ファーストエンカウント~ミラ後編~
「本当に申し訳ない……ハーストン殿……このお詫びはどうすればいいのか……」
僕とルネフさんは庭から教室に戻りながら会話をしていたが彼女は終始申し訳なさそうな様子だった。責任感の強い彼女のことだから自分の早とちりでこんな大事にしてしまったのだからそうなるか。
「僕はいいよ、お互いが秘密にしていれば大丈夫だって。僕は言うつもりは無いし、ルネフさんも自分から怒られるような事はしたくないでしょ?」
それに僕はこれ以上、変な悪名を増やしたくないので。
「う、うむ……そうだな……この件の失態は必ず返す、いやそうさせてもらう」
と拳を強く握っていた。
……願わくはそのような機会は起こらないで欲しい、と切に願う。
「ーーハーストン君、ルネフさん、ここで何をしている?」
「あれ、先生? どうしたんですか?」
そこには僕のクラスの担任が深刻な様子で立っていた。
「いやそれがな、さっき学園に残っていた生徒から長物を振り回して暴れている者がいると通報があってな。教師一同で見回り中なのだよ」
「「……」」
僕は苦笑いで済ませるのだが、隣のルネフさんは顔を真っ青にして固まっている。
……だって犯人
「ちなみに先生、その犯人どのような姿ですか?」
「いや……その生徒も遠くからしか見てないから特徴は分からないみたいだが、何人も見ているらしくて他の先生方も見ていてな……叫びながら走って2階から飛び降りたらしいぞ」
「ハッハッハッ……」
おい、完全にルネフさんじゃないか。まぁただ身体的特徴や服装の特徴が見られてなくて良かった。一方の彼女は顔が真っ青のままだが体の震えが止まってない。
「最後は庭の方に逃げたらしいが、ハーストン君やルネフさんは知らないか?
ーーというか学園で長物を常に持っているのはルネフさんぐらいだよね? 何か知っているかい?」
「そ、それは……」
何かを言いたそうにしているルネフさんは今にも泣きそうだ。さっきまで僕の命を狙っていた人間だけど今の状況を見ると少しかわいそうに思える。それもそうだろう勘違いさえしなければこうならなかったのだから。
(はぁ……しょうがない……少し頑張るか……僕らしくないんだけどね……)
と僕は自分の中で決心を固め、口を開いた。全く自分でもどうかと思うが心に決める。
「先生すみませんでしたーー!!」
僕は九十度腰を曲げ、頭を深々と下げた。
「は、ハーストン君!? どうしたんだい!?」
「ハーストン殿!?」
「すみませんでした長物を振り回していたの僕です!! 昨日読んでいた小説の主人公に憧れてつい近くにあった棒を持って遊んでいました!!」
僕が考えた案とは、まぁ簡単に言うと僕が罪を被ることだった。騎士団長の娘のルネフさんよりも生徒会役員の僕がやったことにすればそこまで罰則が重たくならないだろう。今回に至っては父親の権限を悪役キャラらしく使うべきかといい案が無いかと頭をフル回転させる。
「何をしているんだい? 君、生徒会の役員だろ……?」
「昨日、とっても面白い小説を読んでいて
“僕も主人公みたいになりたい!!”って思いました!!
ーー先生も読みますか?」
「い、いやいい……でも、なんで隣にルネフさんがいるんだ? 彼女も何か関わっているのでは?」
……クソッ、この教師勘が鋭いな。だがそのための言い訳も考えた。
「確かに彼女は関わっていますよ」
「……ッ!!」
「僕の暴走を止めようとしてくれたんです。明らかに頭がおかしい僕を彼女はクラスメイトとして止めようとしてくれたんですよ、それでさっきまで僕を説得してくれてました」
「そうなのかルネフさん?」
僕は教師に気づかれないように彼女の手にトントンと指を当てて、アイコンタクトをした。
「は、はい。私は彼が暴れているのを見て止めなきゃと思い説得してました」
「そうか……ではハーストン君、君は職員室に来なさい。ルネフさんはもう帰っていいよ」
「は、はい……分かりました」
「うげぇ……勿論反省文ありますよね……?」
まぁ反省文だけで済むならまぁ軽いものだと思う。ちなみにテスト以外で反省文を書いたのは初めてである。
「ほう……ハーストン君は反省文で済むと思っているのか? 君は庭の木を勝手に切ったりしたんだ
ーー明日、君1人で庭の掃除な、朝からやるんだよ?」
……思いのほか罰が重い。というか朝からって酷くね? この庭が広いことを知っていてわざとそうしやがったな、この担任。
「はぁ……分かりました……じゃあねルネフさん、また明日……って僕授業行けるかな……」
と苦笑いしながら僕はルネフさんに手を振りながら職員室に向かった。
「あ、あぁ……また明日だな」
その後、僕は教師一同に怒られたあと反省文を書いた。そして家に帰ると事前に教師から情報が伝わっていたらしく母さんと妹が玄関で仁王立ちをしていた。
……その後の惨状は言うまでもない。
そして次の日……
「ふぁ……眠い……」
僕は昨日言われたように学園の庭掃除をしていた。学園の門が開くと同時に僕は学園に入り、掃除を始めたのだが……。
「広すぎんだろーーこの学園の庭!!」
この学園の庭はかなりの広さを誇っているので、昨日ルネフさんとのチェイスでは広くて助かったが、掃除する立場となるとその広さが嫌になる。しかも風は吹けばさっきまで掃除した意味がなくなる。
「あぁ泣きたい……自分で見栄を張ったのが間違いだったな……」
だが自分で言ったことに責任を持たないといけない。だから僕は1人で掃除をするのであった。
「は、ハーストン殿……」
名前が呼ばれた方をみるとそこにはルネフさんがいた。
「あれルネフさん? どうしたのこんな朝早くから?」
「昨日は申し訳ない事をした。私が問題を起こしたのにそれを貴公が罪を被ってしまうなんて……」
「別にいいよ、終わったことだし。僕は生徒会役員だから罪は少しは軽くなると思ったんだよね。
……昨日、母さんと妹にめちゃくちゃ怒られたけどね」
「本当に申し訳ない……せめての償いだが私も掃除を手伝おう」
「あっ、本当かい? それとっても助かる……正直この庭の広さに絶望していたんだ……」
「確かにそれは同意する、どこまでやれるか分からないが私も手を貸そう」
と言うとルネフさんは近くにあった箒を手に取り、手伝い始めた。
予想外の戦力が増えて少し嬉しい。少し喜んでいると……
「ーーレイ君おはよう、手伝いに来たわよ」
「--しっかり者の妹がお兄様を手伝いに来ましたよ」
何故か会長とラウラが同じタイミングで来た。ラウラには朝から掃除すると伝えたが会長には伝えてないと思う。
「「ん?」」
「どうして会長がいるのですか?」
「それは私のセリフです、どうしてラウラさんがいるのかしら?」
「妹の私が手伝いますから会長はどうぞ自習をしてください」
「いえいえ会長の私が手伝いますからラウラさんこそ自習したら如何でしょうか?」
「「ぬぐぐぐ……!!」」
と互いの顔を見た途端、何故か最近恒例のお互い喧嘩腰の会話になる2人。手伝いに来たのなら喧嘩をしないで掃除をして欲しいなんて言ったら、2人から言われまくるのは目に見えているので言わない。
「ハーストン殿、あの2人は?」
「あぁ気にしないで……いつもの事だから。
僕達は掃除をやろうか」
「あ、あぁ分かった……私なりに力を尽くそう」
「「というかしれっと1人女子増えている!?」
僕がルネフさんと話していると2人はどうやらルネフさんの存在に気づいたようだ。……いつもは頭の回転が速いのになんでこういう時は遅いんだろうか。そして2人は僕の元にずいっと顔を近づけてきた。
「レイ君!!」
「お兄様!!」
「「この人がいる経緯を話して!!」」
「あぁもう!! 掃除が終わらないーー!!」
この後、僕は掃除が終わらなくて1時間目の授業に間に合わずに小テストを受け損ねた。
……もう本当に泣きたい。
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