僕の適性
この世界では魔法は大きく3種類の分けられる。攻撃系、防御系、特殊の3種類だ。
攻撃系は火の玉だしたり、巨大な氷柱を出してそのまま相手を攻撃したり、何かに攻撃を与える系統の魔法で、適性がある知り合いは妹のラウラだ。人前では見せないが結構魔力が高いため火を使った魔法が得意である。
防御系は自身や味方を回復させたり、放った魔法を巨大な壁を作り防いだりする系統だ。会長であるフローレンスは特に適性が強く、歴史上稀にみる適性とまで言われる。
特殊とは攻撃系と防御系のいずれにも属さない特殊な系統である。身体能力強化だったり、攻撃と防御ともに使えたり結構特殊な系統だ。身体強化を得意するミラはこちらの分類に属する。
……なお母さんの父さんを殴る際の強さは身体強化は全く関係ない。本来母さんは防御系が得意な方だ。
そしてこの世界では自分がどの魔法を得意なのかを生まれてすぐ鑑定する。大体は生まれてすぐ得意な魔法の系統が分かるのだがたまに中々適性が出ない場合もあるが、それも1歳になるころには判明する。
それに比べて僕は……
「レイさん」
僕の前に初老の男性が座っていた。彼はレーン・ラザニエル、魔法の適性の検査をする人で僕は毎年この人に会っている。
「は、はい……ぼ、僕の魔法は……」
「……今年も不明です」
と申し訳なさそうに言うレーンさん。この顔を僕は毎年見ている、そしてその様子を見て僕も落ち込む。
「嘘でしょ……というかまたか……」
僕は転生してから約10年、一向に適性の魔法が出ない……。
10年間、一年に一度魔法の適性を見てもらっているのだが反応がない。父さんはレーンさんがヤブだと毎年の様に言っているが、この人は国でも優秀な適性検査をする人なので、問題があるのはこの僕だろう。
……というかその“ヤブ”って言っている人に毎年頼むのはどうかと思う。
「レイさん、ここまで適性が出ないと私の腕が心配になりますね……」
「いや先生、先生はご自身の腕に自信を持ってください!!
ーー問題は僕ですから……はぁ」
「申し訳ない……本当に申し訳ない……」
「「はぁ……」」
そうして2人でため息をつくのも毎年恒例になっている。
「はぁ……」
レーンさんが帰った後、僕は自室で椅子に座り落ち込んでいた。
……毎年“得意な魔法がない”と言われ続けて約10年、慣れたとは言え“今年こそは”と思い、結果同じ結果になるのは結構心にくるものがある。
「お、お兄様!! 元気出しましょう!! 魔法を使えないぐらいで人生終わってませんよ!!」
そしてラウラが僕の部屋に来て、慰めにくるのも毎年の恒例。
だが、我が妹よ、この世界で魔法が使えないのは致命的な事なのはゲームで見た。この世界では魔法が使えない=存在価値がなくなるが僕はハーストン家の長男としてなんとか存在価値をもっている。
「いやだってさラウラ……毎年同じこと言われるんだよ……お兄ちゃん……そんなに心強くないって……」
いつ父さんに愛想を尽かされ、学園の皆から嫌われ、最後はバットエンドになるか分からないのだ。もともと僕はそこまで心が強くないので毎年この時期は一日中落ち込んでいる。ゲームだとレイ・ハーストンは攻撃系の魔法がやや得意だったのだが、僕はそれすらなかった。
……あのクソ神、転生後までうっかりしやがったな。
「だ、大丈夫ですよ!! お兄様は魔法が使えなくてもいいところありますよ!! た、例えば……えっと……その……」
「ラウラ、何とか考えたフォロー程辛いものはないんだよ
ーー良いんだ、そのフォローしようと考えてくれるだけで嬉しいよ……うん、嬉しい……」
あ、あれおかしいな……室内なのに頬に水が垂れてきている。
「お兄様が今にも泣きそうな顔に……ご、ごめんなさい……でもお兄様凄いですよね」
「ん?」
「い、いえ……上手い言葉が思いつかないのですが……その魔法が使えないのに魔法が使えるように努力するなんて……」
「あぁそれね」
そうなのである。僕はひそかに魔法の練習をしている。
使えない僕が練習をして何の意味があるのかと思われるだろうが、せっかく魔法が使える世界に転生したのだから少しは使ってみたいという気持ちと、前世で何も満足に出来なかったのが今も僕の心残りとなっている。ならせっかく5歳児まで戻ったのだから今度こそは何か1つでも人並にしたいと思ったのだ。
「私なら出来ないことはよほどの事ではないと諦めてしまいますから……それを10年以上続けているのはとても凄いことですよ」
「ハハッ……僕は少し諦めが悪いからね……まだ“完全に使えない”って言われた訳じゃないからさ、なんか諦めが付かないんだよなぁ……」
まだ適性が出ないだけで完全に魔法が使えない訳ではないだろう、であれば努力次第で何とかなるかもしれないと思い、色んな人に魔法を使う際のイメージやコツを聞き、それを日々練習している。
「はっ、お兄様の凄いところはそういう事ですよ!! 私としたことが忘れていたとは……妹失格です……これだと会長に負けてしまいます……」
「いや別に妹に失格ってないと思うんだ……というか会長に負けるって2人で何を争っているんだい」
「それは勿論……いえ何でもないです。お兄様には関係のない事です」
「そうならーー」
「--レイ君~今年はどうだった?」
「--レイ、魔法が使えないぐらいで落ち込むな!!」
と僕の部屋に会長とミラがやってきた。いきなりのことで驚く僕とラウラ。
「会長にミラ!? どうしてここに!?」
「そ、そうですよ皆さまどうして!?」
「ほらこの時期と言ったらレイ君の恒例の検査よね、と思い出してミラさんを連れ立ってきたのよ。
ーーラウラさん、抜け駆けは駄目ですよ、フフ」
と何故かラウラに対してドヤ顔をする会長。
「ぐぬぬ……抜け目がありませんね……会長」
一方悔しそうな顔を浮かべるラウラ。
……そこまで何が悔しいのか不明だが。てかこの2人は何故ここまで仲が悪いのだろうか。昔は仲良かった気がするが真相は闇の中だ。
「私は知っているぞレイのいいところを!! だから魔法が使えないぐらいで落ち込むな!! 魔法がつかえないぐらいでな!!」
「……あのミラさん、それ以上“魔法を使えない”をリピートしないで欲しいです。結構きます」
「す、すまん配慮が足りなかった。にしても私は初めて知ったぞ、レイが毎年このような事をしているとは」
「まぁ人前で恥ずかしくて言えないからね……知っているのは家族と会長ぐらいだし」
「まぁレイ君は魔法が使えないぐらいで存在が無くなるような子じゃないですから。まだ私の右腕として頑張ってもらわないと困るわ。あと貴方みたいな人間は絶対必要なの、少なくとも私は思う」
「わ、私だって思います!! 大事なお兄様ですから!!」
「私も思う、数少ない親友だからな」
「みんな……」
魔法が使えない僕でも好きでいてくれるみんながいる、それだけで僕は嬉しかった。前世ではこのような事を言ってくれる人がいなかったが、それには僕の人との交流の無さがあるだろう。僕がもう少し人と話すようにしていたらもしかしたら友達と呼べる人が出来たかもしれないが、今目の前でその様な事を言ってくれる人がいるだけでも少しは僕の努力に意味があったのだろうと思う。
「ということでお姉ちゃんと遊びましょう」
「いやお待ちください会長、今日、お兄様は私とディナーの約束です」
「レイ、前回借りた本なのだが……」
「「抜け駆け禁止!!」」
なんて結局いつもの会話になるのであり、そんな3人を見ていると少しずつ気分が晴れていくのを感じた。
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