ファーストエンカウント~フローレンス後編~
僕はとりあえず自分が気に入っている場所を紹介することにした。
「ここはどうかな」
「わぁ……すごい」
まず最初に案内したのは庭の中にあるバラ園だった。母親がバラが好きなため、夫である父親が家の庭を一部改造して造園したらしい。……正直あの父親が妻のためにわざわざそんなことをしたなんて信じられないが。
「気をつけてね……棘あるから痛いよ」
「うん、わかってる!! ねぇこれいっぽんほしい!!」
「僕の一存じゃ何もできないかな……」
「いちぞん?」
「あぁごめん、僕のママに聞かないと分からないや」
「そうなの? ならきいて!!」
……この子、容赦ない。
そういえばフローレンスってゲームでも小悪魔的なところがあったのを思い出した。まさかそっちの鱗片もこの時期から出ているとは……。僕大丈夫だよね? まさか笑顔で味方のフリをしながらしれっと後ろからナイフとかで刺されないよね?もう未来に心配要素しかないんだけど……。
なんて考えているとフローレンスは僕の服を引っ張ってきた。
「ん?」
「ねぇつぎは!!」
「えっ、次?」
「つぎあんないして!!」
「はいはい、次ね」
そして僕はフローレンスに言われるがまま庭の各所を案内した。
それぞれの場所を案内するたびに彼女は目を輝かせて喜んでいた。
「すごいねあなたのにわ!!」
「僕の庭じゃないけどね……」
なんなら僕手入れ殆どしてないもん。母親が僕を心配してか手入れをさせてくれない。
「わたしがすごいっていったらすごい!!」
「なんと横暴な……」
「おうぼう?」
「いやごめん気にしないで」
つい生前のくせで言葉を使ってしまったが相手はまだ小学生にもなってないような年だ。“横暴”なんて言葉を知らないだろう。でも分かり易い言葉を使ったら彼女を泣きかねない。ならばここはうやむやにするのが一番だ。
「ねぇあなたってあたまいいのね!!」
「僕はそうじゃないよ……そしてライシングさん、そろそろ君のママとパパの元に帰ろうよ」
僕が親の元に帰ろうと促すと彼女は先ほどまでの笑顔から一気に表情が曇り始めた。
「え……でもべんきょういや」
「そりゃ勉強嫌だろうけど……頑張ろうよ」
「いやのはいや!!」
来た、子供の得意技“いやいや攻撃”。
子供なら一回は必ずやる得意技、効果は両親を困らせる。
……まぁ僕の場合は両親からその得意技すらさせてもらえなかったがな!!
「ライシングさん……」
「ふろーれんす!!」
……なんか面倒な事になってきた。
「フローレンスさん、でもさ勉強頑張るといいことあるよ」
「ない!!」
「でも僕は知ってるんだ、君はとても頑張り屋だってこと」
「がんばりや?」
「すごいってことだよ」
彼女は生徒会長になってからも勉強も運動も常に努力し続けた。しかもそれを人に誇ることをしないで常に謙虚の姿勢を崩さなかった。その様子は僕の生前の兄を面影を思い出す。
“〇〇は○○に出来ることをしようぜ。なぁにお前は意外と凄い奴だからな”
よく兄は僕に対してそう言っていた。ならば僕は僕に出来る事をしようと思う。
「わたし……すごい……?」
「うん、君はこれから更に凄い人になっていくんだ。そうしたら君には沢山お友達が出来るよ」
「ほんとう!?」
「うん、本当だよ」
だって君は沢山の生徒から尊敬の眼差しを受けて、教師からも尊敬される人物になっていくのを僕はゲームだけど知っている。その様子を遠くから見ていたいと思ったけどよりによって僕悪役なんだよな……。見ていたら睨まれそうだな……。
「ならわたしがんばる!! おべんきょうもならいごとも!!」
フローレンスは庭を案内していた時のような笑顔になっていた。
よく可愛い子は笑顔が似合うというがこの子を見るとまさにそうだと思う。
と僕が思っているとフローレンスが不思議そうに見てきた。
「あなたふしぎね」
「僕?」
「だってあなたわたしよりとししたなのにしっかりしてるね」
確かに今の状況を振り返ってみると……
僕 (レイ・ハーストン) 5歳
フローレンス 6歳
……うん、確かにおかしいね。
設定でもレイよりもフローレンスの方が年上のはずだ。
「き、気のせいじゃないかな……」
そりゃ僕の見た目は5歳児だが一応本当の歳は17歳ですからね。
……あれ、なんかこのフレーズ聞いたことあるぞ、どこかで。
「ねぇ、あなたおなまえは?」
「さっき言ったと思うけど……レイ・ハーストンだよ」
「れい・はーすとん?
ーーじゃあれいくんよね」
「レイ君……うん、それでいいよ」
「れいくん、これからもれいくんのおいえにいってもいい?」
「僕の家? うん、いいよ」
まぁ僕に何も権限はないだろうけど彼女が来ても別に困らないだろうし。
……もしかしたら僕のバットエンドを回避できるかもしれないしね。
「やった!! じゃあこれからもよろしく!!
わたしそろそろもどるね」
「そうだね戻ろうか」
流石に僕が会場を出て結構な時間が経っていると思う。そろそろ戻らないとお互いの両親が心配するだろう。
まぁこの後僕は彼女を会場まで送って、両親に手を引かれて笑顔で会場を後にした。
「れいくん!! じゃあね~ばいばい~!!」
「じゃなね~」
「……レイ君、少しお話をしましょうか」
「え、ま、ママ……?」
……そして僕はというと母親から“大事な娘さんを連れまわした”としてこっぴどく怒られた。
連れまわしたというよりも僕が彼女に連れまわされたという方だと思う。
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