自称「孤高」の松田えいるは友達がいない!

麻麻

自称「孤高」の松田えいるは友達がいない

スピーカーから授業終了のチャイムが鳴り「私、今日バイト休みー」と聞いてもないのに彩は買い物行こう!と腕を組んでくる。

「ちょ…私金欠ー」とふてくさがれているが誘われて嬉しいのはまんざらでもない。

「じゃあ、私も行く〜」と早苗も乗り気だ。

山手線に乗って、彩の行きたかったショップに行き服を選ぶ彩に待たされ文句を言いつつカフェに入る。

「彩はさ、自分以外の店でも買うんだね」と早苗が聞くと「うん。あ!自分のとこでも買うよ。」と返すのを見ながら頼んだスイーツを食べつつ2人の会話を見ているとなんだかとても平和でなぜか懐かしく思う。

「えいるもさー、ちょっとは服買いなよ。うちの店結構安いから来なって」とアパレルでバイトをしてる彩にせがまれる。

「暑くなったらね」「今、5月です。もう半袖とか出てるじゃん」

まあまあと早苗が間に入る。

「まさか、彩が本当にあのショップで働いてるとは」びっくりですわとひやかす。

「当たり前じゃん!学生で大丈夫かって自分でも思ったんだけどさー」と前々から大学に入ったらアパレルで服売りまくるんだと語っていた彩は話を続ける。

友達が眩しい。と同時に懐かしいー。

何なんだろう。自分はさっきから感傷的になっているらしい。

さては今日の授業のラストが眠かったから…それだけなのだろうか。

「えいるー?おーい。食べるか寝るかどっちかにしなー」

呆れて彩が目の前をぱたぱた仰いで隣でくすくす早苗が笑ってる。

ごめん、だって久しぶりに楽しくてー

本当に夢みたいでしばらく寝せて欲しいー

薄情だなと思いつつも本気で睡魔が襲ってくる。

そのまま私は夢に落ちていった、はずだった。



パキン!

というノートをとっていたシャープペンの芯が折れて私は目を覚ました。

スピーカーからはちょうど昼休みを告げるチャイムが鳴る。どうやら授業中寝ていたらしい。

2人、あっちは3人ー。

「今日はファミレス行こう」とはしゃいで教室を出て行く彼、彼女らは自分とは「何か」が違うらしい。

やれ、昼食を食べるだけの1時間、自分に言わせれば何故そんな複数人で行く必要なのか理由が分からない。

さっきまで自分は「あんな夢」を見ていたくせに

リア充に心の中で悪態をつく。

高校の友人が大学のクラスメイトとして登場し放課後遊ぶなんて夢。

今の自分には到底考えられない。べつに喧嘩して決別なんてしていない。

昼食時間はあくまで食事をするための大事な休息時間なのである。

よって自分も混み合う学食事情を予測し、移動をしなければならない。

すぐさまノートとペンをバッグにしまい、自分も教室を後にして食堂に向かうと食堂の券売機には列が既に出来ている。

感染症対策で座れる席は限られる。カウンターは埋まって無いだろうかという心配を並びながら考える中、少しづつ埋まっていく席を観察する。

会話は聞こえにくいもののそこは大学内。

講義やサークル、バイトの話題や恋バナ、エトセトラで彼らの話題は尽きないだろう。

あの中に自分が入る事はこの先あるのだろうかー。

「…あのー?」

ーしまった!ついふけっていたのを振り向くと

意外な人物に固まっていた。

「松田さん、ごめんね!前進んで貰っていい?」と派手な顔の男子が男女数人と一緒に並んでいたらしい。遠慮がちに言われ、食券の券売機の列が知らぬ間に進んでいる事に気がつく。

「ごめんなさい!」

すぐ様、前に進むと「ごめんねー」と彼らはまたその中で会話を始めた。

やっぱり、鼻につく。

さっき話しかけた奴、宇都宮 優はぼっちな自分とは違うリア充勢である。

まあ、顔の作りは結構整ってはいるが、視界に入る時は誰かしらと話していて1人のとこを見た事がない。

ー神様は意地悪だ。

「ちょ…睨んでない?」という声と「えー、別にいいじゃん」と宇都宮 優の気遣われる声を逃さず聞いた。

はあ、最悪だ。

全てこの吊り目と感染症とマスクが悪い!

私がクラスの女子達と交わる事は金輪際ないだろう。

食券を買い、入れ違いに空いた窓際のカウンター席でカレーを食べ、全てのリア充達を私は呪う!!!

ー私、松田えいるは大学に入って1人も友達がいないー



ベタといえば実にベタである。

生まれも育ちも九州、人見知りな癖に見栄とこだわりは強く私には東京でのキャンパスライフが憧れだった。

親に無理を言ってバイト生活を約束に合格し、進学したのも束の間、入学式を終えたら学内で感染症が出たらしく休校で講義もリモートで。

休校が明けたかと思えばグループはすでに出来ており、只今5月の後半である。私リモートの方が楽と嫌味かと思われる会話に耳を痛め今更自分が入る勇気も余地も無いと折角憧れた大学生活の憧れが諦めに変わった。

そればかりか1人で行動していると「松田さんってさ、いつも1人じゃん?」

「何かさ、綺麗だけどちょっと怖いよね」とか

「本当。帰る時もすぐ帰るじゃん!マジ謎だよね」と言われるのを聞いた。

いや、バイトだよ。と1人でツッコむ。

講義終了後は即直帰のバイト直行。バイトは親と約束である。有難い親からの現金仕送りも毎月あるが

やはり生活を送る上で足りない資金は補うしかない。といっても今日は週に数回の休み!

だからといって寄り道をする訳では無い。

私だって空いた時間、連絡を取り合う仲の1人や2人

いるのだ。

『わたしと付き合ってくださーーーい!!!』

というメッセージをアプリゲームを開きボヤく。

『付き合ってんじゃんw』

とピロンと来た返信を見て

『そうじゃなくてー』とさっきまでゲームの話をしていたmaimaiさんに打つ。

この『メビウス・ガーディアン』は今年のはじめくらいにリリースされ人気のアドベンチャーアプリゲームだ。ー現代、突如スカイツリーから異次元に飛ばされた主人公は謎の声に語りかけられ目覚めるとそこは教会。様々な建造物とその所有者や関係者とその場所で起こる事件に巻き込まれ謎を解き所有者や関係者と絆が芽生えたかと思えば次の時代に送られて行く。

(建物は実在する教会、アトリエ、城、屋敷、歴史的な建造物など幅広く、建物の所有者や関係者も歴史人物達だ。

キャラデザも最高!背景やストーリーも評判が良く、今後の展開が楽しみなゲームだ。)

『そいえばさ、グッズまた出るって』

『ま?!!』

すぐさま、公式のTwitterを覗くと記事が出ている。

『エルはなんか買うの?』

問いかけに『迷う(/ _ ; )破産する。maimaiさんは?』と返すと『とりあえず、資料集と保温できるタンブラーとあと、スマホケース』

「全部じゃん!」

とこっちとの金銭格差に僻む。

『資料集かな』とだけ返す。私もタンブラー欲しい。

『それなw、じゃあ回してくる( ✌︎'ω')✌︎』と残すとmaimaiさんはゲームに戻っていった。

今日からゲームのキーパーソンのリヒトのバースデーイベントだ。このキャラクターは二面性人格説があるのでガチャ仕様も豪華に2パターンある

限られた石にかけて私もガチャを回す!

こうして私は1パターンリヒトを当てた喜びも束の間、2パターンが当たる事はなかった。



翌日は快晴の土曜で、即ち良いバイト日和になる。

簡単な朝食に家事を済ませ、ストレッチの効いたパンツに着替え大きめのリュックを柄ってスニーカーを履きアプリを開く。「さて、稼ぎますか」

そう、私のバイトは食事の宅配だ。

このバイトを探すのも一苦労だった。

今まで受験でバイトはしていなかったので友達がいれば一緒に楽しく同じ時間帯に入る事も出来たかもしれないが自分は接客経験0だ。

なるべく1人で完結し、できたら接客は少なめな仕事を選ぼう。

リア充に憧れてる割にはそういうとこなのだと自分で自分をツッコむ。いや、自分だってその内友達が出来ればバイトを紹介して貰えばいい。

今は9時過ぎ。朝食の注文だろうか?近くの飲食店に配達希望のマークがつく。

早速、自転車に乗って仕事開始だ。

出だしはスムーズ。店からも客からもクレームは無く前半戦はクリアした。

昼に休憩をファーストフード店でとり後半戦である。

こまめに休憩を挟み、順調に仕事をこなし気づくと16時をまわった。

次で最後にしよう。

好きな時にシフトを組めるのがこの仕事の利点だ。

アプリを開き1番近い飲食店の詳細を見るとうっ…!と迷う。向かうべきか否か。

アプリの詳細にはケーキ屋が表示されている。

恐らくスイーツを配達希望なのだろうがこの仕事で配達するものとしては慎重に運ばなくてはならないのでなるべく避けたいのが本音だ。

なにか別のところとアプリの配達待ち画面は増えない。

仕方ない。重たい腰を上げつつ、件のケーキ屋を目指す事にした。

「はーい。バースデーケーキ2つですね」と渡されたホール箱2つに絶望した。こんなのラスボス戦だ。

一応、配達先はそう遠くはない。保冷剤は多めに入っている。

しかし奇妙なことに配達先は同じ場所である。

いや、なんで2つ注文した!さては双子か?と不思議に勘繰りながらゆっくり、時に止まりながらペダルを漕ぎ、最終的に結局20分かけて豪華なマンションに着いてインターフォンを押す。

すぐ渡してすぐ帰る。そう自分に言い聞かせているとドアが施錠され「はーい」と注文した主が出てくるやいなや私は度肝を抜かれて後退りしたところを踏ん張った。

目の前にどえらい美女である。

長い手足と髪、ふさふさの人形みたいなまつ毛。モノトーンのファッションを纏っている彼女は「大丈夫?」と私を覗きこみ、見つめるので変にドギマギしてしまう。

「お待たせしました。ご注文のケーキ2つお持ちしました。四ノ宮様でお間違いないでしょうか」と決められたセリフをやっと出すと「はい。よかったあ、2つも重かったでしょ?ありがとう」と労った。美女な上、こっちがもてなされる神対応っぷり。女神はいるんだと呆けているとさっきの疑問を思い出して「だれかお二人が誕生日なんですか?」と聞くとピクッと四ノ宮さんが何かに反応した。

しまった!お客様相手にいらぬ詮索をしてしまった。「あ、すみません」なんでもないです。と受取完了の手続きに移ろうとすると「そう!あのねウチの彼氏がマジ白リヒトなの!」と四ノ宮さんは知っているような人物の名前を喋り出す。

「あ、リヒトってゲームのキャラなんだけど…」とちょっとバツの悪そうにしていると同時に、この人が、私の中で女神からどえらい美女な人間になった。「ああ、今イベントやってますよね」と言う。

流行っているとはいえこんなにも近くにお仲間はいるものだ。世界って以外と狭いんだなと感じた。

「嬉しい!知ってるの?」誰推し?とキャイキャイとはしゃぐ四ノ宮さんは本当に楽しそうだ。会話を交わしさっきの彼が白リヒトの話に戻る。

「いや、彼と一緒に住んでるんだけど」

成る程、だから立派なんだと失礼ながら綺麗な外観や玄関に納得である。もうすぐ休日出勤から帰ってくるんじゃないかなーと四ノ宮さんはケーキをキッチンに一旦置く。

「彼、まんま顔とか声とかリヒト激似なの。しかも誕生日もリヒトと一緒だから」それで1つが彼氏さん用、1つが四ノ宮さん推し用でケーキが2つなのか。

「あ、だから好きになったんじゃないよ!」と否定するその人は可愛い。

リヒトという男性キャラはこのゲームの主人公をスカイツリーで呼んで異次元に飛ばし、時に主人公を導くと思えば冷たく観察する場面が見られる。というのもファンの中で考察されている学者で科学者志望の白リヒト、対して魔術師の黒リヒトは東京タワーを拠点とする敵、白リヒトの双子兄説が有力である。

もっとゲームが先に進めば正体が分かるのだろう。

それにしても、彼氏さん用と推し用のバースデーケーキかあ。どっちも自分も買った事はないが羨ましい。たしかケーキは以外と綺麗にキャラの絵がプリントされていてデザインも凝ってたよね。いつか自分も推し用にとSNSでお知らせが来た時にいいなと思っていたのだ。

「でもねー、私見た目キツそうでしょ?」と話題を四ノ宮さんがふった。

いや、美女に見えますがという感想は胸に閉まって続けて四ノ宮さんが話す。

「だから、彼にもオタ活してるの隠してるの」

ーなんと!と私は驚愕した。

世のオタク女子の恐怖。彼氏へのオタクばれ!

四ノ宮さん級の美女を悩ませる男がいるとは!?

いや、相手はリアルリヒトだ。

「でもね、一緒に住んでるのは去年の秋からなんだけど幸せなんだ」と仕事で入って来た後輩の彼氏さんとの馴れ初めを話す四ノ宮さんは見るからに幸せだ。

「素敵ですね」と言うと「ありがとう」と四ノ宮さんは照れた。

「あ、そうだ」「?」

今度こそ、受け取りの手続きに入ろうとしたー。

「どっちが推しのケーキ?」と聞かれると「え?」と困惑した。

え?え?どっちだろう。ケーキ屋に行った時には聞けてない。知らないとまずかったかな?と困惑していると四ノ宮さんも察知したのか困惑している。

「もしかして、何も聞いてない?」

「はい…。」やばい。

「うわ!よかった。ちょっと待ってて出して確認するから」と1つのホールを四ノ宮さんが開けようとしたその時、「ただいまー、杏子さん」今帰ったよーと人懐こい笑顔のイケメンが玄関に入ってきた。まんまリヒトだ。

「あー、リヒトおかえりー」

四ノ宮さんの顔引き攣っている。

「あれ、なんか頼んだの?」とリヒトさんは私に気づき何頼んだの?何頼んだの?と楽しそうに四ノ宮さんにまとわりつく。その姿は正に忠犬、男児にも見え、私は唖然としていると四ノ宮さんは目配せして「ゲームのリヒトとは全然違うでしょ」と無言のシンパシーに「はい」と頷いた。

「ねえ、何買ったの?」リヒトさんはしつこく四ノ宮さんに質問し観念しようとしない。

「いや、ケーキをね注文したの」と四ノ宮さんが報告すると「2つもー?」と中を確かめようとリヒトさんは開封しようとしたホールを空けようと手を伸ばした寸前、四ノ宮さんがぱっと遮ってホールを守る。「サプライズしたいからまだ開けないで」

シン…と一瞬、四ノ宮さんの一言でリヒトさんが静かになった。さっきまでの四ノ宮さんがスイッチが切り替わったみたいな顔をしてすごい迫力だ。美人を怒らせるとおっかない。職場での四ノ宮さんはこんなかんじなのだろうか。だとしたらさっきまでゲームのリヒトが推しと言っていた彼女の事を想像できる人はいないだろう。

しかし「うわー、久しぶり見た、仕事モードの杏子さん!」とリヒトさんははしゃいでいる。え?この状況で凍らないなんてリアルリヒトの心臓は鋼か何かだろうか。と少しひいて見ていると四ノ宮さんが「着替えて来て」しっしとリヒトさんを払う。

ちぇー、とふてくさがれて「分かったー」と部屋の四ノ宮さんの後ろを通るリヒトさんは「あ、そうだ俺もコレ買って来たから」直しといてと縦長の紙袋を受け取ろうと四ノ宮さんが振り返ったその時、がたっ!と音がし四ノ宮さんの足が滑って転びそうなところを前屈みになってもちこたえ阻止したかと思われた。

がー「あ!」片手がケーキホールにあたり四ノ宮さんと棚の上のホールがスライドし壁に挟まった。

「…嘘!」四ノ宮さんが青くなる。「ごめん!俺が急に渡したから」とリヒトさんが四ノ宮さんを起こし謝る。「ーそんな事いいから早く着替えてきて」とキツく言葉を放つ四ノ宮さんは明らかに動揺している。

少し間があった後「うん…」としょげたリヒトさんはすごすご奥の部屋に入っていった。

今のうちに!四ノ宮さんと私はアイコンタクトでホールを開けた。

「よかったあ」

壁に挟まった方は四ノ宮さん用の推しのケーキで前後側面が少しひしゃげてしまったが他は無事だ。

綺麗なイラストにカラフルなフルーツが一箇所に乗っている。

やっぱり、自分の推しのケーキが出たら予約しよう

「少し崩れちゃったけどよかったですね」

「後で写真撮るときは角度調整だね」

と「あと、リヒトが買ってきたのドリンクかな」と紙袋を開ける四ノ宮さんの後ろで「ああ、それ買ってきたヤツこれであってる?」前に杏子さんが飲みたいって言ってたヤツと早く着替え終わったリヒトさんがひょこっと顔を出してきた。覗き込んできた彼の前に今一番見られたくないキャラクターの描かれたケーキを見られてしまった。

「「「え」」」と3人同時に固まって四ノ宮さんの顔が青くなる。ー終わった。

どうしようも無い現場を見られてしまった。

「なに、すげー!これ、俺?名前書いてある、杏子さんありがとー!」…気づかれなかったみたいだ。

どうやらリヒトさんは天然だ。

しかし一安心し四ノ宮さんを見るとさっきから表情が変わらない。

「…違うの、これは私のなの」とまた険しい声が空間に響く。

「杏子さん?ごめん…なんか泣いてる?」

動揺している四ノ宮さんのズッ…と鼻をすする音がする。

「私、オタクなの。ずっと隠してたの。これは好きなキャラの誕生日用のケーキなの」わっと四ノ宮さんがカミングアウトする。リヒトさんはぽかんとして、心配そうに四ノ宮さんを見てる。「…ひいたでしょ?」

「いや…」とリヒトさんが言葉をする前に「もう別れよう」と小さい声で四ノ宮さんが言った。

「何で!」とリヒトさんが聞く。「だから、ひくでしょ。彼女がこんなんじゃ」と言わせないでよと四ノ宮さんが言う。しばらく無言が続く。

修羅場だ。「ごめんね。お会計まだだったね」辛かったのだろうか、四ノ宮さんは私がこの場にいるのは悪いと気遣う。

「ーあのお節介は重々承知で言うんですけど別れるのはもったいないと思います」

と自分で言葉を言い終わってやばい!と思った。

やばい!お節介すぎてクレームになる!だけど修羅場は修羅場だ。これ以上空気が冷たくなるのは苦しい。

指摘されたのか四ノ宮さんとリヒトさんが驚いた顔をしていた。

「私、大学に入って友達1人も出来ないんです」と言うと「うそ?」意外にもリヒトさんがマジ?と疑う。

四ノ宮さんも不憫そうに見ている。視線が痛い。

しかし事実だ。しょうがない。

「だから、2人を見てると運命なんだなって思うんです。…簡単に別れるとか言うのは勿体ないです」柄じゃない。柄じゃないけど本心だ。「でも、簡単じゃないの」と四ノ宮さんは答える。

「リヒトは私じゃ嫌だよー」と言う四ノ宮さんはこの世で1番弱いものに見える。

「杏子さんは俺のこと嫌いじゃないでしょ」と四ノ宮さんの肩にそっとリヒトさんが手を乗せる。

「…」四ノ宮さんはしばらく無言だったが鼻をすすりながら何度も頷く。「俺も好きー」とほっとした笑顔でリヒトさんが四ノ宮さんの頭を撫でる。

四ノ宮さんは色んな感情が高まったのか涙が止まらないらしく「…ティッシュ」と呟いたのでリヒトさんがはいはいとティッシュ箱からティッシュを取る。ひとまず修羅場からリア充現場を見せつけられた感じだろうか…。


「ご迷惑をお掛けしました」

落ち着いて会計を済ませた四ノ宮さんに詫びられると「いいえ!」とつい返してしまう。いや、本音は色々あって一時はどうなる事かと思ったけど。

「あ、ちょっと待っててね」と言うと四ノ宮さんは奥の部屋に入りすぐ戻ると「これ、配達のお礼」と

推しキャラのアクリルキーホルダーを渡された。

やた!嬉しい!…が「すみません!大変嬉しいのですが仕事上頂けないんです」と泣く泣くお返しする。「じゃあ、これは迷惑かけた私からゲーム友達へのお詫びの品って事で。…嬉しかったの。ゲームのチャットくらいしかー、実際に推しの話した事のある人いなかったから」と四ノ宮さんは嬉しそうだ。「…ありがとうございます。大事にします。」

「ありがとう」と返され、そういうやりとりが久々すぎてなんか感動して自分で大袈裟だなとも思ってしまった。


『いや〜、実に濃い1日でしたわ〜』と家に帰った私は今日の出来事をmaimaiさんに報告する。

『リアルリヒトに会いましたよ!どや(о´∀`о)』と送るとmaimaiさんは食いつき『どゆこと?くわしく』と返してきたので『美女とリアルリヒトが付き合ってて、しかもリアルリヒトがキャラと誕生日が同じってマジすごくないですか!』と送ると『マジか。エルも彼氏欲しくなった笑?』と来たので『いや、小生友が1人もおりませんので彼氏なんて』自虐ぎみに返したがまあ、現状気持ち的に真実なので返すと『自分も推しキャラに似た奴に会えんかなー?』とmaimaiさん。『maimaiさん推しキャラ多いでしょ』と送ると『そ れ なw』と返されたのでふふっと声を出して笑った。でもー、なんか彼氏は夢のまた夢で四ノ宮さんとリヒトさんは私にとって憧れで仲直りできてよかった。四ノ宮さんともっと話したかった。ーあんな風にリアルにー。その気持ちに感化された自分は意を決してメビウス・ガーディアンの公式ショップで出費をした。

そして、遅刻もしそうになった登校日。

ギリギリだったので前の机しかないので急いで席に着く。

急いで公式ショップから届いたリュックを開け文房具を取り出そうとすると机に目にした事がある新しく発売されたメビウス・ガーディアンのスマホケースあった。まさか隣の人もお仲間でー!そろっと誰かと確認しようとしたら隣から視線を感じ後悔した。

「松田さん、それ好きなの?」と興奮して、小声で宇都宮 優が聞いてくる。

何でお前なんだよ!と心で文句を言ったが話しかけてもらったものの返事は返さねばならない。

「うん。宇都宮くんも?」それとなく相手に会話をふる。「ああ、俺リリースした時から始めてハマったんだけど」へえ。「普段ああいうジャンルしないんだけどストーリーや背景凝ってていいよね」分かる奴だ。と一応何様だ自分と思うが評価に合格点をやる。「あ、俺の推しコイツとコイツとコイツー」とゲームの公式ページを見せて嬉しそうに話す。へえと一応、折角見せてくれたんだしと画面を見ると誰かと同じような推しの組み合わせを感じた。いや、まさかだー。「私のフレンド登録してる人もその組み合わせ好きな人いるよ」と言うと「マジで!」と急に声がデカくなったのか教室内の視線が全員こっちに向かった。

「やば」と気づいた宇都宮 優がぺこっとしたので私も一応頭を下げる。側からあの2人喋ってるなんてレアじゃない?みたいな声が聞こえて自分でもそう思うと思った。ーと後ろから「松田さーん…」小さく声がかけられて何事かと思うと「私もそれ好きだよ」ひそっと後ろの女の子が自分と同じ推しのぬい(ぬいぐるみ)を見せてくれた。「!」ーまさか

お仲間が構内にこんなに、そして自分に声をかけてくれる人がいるとは!と感激し「すっごくかわいいですね!」と小声だけど興奮しすぎてしまったのか相手がびっくりした表情だったのでやばい!ひかれたと思ったが「だよね〜♪」とニコッと返される。

「なんか、松田さん俺の時と反応違くない」ぶ〜っと宇都宮 優が返す。「いや、宇都宮くんがウザ絡みするからっしょ」とさっきの女の子が会話に入ってくれる。宇都宮 優が「今度ゲーム展あるみたいだよ」と公式SNSの最新情報を私と女の子に見せる。

「行く人〜?」と楽しそうに話す宇都宮 優の問いかけに女の子は大きく、私は小さく挙手した。



『でね、早苗が今日来てくれたから私セレクトで服買わせました〜!』と彩の服売ってやったぜ!の報告電話を聞く。「はいはい、よかったねー(棒)」

とあえてイジると『生意気な〜。そんなんだと4年間終わる前にもう地元帰る〜とか泣きついても知らんぞ」と小言を言われた。「言わないよ」と言うとへえ…といつもと違う返事をしたのか呆気に返された。「友達できたかも」とボソッっと報告すると『マジで、どんな子!?』と早く話せとグイグイ来たので「彩と早苗みたいな子。あ、彩は男ね」と言うと『意味分からん。くわしくー』としつこい。「いい例えと思ったんだけどな〜」けらけら笑うと『写真送って!早苗と見てやる』と言われたのでまた「はいはーい(棒)切るよ〜」と言うと「送れ!送らなかったら次帰ってきたら服買わす!」と脅しやがった。「だからできたかもだから」無理だってー。「10着くらい買わせてやる!」とひかない。「分かったー」と、なだめて「よろしい」と機嫌を直させ「多分ねー」と言って切ってしまう。彩には悪いが2人は写真を快く撮ってくれるのだろうか。というか一緒に行くとは言ってない。まずい。彩に余計な事を言ってしまって墓穴を掘っただろうか。

明日、2人に話しかけるならやはり昼休み?そんな事自分ができるのだろうか。第一に私の憩いの時間が減るかもしれない。しかし、2人と話す昼休みはどうだろう。多分楽しい事には間違いない。


本当にどうしたのだろう。考えても分からない。分からないけど気分はなんだか良好だ。

よし。明日は晴れだ。バイト入れようかな。遅刻できないからもう寝よう。


布団に入った私はスマホのアラームをセットをし、布に包まって明日を待つことにした。 

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自称「孤高」の松田えいるは友達がいない! 麻麻 @monokaki135

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