違う点 その2

「ただいま」


「ただいま帰りました」


「「おかえりなさいませレイ様、ラウラ様」」


 僕とラウラが屋敷に入ると玄関で既に待ち構えていた使用人達が一斉に頭を下げてきた。ラウラは普通に何事もないように使用人の前を歩いているが、僕はこの光景には一向に慣れない。なんせ僕よりも年上の大人が頭を下げて迎えているのだから。そして僕が家に帰ってきて慣れない点がもう一つあるのだが……なんて考えていると遠くからこちらに向かって走ってくる足音が聞こえてきた。


「--お帰りレイちゃん~~!! ラウラちゃん~~!!」


 笑顔で僕達の元に走って来たのは僕とラウラの父親、アーク・ハーストン。


 国のナンバー2のポジションにいて、現ハーストン家の当主。ゲームの世界では頭脳明晰で、出世欲の塊のような人間……なんだけど。


「ただいま戻りましたお父様」


「う、うんただいま父さん」


「今日は学校で何も無かったかな!? いじめられなかった!? うざい先生いた!? いたらすぐにお父さんに言うんだよ!?」


「父さん、そんな訳ないじゃないか……」


「お兄様の言う通りです、そんな方々とは関係を持ちませんよ」


 何故かこの世界の父さんは僕とラウラに過保護になっている。僕が転生したばっかのころは家族の事をほったらかしにして出世を優先していたのだが、気が付いたら毎日夕方6時には家に帰ってきて、夕ご飯は4人で一緒に食べて休日は何もなければ家族サービスをするという中々の良い父親になっていた。どこでこうなったのか分からない。


 ……だが定時に帰るって言っても自分の仕事は完全に終わらせて部下には残りの仕事に対する完璧な指示をしているのだから優秀なのは変わっていないようだ。


「ーーあなた、レイやラウラが困っているでしょう」


 いつものように優しく微笑みながら父さんの後ろからのんびり歩いてきたのはネメア・ハーストン。僕とラウラの母親であり、アーク・ハーストンの夫である。ラウラや父さんが原作と違うとすぐ分かるが、母さんは原作にあまり出てこないためか原作と違うかどうか分からない。ただ僕が転生してからあまり性格は変わっていない気がする。


「母さん、ただいま」


「お母様、ただいま戻りました」


「はい、おかえりなさい2人とも。あなた、いくら自分の子供が可愛いからっていっても、職権を乱用してはいけませんからね?」


「だって可愛いレイちゃんとラウラちゃんに危害を加えるってことはつまりハーストン家に喧嘩を売っていることだとーー」


「こら」


ガンッ!!


「ぐはっ……」


 明らかに掛け声と効果音が合ってない一撃を母さんは父さんに食らわせ意識を失わせた。夫を支えてながらも夫が暴走すると笑顔で鉄拳制裁を食らわせてくる。


「ふふ、レイ、ラウラ着替えてらっしゃい。もうご飯にしましょうか、その頃にはお父さんも意識を取り戻しているでしょうからね」


 と夫を引きずりながら自室に戻っていく母さん。

……あの細い腕に成人した男性を引っ張る力があるのだろうかと疑問だ。魔法でも使っているのか?


「お兄様、お母様はお父様を引きずる際に何も魔法を使っていないですよ」


「えっ、そうなの? というか引きずるって言っちゃうんだ……」


「事実でしょう。お母様は日課のガーデニングとお父様への鉄拳制裁で鍛えられていますから。

さぁ私達も着替えてリビングに行きましょうか」


「そ、そうだね」


 目の前で自分の父親が妻によって気絶させられて引きずられているのに表情1つ変えずに何事もなかったと妹に驚きながらもこれが僕の家族の日常になってしまったのかと思いながら僕も自室に戻り、着替えるのであった。




「--って事があって」


 夕食の時間になり、僕は今日あったことを両親に話していた。まぁ主な話は僕が生徒会に入ったことだが。


「レイちゃんが生徒会に入るのか……偉いな~~」


「本当お兄様は偉いですよ

ーー理由がまともでしたらね」


「うぐっ……」


 妹の冷たい目線を受けて目を逸らす僕。その話を聞いてからラウラは僕に対して当たりが強い。そんな成績目当てで生徒会に入ったのが悪かったのだろうか。確かに彼女は真面目な性格だからそんな理由で入った僕を許せないかもしれない。


「でもライシング家のご令嬢から直々にご指名とはなぁ……レイちゃん仲が良いからね」


「まぁ幼馴染だからね、人数が足りない時にたまたま僕っていう使いやすい後輩がいたからじゃないの」


「……お兄様はそんな扱いされていいんですか?」


「本当に心に刺さるからやめてもらえるかなラウラ……」


 ラウラはさっきよりも目を細めて睨みつけてきた。よく“美人は睨むとすごみがある”というけど正に今のラウラを見ているとそう思う。


「ラウラちゃん、お兄さんを取られて寂しいのかい?」


「そうみたいね。ラウラってばお兄ちゃん大好きよね、フローレンスさんに取られて悲しいのね」


 と両親に言われるとラウラは顔を真っ赤にして反論してきた。


「べ、べ、別に違います!! ただお兄様にはしっかりして欲しいだけです。

えぇ私の兄として!! ハーストン家の次期当主として!!」


「……本当にごめんねラウラ。こんな情けない兄で」


 というか僕が当主になるよりもラウラが次期当主になった方が全て上手くいくのでは?


 ……ってそっちの方がいいんじゃないか? 頭良い、面倒見も良いし言いたい事をはっきり言える。僕とは全てにおいて真逆だ。ラウラを当主にして僕は旅にでも出ようかな……。


「こほん……そ、そんなお兄様にご報告です」


「なんだいラウラ」


「私も生徒会入ります」


「はい?」


「だ・か・ら、私も生徒会に入ります。こう見えて学年主席です。

ーー明日フローレンスさんに話してきます」


「いやいやラウラ!? 簡単そうに言っているけどさ結構凄いこと言っているよ!?」


「私、結構優秀なんですよ。それにお兄様の面倒をフローレンスさんに任せる訳にはいかないですから。兄の面倒は妹が見ると相場は決まってますから」


「……どこの、どんな相場なのかな」





 そして次の日、ラウラは本当に生徒会に入ってきた。


「皆さん、今日から生徒会の書記として入る事になりましたラウラ・ハーストンさんです。皆さん仲良くしてくださいね」


「ラウラ・ハーストンと申します。兄とも共ご迷惑をおかけしますが宜しくお願い致します」


 ラウラを生徒会に説明する際の会長は何故か顔が引きつっており、それとは逆にラウラは少しニヤッと勝ち誇った表情を浮かべていた。


「ラウラさん、貴方思い切ったことしますね」


 ラウラの紹介が終わったあと、会長は彼女に笑顔で尋ねてきた。……だが何故だろう笑顔なのに怖い。ラウラはその会長に対して一歩も引かず、同じように笑顔で返答した。


「いえいえフローレンス会長に負けますよ。でも大丈夫です兄の面倒は私が見ますから、会長はどうぞご自身の仕事をやられてください」


「いやいやラウラさんはまずご自身の仕事に慣れてからですよ? その間はレイ君は私が面倒を見ますから貴方はゆ~~~っくり仕事に慣れてくださいね」


「私こう見えて優秀ですからそんなご心配いらないですよ」


「いいますねラウラさん……」


「「フフフ……」」


 笑顔なのになんかギスギスしている2人。そしてその間にいる僕。


 ……なんでだろうお腹がいきなり痛くなってきた。

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