ファーストエンカウント~ミラ前編~
スパンッ!!
その音とともにすぐ後ろにあった木がスパンと斬れた。
「ひぃ……!!」
「待て!!」
僕は逃げていた。
「いやいやそんな物騒な物を持った人に止まれって言われても普通は止まらないと思うんだ!?」
「うるさい、貴公を殺して私も自害する!!」
その相手は顔が真っ赤になり、どう頑張っても落ち着いて話をしてもらえる可能性は限りなくゼロに近い。
……というか無いのでは?
「ヤバイ!! バッドエンドがかなり前倒しになっている!!」
「大人しく我が剣の錆になれ!!」
ヒュン、ヒュン!!
後ろでサーベルが振るわれる音が聞こえ、僕の命の危機を更に強く感じる。これって本当に僕死ぬのでは……? なんて言っている場合じゃないので僕は足を動かす。
「逃げろーー!!」
何故僕がこのような命の危機に陥っているのかというと話は少し前に戻るのだが……それよりも先に僕を今追いかけている彼女、ミラ・ルネフとの出会いを話そう。
ーーミラ、本名ミラ・ルネフはヒロインの1人。
父親は国の騎士団長を務めており、彼女自身も剣の腕はかなりの物である。原作ではレイは“女のくせに”とか“騎士やるやつなんておかしい”なんて言った挙句、彼女が尊敬する父親の事を馬鹿にされて校内でレイの首元に剣を突き付けるなんていう事件が発生した。その場はなんとかなったがそれ以降、ミラはレイの事を強く恨むようになった。
僕個人、彼女と初めて話したのは中等部2年生になってからだ。
「ルネフさん、これいい?」
「ハーストン殿か、どのことだ」
話すと言ってもクラス内でも事務連絡をする程度のことである。ふと僕は考えた、変なトラブルが起きるなら関わらなければいいのでは、と。フローレンスとラウラは今のところ何も起きてないと思うけど、まだ会ってないヒロインとは変な関係が出来上がる前に関係を持たなければいいのではと思う様になった。
ミラ、チャス、アリーヌの3人は会わなければいいだろう、そうすれば3人から嫌われずに済む。
……ひょっとして僕意外と頭良いのでは?
なんて言ったら妹のラウラに“はぁ? お兄様は何を言っているんですか?”と言葉とともに冷たい視線を浴びせられそうだ。
そしてとある日
僕が生徒会の仕事が終わった後、僕は忘れ物をしたことを思い出し自分の教室に戻った。
なおラウラや会長は先に帰ってもらった。
「あっ、あった……助かった……」
僕が探していた教科書が無事に僕の机の下に入っていた。明日の小テストの勉強のために教科書がないと勉強出来ないし、しかもその先生のテストは結構難しめになっているため前日勉強しないと結構辛い。そのため前日教科書を忘れる事は自殺行為なのである。
「さて帰ろう……あぁ帰ったらラウラ怒ってそうだな……」
なんせラウラと別れる前に
“はぁ……お兄様は何をしているのですか?”
との言葉を恒例の冷たい視線とともに浴びせられているのである。帰ったら……言うまでもないだろう。
「ごめんなラウラ……出来の悪い兄で……今度美味しいクッキーを作ってあげるから
ーーん、なんだあれは?」
僕が教室を出ようと思ったところ近くにブックカバーに包まれた一冊の本が落ちていた。それを近づいて手に取ってみた。
「この本は……よくある恋愛小説か……あっ、しかもこれ僕の好きな作品じゃん」
その本は僕も好きな恋愛小説作家の作品だった。生前から恋愛小説が好きだったので転生後の世界でも僕は恋愛小説を読んでおり、会長とはよく貸し借りをしている。ストーリーとしてはヒロインがとある事件をきっかけに国の王子と親しくなり、様々な問題を乗り越えながら最後は結婚してハッピーエンドという王道モノだ。
……個人的にこの話がとても好きで、ラウラにこの話の素晴らしさを小1時間ほど語ったのだが彼女は珍しく苦笑いを浮かべていた。
「というか誰だろこの本落としたの……ブックカバーをかけるぐらい大切なんだろうな」
「--そ、そこで何をしているハーストン殿」
名前が呼ばれたので振り向くと顔を真っ青にして立っているルネフさんがいた。
「あれ、ルネフさん。どうしたの?」
「そ、その本は……」
「ん? あぁこの本の事? さっき床に落ちていたのを拾ったんだ。あれ、もしかしてルネフさんの?」
「も、もしかして読んだのか……?」
「いや読んではないけど、内容の中身全て覚えーー」
「そうか」
というと何故か腰に帯刀していたサーベルを抜き、こちらに向けてきた。
「あ、あれちょっとルネフさん……?」
「ーーでは死ね」
「やばっ……!!」
僕はとんでもなく危ない予感がしたので上体を逸らすと、次の瞬間さっきまで上体があったところをサーベルが通過した。
「くっ……避けたか……」
サーベルを持ちながら残念そうな表情を浮かべるルネフさん。
「いやいや普通避けるよね!? だって明らかに僕の命を取りに来たよね!?」
命を取られそうなのに棒立ちする奴がいるだろうか。普通いないだろう。
「騎士に二言は無い
ーーでは死ね」
ヒュン
今度はサーベルを縦に振ってきた。それを僕は横に飛んで避けた。
「僕何かマズいことした!?」
「あぁ貴公はした。
ーーその本を読んだということだ!!」
「えぇーー!? それだけで!?」
「“それだけ”だと……!!」
どうやら僕は彼女の地雷を踏んでしまったらしい。
……あぁどうやら僕レイ・ハーストンはヒロインと会うとなんか必ず問題が起きるみたいです。
「あっ、ヤベッ……逃げろ!!」
僕はサーベルを避けた勢いをそのまま利用して教室から出て、そして近くの窓から学園の庭に逃げた。なお僕の教室があるのは2階、つまり窓から飛び降りたのだ。地味に足が痛い。
……ここまでくれば流石にルネフさんも来ないだーー
スタッ
「逃げれると思うな」
着地時の音は殆どせず、飛び降りてきた。
「わぉ……」
うん、分かっていた。ルネフさんって同学年の男子に匹敵するぐらい運動神経がとっても良い。
ーー2階から飛び降りるぐらい彼女にとって簡単なことなのだろうか。
「いやそんな訳あるか!? おかしくない!? 2階から飛び降るんだよ!?」
まぁ先にやったの僕なんですけどね……。
「先にやったのは貴公だろう? 貴公が出来て私が出来ないはずがない
ーーさぁ大人しく首を差し出せ。そうすれば首1つで許してやる」
「いやいや首1つって許すつもりないよね!? 僕の首1つだけだよ!?」
「さぁ男なら覚悟を決めろ」
と言いながらサーベルを構えながら僕に迫ってくるルネフさん。
「ちくしょうーー!! バッドエンドは嫌だーー!!」
僕はサーベルから逃げるために庭の中を走ることにした。
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