なおさら質が悪い
庭での騒動が起きた数日後……
「レイ、いいか?」
「ミラどうしたの?」
僕とミラは先日の庭の掃除の件以降、互いに下の名前で呼ぶようになった。一度その瞬間を見た会長とラウラは引きつった笑顔をしていたのが印象に残っている。何故なのかわ不明だが。
「そのだな……あの……」
「あぁ本ね、はい」
僕は昨日頼まれていた本をミラにこっそり渡す。ミラは目をキラキラさせてその本を受け取った。
「おぉ……ありがたい」
ミラはいつもクールな表情をしているが好きなものがあると目をキラキラさせて喜ぶ。
「レイにはいつも世話になっているな。小説の話し相手や庭の事件の件も」
「……庭の件は思い出したくないなぁ。結局あの日放課後も返却で掃除したし」
「ハハハッ、確かにレイは大変だったな。
……その元凶、私だったな、本当にすまない」
といきなり頭を下げると周りが一気に騒がしくなった。
“うわっ……ルネフさんに頭下げさしてるよ”
“さすが天下のハーストン家の長男だな、騎士団長の娘にも容赦ない”
なんて事実無根の噂があちこちで飛び交う。というか僕はいつ人に命令して頭を下げさせたのだろうか。
「い、いいって頭上げてって周りからの視線が辛いよ!!」
……というか僕がこの場にいられなくなるから本当に止めて欲しい。
「いやそうはいかないこれは私なりのけじめで……!!」
僕の意見とは裏腹にミラは一向に頭を上げない。
「ちょっと止めてって……!!
と、とりあえず僕はもう気にしてないからね!! じゃ!!」
僕はいたたまれなくなり教室から逃げるように去った。
教室にいづらくなり、僕は庭で散歩していた。例の事件があったが僕個人この庭は結構好きだ。季節毎に色々な花が咲き誇りいつ歩いても見ていて飽きない。
「ミラって真面目なんだけどな……融通が利かないって言うか……」
ミラは本を拾ったのを勘違いされサーベルを突き付けられた際も、さっきの教室の件もあるが根はとても真面目だ。だがそれがたまに真面目過ぎて融通が利かないところがある。
「とりあえず昼休みが終わるまでここにいよう……うん」
昼休みが終われば少しはさっきの噂も静かになるだろう。
「--おやレイ君ではないですか? どうしたんですか?」
そこには会長が笑顔で不思議そうな表情を浮かべて立っていた。
「あっ、会長……どうしてここに?」
「私は気分転換のための散歩ですよ、ここを歩くと気持ちが落ち着くんです」
「あぁ確かに分かります、それ……なんか疲れが癒されていく気がする……」
「また何か問題を起こしたんですかレイ君?」
と笑いながらそう言ってくる会長。前回の事件のせいで僕の校内での印象は完全に問題児になってしまった。ミラを守るためと言えども失ったものは結構大きい。
「いや僕は起こしてないですよ? あと僕問題起こしたの一回だけですよ……」
僕が自ら問題を起こしたのはミラの本の件だけだ。それ以外は僕は自ら起こしてない。
……い、いや本当だよ?
「でもレイ君、あの事件の犯人って貴方じゃないですよね?
ーー大方、ルネフさんを庇ったんじゃないですか」
「……流石会長、隠し事出来ないですね」
「当たり前です、レイ君とどれだけいると思っているんですか。今回。貴方は騎士団長の娘であるルネフさんがサーベルを振り回していたなんて学園側にバレたらいけないと思ったから、あんな適当な理由をでっち上げて自分が犯人であると周りに言ったんですよね」
「まぁ……あの後、めちゃくちゃ母さんとラウラに怒られたんですけどね……」
母さんとラウラから合わせて2時間説教のあと、夜飯抜きという本当に災難だったなぁと思う。
「まぁ背景を知らないと怒られても仕方ないですよ……でもなんでそこまで?」
「あそこまで顔を真っ青にされたら会長も同じこと思いますよ」
「本当にレイ君って優しいですね。ルネフさんが羨ましいです。私も同じ立場だったら助けてくれるかしらねぇ?」
「会長ってそんなミスしないじゃないですか~またまた御冗談を」
「私は完璧じゃないんですよ? みんなは私を神様でも思っているのかしら?」
「いやいや会長、勉強も出来て、運動も出来る、その上性格も良い欠点なしの完璧超人を神様と言わずになんて言うんですか」
「も、もう……褒めても何も出ませんよ」
「僕は本心を言っただけですって」
僕は会長が陰でどれだけ努力をしているか僕はゲームでも実際の世界でも見ているのでよく知っている。だからさっき言ったことは僕の紛れもない本心だ。
「それだと尚更質が悪いですよ……貴方という人は……もうこれだから」
「ん? 会長?」
「い、いえなんでもないですよ。ちなみにレイ君はお昼休みお暇ですか?」
「暇というか……ほとぼりが冷めるまで逃げようかなと……」
「な、なんか大変ですねレイ君も……それなら私と散歩しながらお話でもしますか?」
「僕なんかで良ければ大丈夫ですよ」
1人で散歩するよりも誰か、特に親しい人と話しながら散歩する方が楽しい。
「では、お話しましょうか
ーーほとぼりが冷めるまで、ですかね?」
と会長はイタズラをした子供のような笑顔を浮かべて言うのであった。
その後、僕と会長は休み時間が終わるまで庭を散歩しながら会話を楽しみ分かれた。僕が教室に戻るとクラスメイト達は各自別の会話をしていたため誰も僕の話をしている人はいなかった。
……ただミラだけは自身の席から僕の事をずっと申し訳なさそうに見ていた。
そして放課後、生徒会室に行って生徒会の仕事をするのだが……
「フフフン~フフン~」
いつもは何も言わずに黙々と仕事をやる会長が珍しく鼻歌を歌いながら上機嫌に仕事をこなしていた。鼻歌を歌いながらも作成した書類には一切のミスがないのが恐ろしい。
「ねぇラウラ」
「何ですかお兄様?」
「会長なんかとっても上機嫌なんだけど理由知っている?」
「さ、さぁ私は分かりません……お兄様も知らないんですよね」
「どうしたのかしらハーストン兄妹?」
僕らが一緒に首をかしげると会長は上機嫌に尋ねてきた。
「「い、いえ何でもないです!!」」
「そう? なら良いわ。フフン~フフフ~」
そして再び鼻歌を歌いながら書類のチェックを始めた。
……気のせいかもしれないがいつもよりチェックのスピードが速い。
その日は機嫌が良い会長は仕事をいつも以上にテキパキこなしていつもより早く生徒会の仕事が終わり、帰り道も会長はスキップしながら帰っていた。
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