違う点

 ラウラが僕らの前で笑う様になってからはフローレンス、僕、ラウラの3人で遊ぶことが多くなった。ラウラは最初こそ兄である僕の後ろに隠れて、恐る恐ると言った感じだったが徐々に自分から声をかけるようになった。どうやら面倒見がいいフローレンスと甘えるのが苦手なラウラは相性がいいみたい。


 そんな感じで3人で行動するようになりながらも、僕は自分のこれから待ち受けているバットエンドを回避するために陰で努力していた。勉強や運動、魔法などを努力していたのだが一向に伸びる気配がなく、魔法に至っては生まれつき魔力が高かったラウラに圧倒的な大差を付けられていた。


「だいじょうよレイくん、あなたならできるわ!!」


「おにいちゃんおちこまないで」


 僕が魔法の練習で失敗するたびにフローレンスとラウラが気を使ってくれるのが結構胸に刺さる。





 そんな感じに色々と努力をしていると気が付いたら僕は中等部2年になり、フローレンスは中等部の生徒会長になり、ラウラも同じ中等部に進級していた。

……だが、ここまでは原作通りなのだが違う点がいくつかある。


「ーーお兄様どうか致しましたか?」


 隣で歩いているラウラが僕の方を覗いてきた。昔こそ僕の背中から中々出ないで他の人と話さなかったが、今では真面目で面倒見がいい人として慕われているらしい。見た目も背も伸び、腰まで伸びた綺麗な銀髪も彼女の綺麗さを際立たせている。妹が立派に成長してお兄様嬉しいです。


「あぁ、ごめんラウラ考え事していた」


「考え事しながら歩くのは危険ですよ、さぁ一緒に帰りましょう」


 何故かラウラは僕と一緒に下校している。シナリオならラウラは中等部入学と同時に寮に引っ越すはずだったのだが、中等部に入学してもまだ僕と一緒に登校している。これはシナリオ通りではないことだ。


「ねぇラウラ」


「何ですかお兄様」


「寮に行かなくていいの?」


「寮? 私が? 何故ですか?」


「え、えっとだね……」


「はぁ……お兄様、しっかり者の私がいなくなったらお兄様の目覚ましはどうするんですか? お兄様の面倒は誰が見るんですか?」


「毎日朝大変お世話になっております……頭が上がりません」


 僕は朝が弱い。そのため毎日ラウラに起こしてもらっている。何とも情けない話だが彼女がいないと僕は朝が起きれずもれなく授業に遅刻するだろう。


「それにいくら私達の家が裕福だといえ、家から通える距離に学園があるのですから寮に入る必要がないですよね? そ、それにわ、私は……」


「う、うん……? ごめん最後らへん聞こえなかったんだけど……」


 と最初は勢いが良かったものも、何故か語尾が小さくなっていった。何が言いたいのかは分からないが僕に対しての文句では無かったと思いたい。


「何でもないです!!」


「はぁ……まぁ僕はラウラと一緒に登下校出来て嬉しいな」


「そ、そうですか……お兄様も美人な妹といて嬉しいに決まってますよね」


「うん、そうだね。あっ、そういえばラウラ」


「はい、何ですか?」


「僕、生徒会に入ることになったんだ」


「……えっ?」


 珍しくラウラがフリーズした。目と口を開けたまましばらく固まっている。

……何かマズい事言ったかな?


「ち、ち、ちなみにお聞きしますが……ど、どのような経緯で?」


「いや特に面白い経緯は無いけど……」


「面白いとかはどうでもいいんです!! 私にはその生徒会に入った経緯が知りたいのです!!」


 さっきまで固まっていた僕の妹はいきなり俊敏な動きで僕の胸元を掴んでガンガン揺らし始めた。我が妹よ拳が胸に当たって痛い。


「は、はい……話すから揺らすの止めて……」


「最初からそう言えばいいのです。さぁお話ください、お兄様」


「だからそんな話すことでもないって……」


「早くお話しください!!」


「い、いえっさ……今日さ、会長に話しかけらーー」


「会長!? 昨日まで“姉さん”って呼んでたのに!?」


……そんなに驚くことかな。というか驚くところそこなのか?


「い、いやだって入るって言ったら

“じゃあ私の事を会長と呼びなさい”って言われて……」


「それまでの経緯も含めて詳しく!!」


 とラウラに詰められながらその時の事を話す僕であった。



話は遡ること5時間前……


「--あっ、レイ君」


 僕が廊下を歩いているとふと、後ろから声をかけられ振り向くとそこには笑顔のフローレンスが立っていた。


「姉さん、どうしたの?」


「レイ君ってどの部活にも所属してないわよね?」


「うん、だって勧誘が面倒だからね」


 入学当時は僕の家の名前目当てで沢山の部活から勧誘があったのだが、僕は全ての勧誘を断った。まぁ断ってからも勧誘は止むことはないが全て断っている。


「なら私から提案があるんだけどいいかしら?」


「姉さんの提案ならいいよ、何をすればいい?」


「レイ・ハーストン君、貴方を生徒会主務に任命します」


「生徒会主務……? えっ、僕が?」


「そう貴方を主務に任命します。私が現会長なのですから役員の任命権は少しはありますので私が信頼している人を任命したいのです」


「姉さんが僕を?」


「はい、あとレイ君にもメリットありますよ?

まず部活のしつこい勧誘から逃げれます、そして高等部に進学する際に内申点が増えます

……成績があまり良いとは言えないレイ君は少しでも欲しいですよね?」


「うぐっ……」


 僕は勉強、運動、魔法、学校で成績を付けられる科目全てにおいて平均より下である。出来れば少しでもプラスの点が欲しい。今のうちに貯金したい。


 ……どうせこの後僕はバットエンドが待っているのだから家から追い出されても少しでも良い就職先を探すために必要だ。


「で、どうしますかレイ君?」


「主務の話、謹んでお受けします」


 僕は殆ど悩まずに答えた。

……学生であるうちは成績とは切っても切れない関係なのである。特に僕には。今は平均より下で済んでいるが、これから何が起きるか分からないので今のうちに内申点は貯金しておきたい。そしてラウラという優秀な妹がいるので兄として情けないところは見せられない。


「じゃあ先生方には私から説明しておきます、あと」


「あと?」


と言うと僕の方を振り返り小悪魔のような笑顔で


「私の事はこれから“会長”と呼んでね」


 と言い去っていった。その後ろ姿は心なしか気分が良さそうに見えた。


「はぁ……」



ーーーーーーーー



「……って流れかな」


「フローレンスさん、手が早いですね……!!」


 僕がその経緯を話し終えるとラウラは何故か会長に怒っているように見えた。一体この流れで怒る箇所があったのだろうか? 会長とラウラは普段は仲が良いけど、たまに2人が笑顔で喧嘩していることがある。


「あ、あのラウラさん?」


「お兄様が前からフローレンスさんに甘いのは知っていましたが……まさか断らないなんて……」


「い、いやだって成績大切なんだよ!?」


「勉強なら私が教えます!! いや、私が付きっ切りで教えてあげます!!」


「あっ、なら会長もよぼーー」


「お兄様程度なら私だけでも十分です!!」


「……ちょっと泣くよ?」


 ……妹に“程度”って言われる僕って兄の威厳ないよなぁ。なんていう会話をしながら家までの道を2人で帰るのであった。

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