ここまで怒りを感じたのは久しぶり

事故に巻き込まれ、次に僕を開けたのは真っ暗な空間だった。


「ここはどこだ……?」


「--ホッホッホッようやく目を覚ましたかの?」


声がした方をみるとそこには光る何かがあった。暗闇中で何かが光っているとしか分からない。だがそこから声がするのは確かだ。


「貴方は何だ……?」


「ワシか? ワシは神様じゃ」


「……」


いきなりの発言に驚く僕。


「夢なら覚めてほしい……」


「お、お~い、無視はやめてくれい~?」


「あっ……僕死んだんだ……夢もないか」


「……そして1人で解決するのもやめてもらえないかの?

ワシ神様じゃよ? もう少し丁寧にそして丁重に扱って欲しいの……」


「はいはいじゃあ神様、ここはどこだ?」


「神様に対しての口調とは思えないの……まぁよい。ここはな……

ーー死後の世界の一歩手前じゃ!!」


「一歩手前……?」


「そうじゃ、お主は今生と死の境にいる」


「はぁ……」


あまり実感が無いけど今のこの状況はそういうことなのだろう。


「まぁ生の方に戻れないがの。お主の身体、手足が変な方向に折れて酷いもんじゃな」


「だよね……」


まぁ死ぬ前に感じたあの痛みならまぁ当然だろう。そりゃ指が動かないわけだ。


「で、僕はこのままあの世に行くのかな?」


「まぁそれもありなんじゃが……先に詫びようかの」


「詫びる? 僕に?」


一体何をこの神様? は僕に詫びたいのだろうか?


「実はなワシな……」


「……」


「ワシな……」


「早く言ってくれ」


「--手違いでお主を死なせてしまったのじゃ」


「おい、クソ神様僕の人生返せ」


ここまで他人に怒りを感じたのは久しぶりだろう。いやこいつは人じゃないか。

ーーそんなことはどうでもいい、このクソのせいで僕の人生は終わったのだ。怒らない訳がないだろう。


「お、お主落ち着くのじゃ」


「いや普通落ち着けるか? 手違いで死んだって言われたらさ」


「ま、まぁそうじゃがの、神にも間違いはあっての……」


「あぁ?」


「すまん……そ、そんな不幸なお主にワシが願いをかなえてやろう」


「不幸になったのはお前のせいだろうな」


「ギクッ……さ、さぁお前の願いをかなえてやろうぞ!!」


明らかに自分の過失なのに話を変えようとする神と名乗る存在。


「願いねぇ……」


間違いで殺されたのには怒りがあるが、僕個人あまり望みがない。生きていたころは色々とあった気がするが既に死んでいるのでかなえられない。


「今回はワシの手違いじゃからな、お主さえよければお主が持っている記憶をそのまま引き継いで別の人物として生き返らせる事も可能じゃよ」


「大した記憶がないけどね」


たかが10数年の記憶を持ち越して人生をやり直したところで役に立つのは数年だけだろう。ましてや僕はそこまで能力が高い訳ではないので尚更意味がない。


「お主……ワシがフォローしにくい事を自分で言っちゃいかんだろ……」


「事実なんだからしょうがないだろうが……願いか……」


願いと言われて今まで自分がかなえたいと思っていた願いを頭の中で思い出す。頭が良くなりたいとか、運動が出来るようになりたい、友達が欲しいなど様々あった。だがどれも今となってはどうでもいい気がする。


「無いなぁ……」


「お主は無欲なのか、はたまた変に諦めがいいのか分からんの……」


「だってやりたいことも……待てよ」


ふと頭の中にとある考えが思いついた。本来ならそんな考えなんて思いつくはずもないのだがもう死んでいるということである意味吹っ切れたのかもしれない。


「おい神様」


僕は目の前の輝きに対して声をかけた。


「言葉使い悪いの……まぁよい何じゃ」


「僕をとあるゲームの世界に転生して欲しい」


「ほう? ちなみにどういう系統のゲームじゃ? アクション? 戦略? 恋愛? ホラー?」


「恋愛系だ。名前は“青い月の見える丘で”だ」


「確かそれはお主が生前夢中になっていたゲームじゃの。まさかそのゲームで主人公にでも?」


「いやそれはいい。

ーーだって幼少期死にそうになるからね」


そうなのである。

青月の主人公は学校に入学するまでに散々な目に合う。最初は生みの親に捨てられ、そこからホームレス同然の生活を5年以上続けないといけない。主人公は前向きに物事を考える力と生まれ備わった高い魔力のおかげで生活できたかもしれないが、考えが後ろ向きな僕には到底出来ない。


「なら近くで彼らの生活を見てみたい。それで僕は平凡に過ごしたい」


「はぁ……ワシは他人の幸せを見て何が楽しいか分からんがの。今回はワシが全面的に悪いし、主人公にでもしてやってもいいのじゃぞ?」


「だから主人公は良いって。そこまで言うならそれなりに裕福な家で転生させて欲しい。そうしたら僕はそれなりに生活をしながら見ていられるから」


日々の生活に困らずに普通に過ごせて、その上で実際の彼らを見れるならそれはあのゲームをとことんやりこんだ僕からしてみれば何よりも幸せなことだと思う。

……あと少しは贅沢な生活をしてみたいとい気持ちがある。


「……本当にお主はよく分からん。他人の幸せを見て自分の幸せにするとはな……お主のような奴は初めてじゃ」


「“初めて”ってことは僕以外に手違いで死なせた人いたの?」


「……さぁ転生の準備をするぞ!!」


あっ、これ絶対僕の前に手違いで殺された前任者いるぞ。この神同じ過ちを繰り返せばいいのだろうか。というかこの神、手違いで戦争みたいなこと起こしてないよな?そうだと思いたい。


僕がそう思っていると目の前の光が更に輝きだした。


「さぁ〇〇よ。不慮の事故で終わった人生の代わりに新しい人生を謳歌するといい!!」


「終わらせたのあんたが原因だけどね」


「うぐっ……中々痛いところをついてきおったな」


「いや事実だろ」


確かにこの神には恨みしかない。だけどこれから自分の好きなゲームのモブとして生きていけるのだ。なら気分を変えて楽しむとしよう。

……あの神のおかげというのは何とも癪だが。



そうして目の前の光で周りが眩しくなったあと、僕はまた意識を失った。

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