ミラのお父さん

 アリーヌ先輩の事件から数日後、僕の屋敷にミラが遊びに来た。


「おじゃまさせてもらいます……」


「ようこそミラ」


「いらっしゃいませルネフ様」


 僕らがミラに挨拶をすると後ろに長身の男性が立っていた。

……何となくだがミラに面影が似ている。


「あれ……ミラ、後ろにいる男性の方は……?」


 気になり僕が尋ねるとあっ、という表情をしたミラが口を開く前に男性が口を開いた。


「申し遅れた、ミラの父のカイン・ルネフだ。

ーーレイ君、ラウラさんいつも娘がお世話になっているようだな」


(こ、この人がミラのお父さん……!!)


 彼女の父親はゲームの設定だと歴代最年少で騎士団長を就任した武功においては実力者だ、頭の方もかなり切れ者であったはずだ。確かに見た目こそ細見だがよく見ると引き締まった身体をして、僕達の方を見ながらも周りに注意を向けているの分かり、流石騎士団長を務めるだけあると子供ながら感心していた。


「い、いつもミラさんには大変お世話になっております……」


「いい、君の話はよく娘から聞いている

ーーとても頼もしいご友人だとな」


「ち、父上!?」


 何故かミラが顔を真っ赤にして彼女のお父さんに文句を言っている。


「ありがとうねミラ、僕をそんな風に思ってくれて……嬉しくて泣きそう……」


「れ、レイ!? 私は本心を言った……い、いや本心は少し違うのだが……まぁよいか……

ーーそ、それよりも父上、こちらに伺った理由を説明しないといけないのでは?」


「ほう、そうだったな、すっかり忘れていた。今日は娘がハーストン家に遊びに行くとあって、私も丁度君の父上に話があったのを思い出して今日こちらに参ったわけだ」


「わ、分かりました、すぐ父を連れてきまーー」


 僕がお父さんを連れてこようと背を向けようとした途端、ミラのお父さんに手を掴まれた。


「だが私は先に君、レイ・ハーストン君と話がしたい」


「……? えっ、僕?」


「あぁそうだ君だ」




 そうして客間で僕とミラのお父さんが机を挟んで向かい合っている。


「まずはいつも娘が世話になっているようで親として感謝を言う、本当にありがとう」


 と椅子に座りながら頭を下げてくるミラのお父さん。


「あ、頭を上げてください!! それに世話になっているのは僕の方ですって!! いつもミラさんには学園でとてもお世話になっていて……僕の方が頭上がらないですよ」


「君は娘が言っていた通り謙虚な男だな。学園の中で君のような男はいないと娘が話していた通りだ」


「い、いぇ……僕は謙虚と言うより……」


 ただ臆病で自分に自信がないだけである。逆にミラや会長、ラウラみたいに堂々と出来るのが羨ましい。


「ハッハッハッ、君は本当に面白い人間だな。でも私は君に本当に感謝している、それは紛れもない本心だ。ミラは君に会うまでは学校で起きた問題や事件、友達の事も家で全く話さなかった」


「そうなのですか?」


 確かに振り返ってみると、今では僕や会長、ラウラと話すようになったがあの事件が起きるまでは彼女は常に1人でいた。多分友達もいなかった気がする。


「あぁ、ミラは“騎士団長になる”ために努力をしている。それは親として嬉しい。娘は私よりも才能あって私の歴代最年少記録を更新するのではなんて親バカもあって思っている。

ーーだがな、それ以上に普通の女子学生としての生活を楽しんで欲しいのだ」


「お父さん……」


「そして君と出会ってから娘は変わった。学校であったこと、君が起こした問題それらを楽しそうに、しかも笑顔で話してくれるようになって家内とともにどれだけ喜んだか。家内なんて嬉しくて最初の頃は泣いていたからな」


「ミラさんがそんな事を……」


「それだからこそ、私と家内は本当に心の底から君には感謝している。

ーー本当にありがとう、娘に普通の学生としての楽しみを与えくれて」


「僕はただ普通に友達として当たり前の事をしただけですって」


 友達なので休み時間に話したり、休日遊んだりするのは当たり前のことだろうと僕は思っていたのでまさか彼女のお父さんにここまで礼を言われるとは思っておらず少し恥ずかしい。


「私はそれを当たり前のように言う君に尊敬するよ。

ーー君が学園でも問題児として扱われるようになった事件も、娘を庇ったのだろう?」


「……っ!? どうしてそれを……」


 僕個人、会長やラウラにはバレたが教師や同級生にはバレてなかったからそれなりに上手く隠せていたつもりだが意外とバレるものなんだな……。


「あの日の夜、娘が明らかに落ち込んでいたから心配になって声を掛けたら全部話してくれたよ。娘は昔から真面目だが思い込みが激しいからなぁ……」


少し苦笑いを浮かべながら言うお父さん。

……というかミラ、君が言ったのね。


「あぁ、それ分かります……」


 なんせあの日殺されかけましたし……。でもミラの真面目さは必要であり、その真面目さには僕は日常とても助かっている。


「本来は娘と私が学園に行って君の冤罪を晴らさないといけないといけなかったのだろうが……あまりにも娘が落ち込んでいたのを私は……本当に君には申し訳ない事をした」


「あれは大丈夫ですよ。ほら、僕は“魔法が使えない有力貴族の息子”で昔から腫物扱いですから今更マイナスのイメージが付こう別に気にしませんって」


 なんせ作中で一番の嫌われキャラですからね!!

まぁそんな事を言っても通じないと思うがある意味僕がここまで頑張ってこれたのはその前提があったからこそだと思っている。


「せめての償いとして娘には次の日、君が罰で掃除をしていると聞いていたから“朝早く行って手伝ってあげなさい”と言った。だが話を聞くと結局掃除が遅れて君はテストを受けれなかったらしいじゃないか」


「あれは僕の妹と幼馴染が悪いんですよ、ミラさんは真面目に掃除を手伝ってくれました。むしろこちらが感謝を言いたいです」


 あの日はラウラと会長が理由不明の喧嘩を始めたせいで掃除が殆ど進まなかった。そんな中でもミラは真面目に掃除を手伝ってくれたので本当にありがたいと思う。

……まぁその掃除のきっかけもミラなんだが、という言葉は心の奥底に秘めておく。


「本当に君は話をすればするほど良い人間だって分かるな。どうかこれからも娘と仲良くしてほしい」


「こ、こちらこそミラさん良ければこれからも友達として仲良くしていきたいです」


 せっかくこっちの世界で趣味を話せる同級生と出会ったのだ、仲良くしない理由がない。

……というかバッドエンドを回避したいのでこちらは必死なのである。

なんて僕が思っていると、お父さんは少し笑いながら


「まぁ私としては君とミラが友達以上に進んでも構わないのだがなぁ……まぁいいか。

ーー悪かったね、こんなおっさんと長々と会話は辛かっただろう。

私が君を独り占めしているとそろそろミラが機嫌悪くなりそうだ」


「またまた御冗談を、僕なんかよりもお父さんと話をしている方が娘さん嬉しいですって」


 ミラがお父さんを心から尊敬しているのは原作通りだ。僕よりもお父さんと話している方が楽しいだろうと思っていたのだが、そんな僕の発言を聞いたミラのお父さんは一瞬きょとんしていたが突如大笑いして


「ハッハッハッ!! どうやら君は本当に面白い人だな!! ミラが言っていた通りの人間だ!!」


「はぁ……?」


 ミラは僕の事をどのように言っているのだろうか?なんかまともな事を言っていない気がするなぁ……。



 そうして僕とミラのお父さんと客間を出た。


「では私は君の父上に会ってくる。私達の事は気にしないで遊んで欲しい」


「分かりました、では僕はここで」


僕はその場で軽く頭を下げた。それをお父さんは軽く手をあげて反応した。


「あぁ、今日は君と話せてよかった」


 と僕はミラとラウラが話している部屋の前で彼女のお父さんと別れた。別れたあと僕がその部屋に入った途端ミラとラウラがこちらに早歩きで来た。


「れ、レイ大丈夫だったか!?」


「お兄様お怪我は!?」


「怪我? 一体何故だい?」


「い、いや私の父上と結構長い時間話していたので何か問題があったのかと……途中父上の大きな声が聞こえてヒヤッとしたが……どうやら怪我はないようだな」


「大きな声……? あぁミラのお父さんが最後結構大きな声で笑っていたなぁ……」


「父上が笑う? 父上はあまり笑わない人だ、その父上が笑うどころか大きな声で笑うとは……」


 どうやらミラのお父さんは娘の前では真面目で厳格な人物を演じているのだろう。実際話していると普通に笑う人だったし、娘のミラの事を大切に思っているのが良く分かった。


「い、一体何の話をしたんですかお兄様は……?」


「いや普通に学園でのミラの事を聞かれたぐらいだけど……」


 話した内容を2人に話すとラウラは呆れ、ミラは顔を真っ赤にしていた。


「れ、れ、れ、れ、レイ!? なんでそれを父上に言う!? 恥ずかしいではないか!?」


「えぇ……僕何か間違ったこと言った? そういえば最後ミラのお父さんが“まぁ私としては君とミラが友達以上に進んでも構わないのだがなぁ”なんて言っていたな……」


 僕にはその言葉の意味は全く分からないのだがそれを聞いた途端、ラウラはさっきまで呆れていた顔を一瞬で顔を驚きの表情に変え、ミラも顔を赤くしながらもラウラと同じような驚きの表情を浮かべた。


「「はぁ!?」」


「えっ、えっ、えっ……?」


「ちょっとお兄様!? 本当に何を話されていたんですか!?

ーー妹の私に詳しく説明する義務があります!!」


「どんな義務!?」


「私にも説明をするべきだ!!

ーー友達として!!」


「ミラもどうしたのさ!?」


 何故か興奮している2人にどんな風に説明すればいいんだろうかと思いながらも僕の休日は進んでいくのであった。


 結局その日は僕お手製のクッキーを2人に上げたらなんとか落ち着いた。意外だったのはミラがクッキーを見た途端目をキラキラさせていた。彼女が甘いものが好きなんだと思いながら今度は2人に何を作ってあげようと考えるのであった。

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