僕がおかしいのかなぁ。なんて思っていながらこれからの新生活に胸を躍らせていた。
だが楽しい日常で完全に忘れていたことがあった。それは……
「アクセル・フォンが来るまであと1年だと……」
ミラと僕が高等部1年生になったと考えるとミラ、レイが2年生の時に主人公のアクセル・フォンがこの学園に転校してくる。なると僕の本来のバッドエンドまで1年だ。
「完全に忘れてたーー!! ヤバイじゃん僕!? なんかバッドエンドがしれっと1年後に迫ってきているんだけどさ何してんの僕!!」
自分の野望のために息子を殺した父親とは現在上手くいっているし、ヒロイン達ともそれなりに友好な関係を築けていると思う。が、ここはゲームの世界、一体何が起きるか分からない。もしかしたら1年後にくるアクセル・フォンが主人公補正によって僕を悪者にして、本当にバッドエンドを迎えることになってしまうかもしれないのだ。
「というかあのクソ神が何をやらかすか分からないからなぁ……」
あのクソ神というのは僕を手違いで殺し、挙句の果てに僕をよりによって作中で一番の嫌われ者に転生させやがった神の事だ。上記のことがあって僕の中であの神の印象は最悪である。
「とりあえず明日から対策を考えよう……お休み……」
主人公が来た際にどうすればいいかは明日考える事にして僕は目を閉じた。
そして僕が高等部に上がった当日……
「ふぅ……やっと式典終わった……」
僕はあくびをしながら歩いていた。どの世界でも校長の話は長いんだと思っている。
「眠たそうだなレイは」
と隣にいるミラは眠たくなりそうな校長の話を聞いても全然眠くなさそうだ。
「ミラ今年も宜しくね」
ちなみに今年もミラと同じクラス。
……知り合いが同じクラスって本当に助かる。
「あぁこちらこそだ。
なんかレイとは中等部2・3年も同じクラスだったから気心の知れた友達が一緒で助かる」
「いやいやこっちもだよ。いやぁ……今年は何も起きないといいなぁ……」
「レイが言うと現実味があるな。大丈夫だ、何か巻き込まれたら私が助けよう」
と腰につけているサーベルの柄を持って誇らしそうに言った。
「ハハハ……ありがとうね」
決して本人の前では言えないけどその問題を起こす側にミラさんもいるのである。
……というかこれ以上問題を起こす側は増えて欲しくない。ただですら来年には僕の天敵である主人公アクセル・フォンが転校してくる。悩みの種は1つでも少ない方がいい。
「--おい、庶民そこをどけ」
「「ん?」」
僕らが声のした方を見るとそこには1人の女子生徒が数人の男子生徒の前に立っていた。
……というか数人で道を塞いでいる方が邪魔だと思うが。
「えぇ~私邪魔してないよ~それよりも数人が横で歩いているのが邪魔だと思うけどな~」
その女子生徒は数人の男子生徒を目にしても全く怯えず、それどころか余計油を注いでいる。
「俺達は貴族の息子だぞ? 庶民の出身が退くのが普通だ」
なんか既に一触即発寸前である。
「……なんか嫌な予感。
ーーミラ行こうか」
そう言うとミラは真剣な表情になり頷いた。
「あぁ行こう……大人数で1人を……しかも女子生徒だと……許せん」
正義感の強い彼女の事だ、卑怯な事をする輩を許せるないだろう。僕らは駆け足で喧嘩が起きそうな場所に向かった。
「何している貴公ら!!」
「あぁなんだ?」
「か弱い女子生徒を数人で囲むなんて卑怯だと思わないのか?」
「うるせぇな……まずお前からやってやろうか?」
さっきの女子生徒よりもミラと男子生徒の間で喧嘩が起きそうだ。
……止めにいかないとまずいな。
「はいはい、そこまで喧嘩はやめなよ? 入学式当日に反省文なんて書きたくないでしょ?」
僕は喧嘩が起きそうな2人の間に無理やり入った。
「げっ、ハーストン家の長男か、帰るぞ」
と僕を見た途端バツが悪そうな顔をして取り巻き数人と一緒にその場から離れていった。
どうやら僕がハーストン家の人間だというのは相手も知っていたらしい。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫だよ~ありがとうね2人とも
ーーレイ・ハーストン君にミラ・ルネフさん」
「ちょっと待て、何故私とレイのフルネームを知っている?」
ミラの疑問はもっともだ。
だって僕とミラはこの女子生徒の前で名前を名乗っていないのだから。
だが僕はそこまで驚かなかった、だって僕はこの女子生徒を知っているからだ。
「礼には及ばないさ
ーーチャス・アルマンダさん」
そう彼女はゲームのヒロインの1人であるチャス・アルマンダである。平民の出身だが頭の良さと魔力の高さを認められて特待生として入学してくる同級生だ。
「あれ~私の名前言っていたっけ?」
なんてとぼけなら言っているが僕が彼女のフルネームを言った瞬間、少し驚いた表情を浮かべていたのを僕は見逃さなかった。まぁ僕の場合は知っているもなにもゲームの知識として知っているだけである。
「そりゃこの学園に特待生として来るんだからそれなりに有名人だと思うよ」
「ありゃありゃ、私有名人なんだぁ。それに天下のハーストン家のご子息に覚えていただいて光栄だよ~」
「レイ、良く知っていたな……私は知らなかったぞ」
ミラが知らなくても当たり前だろう。学園も特待生の個人情報を生徒に普通は話さない。それが例えハーストン家などの有力貴族の子息であっても教師も話したりしない。
「あぁ僕はちょっと特殊な理由があってね……」
「流石レイだな、友として誇らしぞ」
「2人とも仲良いねぇ~あっ、そう言えば私は2人とも同じクラスだから宜しくねぇ」
「あぁ分かった、こちらこそ宜しく頼むぞアルマンダ殿」
「僕も宜しくね、アルマンダさん」
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