ファーストエンカウント~アリーヌ前編~
ーーその日、学園ではある話題で盛り上がっていた。
それは転校生が来るからだ。
この学園では転校生はとても珍しい。大体はそれぞれ初等部、中等部、高等部の初年度に新入生として入ってくるので転校生が来るというのは余程の事なのだろう。確か主人公も歴史上類を見ない魔力の高さの報告を受けた国が学園に転校生として保護したのだ。だとしたら今回も魔力の高い人を保護する目的なのだろうと思う。
そして僕はその人物を知っている。
名はアリーヌ・ベスランド、ゲームのメインヒロインの1人だ。
原作だと確か彼女はこの時期に学園に転校してきて、同年代の会長と親友と呼べる仲になる。
そしてレイ・ハーストンとは他のヒロインと同じく仲は険悪……というよりも存在を認識してない。彼がいくら話しかけてもその場にいないかの如く無視をする。ある意味他のヒロインよりも毛嫌いをしている対応かもしれない。
そして教室でいつものように本を読んでいると僕のクラスにも転校生の話が飛び込んできて、名前がアリーヌ・ベスランドというのを聞いて僕の予想は当たったのだと1人、心の中でガッツポーズをするのであった。
……勿論知っていたとしても何か変わるという訳ではないのだが。
「レイ君、あの転校生凄いのよ!!」
と放課後、会長と一緒に帰っていると珍しく興奮気味に話しかけてきた。
「何がなんですか?」
「同年代で初めて私の魔法壁にヒビ入れてきたのよ!!」
「会長の魔法壁を!? それは凄いですね……」
なんて驚いたふりをしているが僕は既にゲームの知識で知っている。アリーヌは攻撃魔法においては歴史上類を見ないレベルであり、会長とは防御、攻撃の差があるとは言えほぼ同レベルだ。会長は生まれつきだが、アリーヌはその魔力の高さは生まれつきではなく少々複雑な事情があるのだが、今は話さなくてもいいだろう。
「流石、この学園に転校生として入ってくるだけあるわね。久しぶりに本気出そうかしらって思っちゃったぐらいなの」
「……“本気出そうかしら”って言える会長羨ましいです。僕なんてなぁ……」
僕の場合、本気を出そうにもそもそも魔法が使えない。なので本気を出すと言えばその場から逃げ出す逃げ足とミラや使用人に教わった体術ぐらいだろう。
……まぁそれも常に本気出さないとこっちがやられてしまうぐらいのレベルだが。
「れ、レイ君落ち込まないでくださいって!! 貴方には貴方にしか出来ないことがありますって!! ほ、ほらた、体術ならルネフさんと張り合えるじゃないですか!! しかもルネフさんと言えば体術では学年トップ!! そんな人と張り合えるレイ君凄いですよ!!」
「……その前に魔法を食らって近づけさせてくれないんですけどね、ハハッ」
確かに僕は努力とミラのおかげで体術においてはそれなりの腕になった。だが遠距離から魔法を撃たれては得意な体術に持ち込ませてくれない。なんなら会長の魔法壁の前ではこっちが骨折しかねない。会長は褒めてくれるが僕自身は魔法を少しは使いたいのである。
「い、一緒に対策立てましょう!!」
「頑張ります……」
アリーヌ・ベスランドが学園に来て、数日……
彼女の魔力の高さ、性格も相まってすぐに学園の人気者になった。
なんせ中等部だけではなく高等部にも彼女のファンクラブが出来るぐらいだ。
……なお会長も同じようなファンクラブがある。
「ベスランド様、人気者ですね……」
「うむ、にしても凄いなあの人気は」
「魔力高くて、勉強出来て、なおかつ性格良いって言ったら人気者にならない訳がないだろうな」
僕とラウラ、ミラは昼休み、たまたま廊下で会い、アリーヌとその取り巻き達が一緒に歩いているのを見ていた。何というか取り巻きってどの時代、どの世界にもいるんだなぁ……なんて呆れながら見ている。
「というかあの取り巻きの方々ってなんか前、別の方の取り巻きだった気がするんですよね……」
「ラウラ殿もそう思うか、私もどこかに違和感があったのだが取り巻きの中心の人が違うからなのだな」
「ほら見て、今アリーヌ先輩の隣にいる人」
と僕は取り巻きの内の1人を指さした。
「前までは1つの派閥の長だったんだけど前の勝負でアリーヌ先輩に瞬殺されて、それ以降あんな感じ」
あの勝負はたまたま放課後だったこともあり僕も見ていたが、開始早々彼女の得意魔法“グラビティ・アウト”で相手生徒を地面に重力で押し付け、何もさせず完勝していた。まぁ会長の魔法壁にヒビをいれるぐらいのレベルだ。それなりの実力を持っていないとまともに勝負をさせてもらえないのだろう。
「なるほど……勉強になったぞレイ。ちなみに将来レイも取り巻きがいるのが希望か? レイならすぐにでも出来そうだが……」
「勘弁してよミラ、なんでお世辞を言ってくる輩と一緒にいなきゃいけないのさ。どうせそういう奴らは自分がピンチになったら真っ先に逃げ出していくよ」
「やはりお兄様。ルネフ様、このようにお兄様はそういう方々が嫌いなのです」
「そうだな、レイはそういう人間だったな。私の愚問だった、すまん」
「いいさ、それに比べてラウラやミラは僕に対して遠慮なく文句言ってくるから僕は嬉しいよ」
この2人や会長は僕の事を本気で思って言ってくれる。
本来はこのような人達の方が貴重であり大切だろうと僕は思う。だが耳に痛い事を言ってくる人よりも甘い事を言ってくる人の方が普通は良いので仕方ないのだろうけど。
「当たり前だろう、私とレイは親友なのだ。親友の為を思っていうの当たり前のことであろう」
「うん、いつもありがとうねミラ」
「れ、礼を言われるほどの事ではない……はぁ何故レイはそのような事がサラッと言えるのだろうか」
なんてミラがため息をつきながら言うと、ラウラは大きく頷いた。
……何故だ?
「分かりますルネフ様。本当お兄様はいきなり言ってきますから心臓に悪いです、しかも天然、本人に全くの自覚無しときました」
「なるほど……やはり付き合いの長いラウラ殿が言うと説得力あるな。流石私の親友……なのか?」
「何で疑問系なのかは僕が聞きたいんだけどねミラ……」
なんて言いながら僕はもう一度アリーヌ先輩の方に目線を向けた、すると何故か一瞬彼女と目線があった気がした。そうして
「フフッ」
なんていう声が聞こえるような気がした。
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