よりによって

「ん……ここは?」


次に僕が目を覚ましたのはベットの上だった。



「てかベット柔らかっ!! 天蓋なんて初めて見る!!」


触り心地やベットに天蓋がついているの部屋の内装を見ると、この家は中々裕福な家なのだと思う。

どうやらあの神は本当に約束を守ったようだ。


(本当にあのゲームの世界に転生出来たんだ……!!)


思い付きで言ったことがまさか本当に叶うなんて思わず

僕が初めての事に驚いていると、部屋の外からノックの音がした。


「は、はい」


「ーー坊ちゃん、朝でございます」


声から察するにこの屋敷で働いているメイドだろうか。メイドという存在が僕を更にゲームの世界に転生したんだと実感させる。


「お、起きます!!」


「はい、かしこまりました

ーーレイ坊ちゃん」


(ん? レイだって)


どうやら“レイ”というのが僕のこの世界での名前らしい。作中で“レイ”という名前の人物は1人知っているがまさかのそ人物の訳はないだろう。流石にあの神も転生先を間違えるってことはないと思いたい。


(いやいやまさかね……あの神もそこまでおっちょこいじゃないだろうし)


僕はそう思いながら枕元にあった着替えに着替えようと思い鏡の前に立つと、そこには銀髪の美少年が写っていた。今は美少年だけど将来は爽やか風イケメンになりそうな顔をしている。


(うわぁ……自分で言うのもなんだけど随分可愛い顔をしているなぁ……しかも銀髪って珍しいな……でもこの顔どこかで見覚えあるんだよな……覚えてないけど……)


自分の顔をとは思えない顔をしばらく引っ張ったり、触ってみて楽しんでいると


「坊ちゃん? どうされたのですか? 随分お着替えに時間がかかっているようですが……」


「ご、ごめん、今行く!!」


つい転生した後の姿に興味を持ってしまい時間を忘れてしまったようだ。僕はすぐ着替えると自室のドアを開けるとそこには本当にメイドが立っていた。


(本当のメイドだ……!! 初めて見る……!! というかこの屋敷大きくない?)


メイドの後ろを見ると長い廊下が続いていた。どうやら僕は結構お金持ちの家に転生できたみたいだ。


(うわぁ……でも何だろうかこの胸のざわつきは……)


それだけなら素直に喜べるのだけどさっきメイドが僕を“レイ”と呼んでいたのが妙に引っかかる。その上自分の転生した人物の顔を見て妙な既視感を覚えるのも引っかかる点だ。


「どうされましたか?」


「ぼ、僕!?」


「はい、レイお坊ちゃんのことでございます」


「何でもないよ」


「また旦那様に言われてしまいますよ?

ーー“ハーストン家の名に相応しいふるまいをしろ”と」


「ん……ハーストン家だって……?」


ハーストン家と言えばゲームの世界ではかなりの力を誇っている名家だ。

その名を聞いた瞬間、嫌な汗が身体中から出てきた。


「ね、ねぇ……1つ変な事聞いていい?」


「変な事? えぇ私がお答えできることでしたら構いませんよ」


そして僕は自分の置かれている環境から想像した疑問をメイドに尋ねてみた。


「僕の名前ってさ

ーーレイ・ハーストン、かな?」


「何をおっしゃいますか、貴方様はハーストン家の跡取りでございますレイ・ハーストン様でございます。お年は5歳です。」


「う、そ、だ、ろ……」


メイドから返ってきた答えは僕が予想していた通りの最悪の答えだった。

僕が転生した人物の名はレイ・ハーストンというらしい。その名前に僕は聞き覚えがあった。

ーー何故ならその名はモブどころではなく作中で有名な悪役キャラだからだ。




ーーレイ・ハーストン


顔こそ爽やかイケメンだが性格は傲慢で、陰険。本人には大して能力がないくせに家の名、特に父親が国の重役に就いているのをいい事に常に偉そうに振舞っている。転校してきた主人公を目の敵にしてありとあらゆる手を尽くして追い詰める。だが最後には全ての行いがバレ、学校から退学処分をくらった挙句、父親の政敵を蹴落とすための策略に利用されて命を落とすのである。



……まぁ簡単に言うと僕は死亡フラグが立っている悪役キャラに転生してしまったのだ。それを知った瞬間、身体から力が抜けていくのを感じた。


「……」


バタン


そしてそのまま背中から床に倒れた。


「坊ちゃん!? しっかりしてください!! 坊ちゃん!!」





次に目を覚ましたのは朝、起きた同じベットの上だ。

どうやら僕はそのまま気を失ったようだ。


(それよりもどうしよう……!!)


僕は今、自分が置かれている状況に恐怖を感じていた。

神の間違いによって命を落とした後、転生した先がまさかの悪役キャラという不運のコンボによって僕のテンションは下がるどころか雪崩が斜面を下るがごとく急降下している。

……いや斜面なんて甘い、足元から真っ逆さまに落ちているの方が近いか。


(というかあのクソ神……やりやがったな……!!)


あの神は話を聞いているとどうやらこのゲームを知っているのだろう。知っているなら何故僕をこのキャラに転生させたのだろうか。というかあの神まさかだと思うがまた間違えた可能性がある。勿論憶測でしかないのだが僕の他に同じような目にあった人がいたのだからまた間違えられ可能性は大いにある。


「てか、これからどうしようーー!! いきなりバットエンド回避を考えなきゃいけないのかよ僕はーー!!」


思わずベットの上で叫んでしまった。

だって僕は破滅エンドしかないキャラに転生してしまったのだ。お先真っ暗である。とってもマズいのである。僕もサイトで悪役令嬢転生モノをよく読んでいて楽しんでいたが、いざ自分がその立場になってみるとそうはいかない。そのためかさっきから頭痛がするような気がする。


「だ、大丈夫ですか坊ちゃん!!」


僕の大きな声に何かあったと思ったのか先ほどのメイドが部屋に入ってきた。


「ご、ごめん……気にしないで」


「そうですか、また何かご要望がありましたらお呼びください」


と言うと部屋の外に出て行った。


「はぁ……どうしようなぁ……これ」


朝起きた時のワクワクから一転、これからの自分の身の振り方をどうすればいいかという事が頭の大半を埋めていったのであった。

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