ファーストエンカウント~ミラ中編~
そして話は冒頭に戻る。
スパンッ!!
その音とともにすぐ後ろにあった木がスパンと斬れた。
「ひぃ……!!」
「待て!!」
「いやいやそんな物騒な物を持った人に止まれって言われても止まらないと思うんだ!?」
「うるさい、貴公を殺して私も自害する!!」
その相手は顔が真っ赤になり、どう頑張っても落ち着いて話をしてもらえる可能性は限りなくゼロに近い。
……というか無いのでは? うん、無いね。
「ヤバイ!! バッドエンドがかなり前倒しになっている!!」
せっかく10数年かけて2人からの信頼はそれなりに得てきたのに、まさかここでバッドエンドが迫ってきているとは……。
「大人しく我が剣の錆になれ!!」
ヒュン、ヒュン!!
後ろでサーベルが振るわれる音が聞こえ、命の危機を更に強く感じる。
……これって本当に僕死ぬのでは? なんせさっきから後ろで木や花が切れていく音が聞こえるのであのサーベル当たったら僕、五体満足でいられるかな。
(僕、これ終わったらラウラにクッキーを作ってあげるんだ……)
「話聞いてくれ
ーーえっ、嘘だろ……」
僕が驚いた理由は簡単、目の前が壁だった。
ーー要するに逃げ道がなくなったのである。
……あぁ詰んだぞ、僕。
「さぁ……逃げるのは終わりだ。大人しく我が剣の錆になれ」
じりじりとサーベルをこちらに向けながら迫ってくるミネフさん、それと同時に僕は壁に背中が当たった。これ以上僕は逃げれない。
「ま、待って!! ぼ、僕なんで死にそうなの!?」
「あの本を読んだからだ!!」
「あの本を読んだのがそんなにいけないの!?」
「あぁいけない……私が隠したい物だったからなぁ……!!」
そんなに隠したいものなら教室の机に置いておくのはどうなのか、なんて言ったら僕の首が胴体とサヨナラしてしまうので言わないで置こう。
「なんで……あの本の何がいけないの?」
「私があの本を読んではいけないのだ……!!
ーーあのような少女向けの恋愛小説など……!!」
「はい?」
……チョットナニイッテイルカワカラナイ。
おっと、つい片言になってしまった。
「い、いやだってルネフさん少女でしょ、別に読んでもいいと思うんだけど……」
「馬鹿者!! 私は騎士団長を目指しているのだ!! そのような私が少女向けの小説を読んではいけないのだ……!!」
顔を真っ赤にして悔しそうに言うルネフさん。
「え、え~っとごめん、言っている意味が分からないんだけど……騎士団長を目指すのがどうして少女向けの恋愛小説を読んだらいけないのかな」
「男性はあのような小説読まないだろう!!」
……僕がっつり読んでます。なんなら目の前でページ言ってもらえればセリフ言いますよ?
「私が目指す騎士団長はそ、そんな少女みたいな願望を持たずに皆を守るために身を捧げなければならない。ならば私もそれを心に決めないといけない……!!」
「いやいや意味が分からないよ?
お父さんに“読むな”って言われたの?」
「いや言わない。私の父上はそのような事は言わないが心の中で思っているはずだ」
「えぇ……」
うん、ひょっとして、いやひょっとしなくても面倒だぞ、対応が。だが僕は命がかかっているので渋々対応をすることにした。
「ねぇルネフさん、それって男性が読んでいけないのかな?」
「あぁそうであろう!!」
「--僕読んでいるんだけど。なんならページ言ってみてよ、セリフ言ってみるから」
「えっ……」
どうやらルネフさんにとって僕が読んでいるというのが予想外だったらしく口をポカンと開けていた。
「なんなら僕そういう恋愛小説大好きなんだけど。
ーー多分、ルネフさんより沢山の数読んでいるよ」
部屋の本棚に入っている小説の中で一番冊数を占めているのが恋愛系だ。
「な、なんでだ? そのような小説を読むなんて男としてーー」
「ーー別さぁ僕が何を読もうと関係ないでしょ?
というかルネフさん、その言葉はあまり使っていい言葉じゃないと僕は思うんだけど違う? 違うのなら教えて欲しいな」
さっきの彼女の発言に対して少しイラっときたので思わず彼女が言い終わる前に結構強強めに言ってしまった。別に自分が読まないのは勝手だが、それを人に強要するのはイラっとする。
「確かに失言だったな、申し訳ない」
「謝るならその手に持っている物騒な物をしまって欲しいなぁ……本当に」
「だがそれとこれでは話が違う!!」
「ですよね!!」
「私はこれまでこのような物を読まないというイメージがあったのに……このような事がバレたら皆に笑われる……」
「あぁ……なるほどね……」
確かにルネフさんはショートカットで、言動や行動が男っぽいのでクラスメイト達は彼女がそのような本を読むとは思わないだろう。まぁ“可愛い”というよりも“綺麗”が似合うのは間違いない。
「だが……どうしても続きが気になってしまってつい……買ってしまったのだ……それを忘れるなんて一生の不覚だ」
「……」
この子、結構うっかり屋さんだな。ゲームでもそんな性格だったのを思い出す。
「あの……僕周りに言いふらさないよ?」
「口ではそういうが……その代わりに私に何かを強要するのだろう?」
「どんな事だよ……」
と僕がそう言うと、ルネフさんは顔を今までの中で一番顔を真っ赤にして
「そ、それをわ、私に言わせるのか!? こ、この変態め!!」
「僕何も言ってないよ!?」
……この子、ムッツリだな。しかも結構なムッツリだ。というか僕ってそんなキャラに思われているのか。
「とりあえずルネフさん、僕は周りに言いふらさないから安心して
ーーなんなら僕は嬉しいな」
「……秘密を握れたからか?」
「違うよ!? 僕が嬉しいのは同じ小説の事で話せる人が増えてくれてってこと」
「はっ?」
「だって嬉しいでしょ? 好きな小説を話せる人が増えるってさ。今までは会長だけだったけど1人でも増えたら嬉しいよ」
僕が話す人が少ないのもあるがラウラはあまり恋愛作品に興味が無いみたいで、会長ぐらいしか小説の件で話す人はいない。同じ趣味で、且つ同学年で同じクラスとなれば喜ばない理由がないだろう。
「会長とはライシング先輩のことか?」
「そうそう、その人。会長とは恋愛小説の事でよく話すんだ。ルネフさんもどう?」
「私もだと……?」
「会長喜ぶよ、絶対」
「そ、そうなのか……」
「うん、だからサーベルをしまってもらえると……同じ趣味の人として嬉しいな……」
「そうだな……悪かった……私はつい頭に血が上ってしまった……」
とサーベルをしまうルネフさん。それを見た瞬間、僕は今までの緊張が切れてその場にへなへなと座ってしまった。
(死ぬかと思った……)
「自分の秘密がバレてしまって……それで貴公を消せば守れるかと思った……貴公はそのような事をする性格ではないとすぐ分かるはずだったのにな……」
「ハハハ……」
(なら最初からそうしてよ!! こっちは本気で死ぬと思っていたんだからさ!!)
なんて思いながらその発言は心の奥底にしまった。
「申し訳ないハーストン殿。私の早とちりで……」
「い、いいって僕は気にしてないからさ
ーー情けないんだけど手を貸してもらえる? 疲れて立てない……」
僕自身運動は苦手なため体力はあまりない。そのため2階から飛び降りた上に、庭を全力疾走して疲れ果てた。もう立てない……もう無理。
「す、すまぬ……これも私のせいだな」
とルネフさんの手を借りて立ち上がるのであった。
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