ファーストエンカウント~アリーヌ後編~
「丁重にお断りさせていただきます」
「なんですって……」
「当たり前ですよ。というか何で命の狙ってきた人の命令を聞かないといけないんですか? 少なくとも先輩は僕に命令できると思っているんですかね?
ーー僕はハーストン家の長男だ、命令したいなら家の格を上げてからにしてもらえませんかね庶民の先輩?」
「生意気を……!! 貴方は自分が置かれている環境を分かっているのですか?」
「あぁ分かっているよ、命が危ないね」
「でしょう、自分の命が大切なーー」
「アリーヌ・ベスランド、貴方の命がね」
「何……?」
「先輩の身体であと何分持ちますかね? 僕の見立てだともう10分は持ちませんと思いますが」
既に地面だけではなく先輩の身体にも氷が広がっていた。このまま放っておけば身体中に氷が広がっていき彼女は命を落とすだろう。
「だから何ですか!! 貴方には関係ないでしょう!?」
アリーヌ先輩が初めて感情を露わにした。
「あのね……目の前で死なれたらこっちが迷惑だし、それを見捨てるなんてもっと嫌だ」
自分でも何を言っているんだろうかと思う。
さっきまで僕の命を狙っていた人に慈悲をかけるなんておかしい。
だけど何故か見捨てるなんていう選択肢は一切なかった。
「素晴らしいご意思ですね……でも貴方に何が出来るのですか?
ーー魔法を使えないレイ・ハーストン君は」
「確か先輩って自分の魔力を他人に流せますよね?」
まだ学園では見せてないが、この人は自分の魔力を手が触れた相手に流し込むことが出来る。しかもそれがかなりの量なので流された相手は流された魔力を身体の中で処理できず気絶してしまう。その戦術もあるため彼女は遠距離戦だけではなく接近戦でも無類の強さがある。
「ちょっと何故それを知っているの!? 私まだ学園では見せていませんよね!?」
……すいませんゲームの知識です。
「それは今どうでもいいですよ。
ーーなので暴走している魔力を僕に流してくださいませんか?」
それを言った瞬間、先輩は一瞬ポカンとした表情を浮かべたがすぐ再び怒りの表情になった。
「はっ……? 貴方何を言っているか分かっていますか!? 魔法が使えない貴方がそんな事したらどうなるかなんて分かってますよね!?」
ゲームでは普通に魔法を使える人ですら気絶させていたのに魔法を使えない僕が魔力を流されたらどうなるのか全く分からない。ただもしかしたら普通の人に比べて被害が少ないかもしれない。
……まぁその逆もありえるが。
「どうなるか分かりませんがやってみる価値はありますよ」
と僕は徐々に彼女に近づいていった。近づけば近づくほど凍気が僕に当たり、服のあちこちが凍ってきた。
(冷た……!! う~これ明日寝込むかもしれないぞ……)
「こ、来ないで!! そんな事したら貴方が死ぬわよ!!」
「そんなのやってみないと分かりませんよ
ーーほら、手を貸してください」
“手を貸してください”なんて言ったものも僕は半ば強引に彼女の手を掴んだ。その瞬間、今まで感じた事がない何かが僕の身体に流れてきた。
「ぐっ……!! こ、これが魔力か……これはつ、辛い……!!」
思わず地面に倒れそうになるのを何とかこらえる。それはまるで暴風の中に何も掴まらずに立っているような感覚だ。昔から身体だけは丈夫なのと、最近はミラに体術を習ったこともあってギリギリなんとかこらえているがどこまで耐えれるか分からない。そしてさっきよりも服が凍るスピードが速くなっているのも分かる。
「手を離しなさい!! 死にたいんですか!!」
僕に対してそう叫ぶアリーヌ先輩。この人は本来はとても優しい人なのだ、自分が死にそうなのに他人の僕の心配をするのである。だからこそ死なせるわけにはいかない。
「うるさいですよ……!! 僕が珍しく頑張っているんだから静かにしてもらえませんか……!! 貴方はどうしたいんですか先輩!!」
僕は寒さや魔力が流れこんでくるのに耐えながらアリーヌ先輩に尋ねた。
「私……?」
「そうです、アリーヌ・ベスランド。貴方が死にたいもしくは研究所に戻りたいなら引き留めませんよ……!! でも貴方はさっきそれなりが付きましたが“学園生活は楽しかった”って言ってましたよね? それって学園生活に少しは未練があるってことですよね」
「それは……」
「せっかく楽しい環境にいるなら手放さないでください!!」
これには僕のちょっとした怒りがある。せっかく今恵まれた環境にいるのに自分から手放そうとするのが僕にはどうしても許せなかった。生前そのような環境がなかった僕からしてみれば羨ましいを超えて怒りを感じる。
「……ッ!! 私は……!!」
「ぐぬぬ……僕は……先輩の本心が知りたい……です!!」
「私の……」
「そうです貴方の本心を知り……たいです!! 何か不安があるなら僕や会長が聞きます!!
ーーだからあんたは自分の本心を言ってください!!」
最後は敬語が崩れてしまったが紛れもない僕の本心だ。あとは先輩がどのようになるかの賭けである。
「私は……しみたい……まだ学園生活を楽しみたい!! もうあの場所に戻りたくないです!!」
先輩は目に涙を一杯浮かべて僕に叫んだ。
……では彼女が決意を固めたのなら僕が頑張る番だ。
「分かりました……!! なら先輩、僕に流す魔力をもっと流して!!」
「何を言っているの!? 今ですら貴方もう限界ですよね!!」
確かに服の大半は凍っていて身体の感覚は半分無くなっている気がする。
「今のまま流していたらジリ貧です!! なら一気に流してください!! なんか今なら何とかなりそうな
気がするんです!! 僕を信じてください!!」
「わ、分かりました!!」
とさっきよりもかなり大きな魔力が流れ込んできた。それに負けないように更に力を込め、その勢いに負けないように力をためた。
「ぐおぉぉぉ……耐えろ……!! 頑張れ僕……!!」
その時、ふと身体の中に不思議な感覚が出てきた。暴風のような魔力が流れてくる感覚とは違う、なんかとても暖かく優しい感覚だ。
(なんだこれ……? よく分からないけど……これしか方法はないよね……!!)
それは今まで感じた事がない感覚に驚きながらも僕はその感覚に任せてみることにして、その感覚のまま僕は身体に力を込めなおした。
「ぐおぉぉぉ……!! 頑張れ僕ーー!!」
その瞬間、僕とアリーヌ先輩を眩しい光が包んだ。
数分後……
「ふぅぅぅぅ……頑張ったなぁ僕……」
当たり一面が凍ってしまったがなんとか僕とアリーヌ先輩は生きている。
あの光に包まれた瞬間、僕は意識を失ってしまい、目を覚ましたら彼女とともに倒れていた。一体何が起きたのか全く分からないがとりあえず2人とも生きているのだからいいだろう。制服もあちこち凍ってしまい、この服を見たら確実に母さんやラウラに説教されるのが目に見える。
「貴方……私を助けたら自分がまた命を狙われるって思わないのですか?」
なんて呆れながらも少し吹っ切れた笑顔を向けてくるアリーヌ先輩。その笑顔を見て少しは僕もほっとする。
「あぁ……別に構わないですよ、先輩の体調が戻ればいつでも受けて立ちます。僕こう見えて逃げ足には自信があるんですよね」
……本当はとても嫌だけど。だがそれで元気になってくれるならまぁいいだろう。そんな僕の答えを聞いた先輩は少し呆気に取られていたがまたいつものように微笑んだ。
「フフフ……貴方って本当にお人好しですね……会長の言っていた通りです……これなら会長のお気に入りになのも理解出来ます……」
「僕が会長のお気に入り? あぁ、会長のおもちゃって意味ですね、本当に人で遊ばないで欲しいですよ」
会長は小悪魔なところがある。
……その被害にあうのは大体僕なんだよなぁ。
「フフ、会長が言っていた通りの人ですね貴方は」
「ん? それってどういう意味ですか?」
「さぁ? どういう意味でしょうかね? ご自分で考えてみてください」
「は、はぁ……まっ、いいか」
この後、僕とアリーヌ先輩は教師に見つからないようにその場から逃げたのだが、僕は結局掃除を全然やっておらず次の日の朝1人早めに来て残りをすることになったのである。
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