ファーストエンカウント~アリーヌ中編~


「貴方は確か会長のお気に入りの……そうだったわ。

ーーねぇ後輩クン、今の聞いていたのかしら?」


「い、いや……聞いてないですよ……」


「あらあら目が泳いでいるわよ、正直者ですね。

ーーよし、消そうかしら」


 と言うと彼女は手元に黒い球体みたいなのを作り出した。

……あぁ~何だろこのデジャブ感。何か最近同じような事が起きた気がするんだよなぁ……。


「ってそんな呑気に考えている暇ないじゃん!!

ーーやばっ……!!」


 僕は急いで明らかに威力がやばそうな魔法から逃れるために走り出した。

では僕は何故このような事になってしまったのか、話は少し前に戻る。



 その日、僕は放課後生徒会の仕事で庭の掃除をしていた。

生徒会の皆で庭の箇所を割り当てられたのだが、僕は何故か明らかに1人でやるにはおかしい範囲の担当になってしまった。しかも場所は庭の中でも奥底の場所であり、学生は勿論教師もめったにこない。

……そんな箇所を何故学生の僕にさせるのか? なんて疑問は心の中にしまっておく。


「くそ……あの顧問……絶対僕の事嫌いだろ……」


 誰も来ない庭で僕は箒を持ちながら顧問への愚痴を言っていた。まぁミラの件で教師からの印象は悪くなったがそれでも生徒会の顧問は僕の事を特に嫌っている。明らかに会長やラウラとの扱いの差が露骨過ぎる。

……そこまで嫌いなら僕をクビにしてくれて構わないのだが、僕の父親に配慮しているのかそれはしてこない。


「ん? なんだろ……誰かいる?」


 微かだが誰かの声が聞こえてくる。

まぁここなら誰もこないから日頃の文句や声に出せない不満も声に出しても誰にも聞かれない。

……今回は僕が聞いてしまったのだが。


「聞いてはいけないのは分かっているけど……少しなら問題ないよな……うん……」


 僕はそぉ~と足音を立てずにその声がする方に近づいた。近づくと徐々に何を言っているか分かるようになる。


「おかしいわ……私の計画通りじゃない……」


(うわぁ……なんか闇が深い発言聞いちゃったなぁ……)


速攻で自分の行動に後悔した。

というか“私の計画”って発言が痛すぎる……!!


「くそっ……どうして上手くいかないのかしら……!! あの会長を私に夢中にさせれば学園は私の物に……」


(“学園は私の物”だって……どういう意味だ?)


 さっきまではただの痛い発言だと思っていたが、なんか明らかにふざけではなさそうだ。

一体誰が言っているのか、気になりもっと近づこうと思い一歩を踏み出したところ……


ポキッ


「あっ」


 そこに何故か運悪く枝があり、僕は気づかず踏んでしまった。

……なんでこんなところにあるかな木の枝、漫画じゃないんだーーあっ、これゲームの世界だわ。



「誰かしら!!」


 声の主が僕の方を振り向いた。


「あ、貴方は……アリーヌ先輩!?」


 そこにはアリーヌ・ベスランドがいつもの笑顔ではなく、明らかに不機嫌な顔をして立っていた。なるとさっきまでの発言の主はこの人となる。なんでそんな発言をっていう疑問よりも僕の直感が今の状況は危険だと告げている。


「貴方は確か会長のお気に入りの……そうだったわ。

ーーねぇ後輩クン、今の聞いたのかしら?」


「い、いや……聞いてないですよ……」


「あらあら目が泳いでいるわよ、正直者ですね。

ーーよし、消そうかしら」


と言うと彼女は手元に黒い球体みたいなのを作り出した。


(……あぁ~何だろこのデジャブ感。

何か最近同じような事が起きた気がするんだよなぁ……。

あぁ前はミラにサーベルを突き付けられたんだよな、うん)


「ってそんな呑気に考えている暇ないじゃん!!

ーーやばっ……!!」


「ダーク・バレット」


 と僕のすぐ横を黒い物体がとんでもないスピードで通過していった。

……あれ、当たったら一発であの世行きだな。

なんて考えているとアリーヌ先輩はいつもみんなに見せる笑顔に戻った。


「あら避けるなんて運が良い子ね~

ーーでもどこまで運が良いかしら、ねっ!!」


 手元で再び黒い球体を作り出すと僕の方に放ってきた。それを何とかギリギリのところでかわす僕。

弾丸が当たった先の地面には小さいクレータが出来上がっていた。


(あぶっねぇ……ミラに体術学んでおいてよかった……でも先輩は本気で僕をあの世に送る気だ!!)


さっきから撃ってくる弾丸が確実に僕を狙ってくる。

ミラに体術を学んでおかなかったら最初に一発でお陀仏だっただろう。


「ま、待ってください先輩!! 僕何かしましたか!?」


「したもなにも貴方、私の発言聞いたのでしょう?

ーーそれだけでも十分だと思うのですけど」


「ですよね……

ーーって危っ!?」


アリーヌ先輩は表情を笑顔のまま一切変えずに魔法を放ってくる。


「ここなら先生も会長も来ませんからゆっくり話し合いましょうか後輩クン?」


 なんて言いながらも先輩は先ほどよりも身体から出す魔力の量がどんどん増えていく。

目に見える訳じゃないが、さっきから身体にビリビリと走る感じがする。


「そう言いながら先輩は話し合いなんてするつもりないですよね……!!

というか先輩そんなに魔力高めたら先生達にバレますよ!!」


 いくらここ庭の外れとは言え、そんな魔力を放出なんてしたら先生達にバレるだろう。


「あら心配してくれるの? お姉さん嬉しいわ~でも大丈夫よ、さっきこの付近に気配遮断の魔法をかけました。なので誰も私達に気づきませんよ?」


「いつの間に……!!」


「さぁお姉さんとゆっくり話し合いましょう? 私優しいんですよ

ーーだから苦しませずにあの世に送ってあげますね」


「それを優しさなんて呼ばないと思いますが……!!」


「ーーアース・クエイク」


突如僕の足元が割れた。


「って今度は地面割れるのかよ!!」


何とか僕は後ろに飛び、回避したがもしその場にいたら足の一本取られていたかもしれない。

……苦しませないなんて言っていたけど足が折れたら痛いからな!!


「フフッ、お姉さんをあまり悲しませないでくださいよ。私悲しくて泣きそうです」


「僕も泣きそうなんですけどね!!」


「そうなのですか、あらら可哀そうね……私が慰めてあげましょう

ーー足と手、どっち先が良いですか?」


「なんの選択ですか!?」


「先に無くなるのはどちらがいいかと、それぐらいは選ばせてあげましょう」


「そんなのこたーー」


「アイシクル・アロー」


 今度は矢を模した氷を撃ってきたので、よけようと思ったのだが少し反応が遅れてしまい、矢が頬をかすめた。


「ぐっ……痛い……」


 かすった箇所を触ると手には結構な量の血がついた。

……かすった程度でこれだと直撃なんてしたら手足の一本なんて確実に無くなる。


「どこまで体力が持つかしら? 私が根を上げるのが先か、貴方が体力切れになるのか先か、一体どちらでしょうかねぇ? お姉さんを楽しませて

ーーくっ……!!」


突如苦悶の表情を浮かべて膝を地面につけるアリーヌ先輩。


「えっ……アリーヌ先輩!?」


突然の事でほんのさっきまで命を狙われていたのを忘れて心配する僕。


「うるさいですよ……ハァハァ……なんでこんなところで……!!」


とアリーヌ先輩は膝を地面につけたまま、両手で自分を抱きかかえるように震えている。

そして不思議な事に彼女の膝がついている地面が凍り始めた。


「ま、まさか魔力の暴走!?」


「それがどうしたのですか……!! うるさいでーー

ーーくぅぅぅ……!! 私としたことがこんな学生を仕留めるのに時間かかってしまうなんて……!!」


「時間がかかって……あっ、そういえば……」


 僕は今更ながらゲームの知識を思い出した。彼女、アリーヌ・ベスランドは生まれつき魔力が高かった訳ではない。幼い頃彼女は魔力を人工的に高める実験の実験台にされ、その実験では多くの子供達が命を落としていく中で数少ない成功例が彼女なのである。そして魔力が高いと言っても、魔法を使い続けば体に大きな負荷がかかる。彼女が勝負を挑まれると速攻で勝負を決めに行くのにはそういう事情があった。そして負荷がかかり過ぎた結果が今の状況である。


「命拾いしましたね……貴方は先生に今の状況を言えば私は学園を追放されます……」


「……」


そうだ。

僕は今この状況を教師に言えばアリーヌ先輩は学園から追放され、多分だが実験の施設に戻されまた実験のモルモットにされるのだろう。僕からすればバットエンドに関係する人物が消え、さらに命を狙われることもなくなるメリットしかない。


「で、でも先輩はいいんですか!? せっかくの学園生活ですよ!? また戻ったら辛い実験の実験台にされるんですよ!?」


「……ッ!? 貴方がどうしてそれを!!」


「あっ、やべっ……」


僕はゲームの知識で知っていたが、本来その情報は学園上層部しか知らないはずの情報だ。一介の学生が知るはずもないだろう。だが彼女は諦めたかのように笑った。


「まぁいいわ、どうせ私がそれを知っても何も変わりませんからね……あぁ……それなりに学園生活楽しかったですね……今ではどうでもいいですが」


「……」


「さぁ先生をお呼びになられたらいかが? ハァ……貴方の勝ちです……おめでとうございます……」


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