ファーストエンカウント~ラウラ前編~
フローレンスと出会ってからしばらくすると彼女はちょくちょく僕の家に遊びに来るようになった。僕の母親は彼女が来ると嬉しそうにお菓子を準備して話をしたりしている。
そしてとある日の夕方、父親が帰ってくると幼い女の子を一緒に連れて帰ってきた。
「おかえりなさい、あなた。その子は例の子?」
「あぁ、そうだ」
とどうやら既に両親の中では話が進んでいたようだ。僕は2人の会話を聞いたわけじゃないが想像するに父親が連れて帰ってきた子は僕と同じ銀髪ということもあってメインヒロインの1人のラウラ・ハーストンだろうと思われる。
「パパ、ママ、この子は?」
どこでボロが出るか分からないので僕は日頃出来るだけ年相応に振る舞いを心がけている。
……まぁその割にはフローレンスの前では結構大人びたことをしたが。
「レイ君、今日からね、あなたはお兄ちゃんになるの」
「お兄ちゃん……僕が?」
この瞬間、この幼い女の子の正体がラウラ・ハーストンというのが確定した。
「そうレイ君、お兄ちゃんよ。名前は……」
「ーーラウラ・ハーストンだ」
母親が名前を思い出せずにいると父親がその名前を言ってきた。母さんは申し訳なさそうに女の子に謝った。
「あっ、ごめんなさいね、ラウラちゃん」
やはり僕の予想通りだった。確か設定だと分家の出身だったが両親は死んだので本家のレイの妹として引き取られたはずである。
……どうやらここまではシナリオ通りだ。
ラウラは自分が引き取られたという事を兄から散々言われ、兄であるレイ・ハーストンを嫌う様になった。その後、兄が学園での地位を失墜する際には今までの恨みをこめて主人公を助ける側に回っている。その後、彼女のルートに入るとレイが命を落とす際に父親の策略が絡んでいたことを知り、最後には父親を失脚まで追い込むのである。
……僕が言うのもなんだがラウラは家族に恵まれていないのではなんて思ってしまう。両親とは死別、引き取られた家では兄がクズ、父親は出世のために手段を選ばない人物だ。でもそんな酷い家族でも彼女は兄が死んだ際には悲しみ、父親を失脚させる際には躊躇ってしまう優しい心を持っている。
「……」
当のラウラは僕の父親の服に掴んだままこちらを伺うように見ていた。まぁいきなり知らない場所に連れてこられたらそうなるのは仕方ない。
「おい、レイ」
「な、なに?」
「お前は兄として妹の面倒を見ろ、ハーストン家の人間なら出来て当たり前だ」
わぉ……まさかの転生後初めてのパワハラ。というか“ハーストン家の人間なら”ってなんだよ。僕5歳児だぞ? 5歳児に何を求めているんですかねこの人は? あっ、そういえば前世で僕17年は生きているんだわ。
「レイ、返事は」
「僕、がんばる!! おにいちゃんとしてラウラちゃんのめんどうみる!!」
5歳児相応の笑顔と返事でそう答えた。だが父親は僕の返事を聞くと特に興味無さそうに呟く。
「……そうか、ならやってみるといい」
だから“やってみるといい”ってなんだよ!! やれって言ったのあんただよね!? いきなり他人事やめて欲しいな!! こっちは対応を間違えるとバットエンドまっしぐらだから慎重に物事を進めたいんだよ本当に!!
「ら、ラウラちゃん、よろしくね……」
「…… 」
あっ、目を逸らされた。最初からこれだと僕泣きそう。
「私はもう休む。レイはラウラに屋敷を案内しろ」
「ぼ、ぼく?」
「お前でも道案内できるだろ」
と言うと父親は僕とラウラ、母親をその場に残し自室に戻っていった。……どこまで人任せなんだろうか、あの人は。なんて僕が思っていると母親は
「まぁあの人は不器用なんだから……もぅ」
と微笑みながら父親が去っていった部屋の方を見ていた。そして僕とラウラの目線の高さまでしゃがみこんで僕らの頭を撫でてきた。
「レイくん、ラウラちゃん、パパはあぁ見えて貴方達の事がとぉ~っても大好きなのよ」
「ほんとう?」
「えぇ本当よ」
……僕個人、絶対そんな気がしない。というかあの態度を見て不器用で終わらせてしまう母親も結構肝が据わっていると思う。まぁあんな人の妻になるということはそれぐらい肝が据わっていないといけないのだろう。
「でも、今日はもう遅いし、2人ともおねんねしましょうか?」
確かに時間はもう8時を回っていた。僕ら小学生にもなっていない子供は寝る時間だろう。僕自身も身体の年齢に合わしてなのかさっきからとっても眠い。隣のラウラもさっきから眠そうに目をこすっている。
「おねんねする……」
「……ねます」
と僕が屋敷を案内するのは明日以降に持ち越しとなるのであった。
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