ルナ姉の回答
頭を冷やしてくる。
そう言ってどこかへ行ったルナ姉が笑顔で帰ってくるとは思っていなかったので困惑具合は相当のものだった。
特に気にしていない様子のミィは「ルナお姉ちゃん〜」と床を跳ねてロケットの如くルナ姉にぶつかってゴロゴロと転がっている。
あれは痛いよなぁと明後日の方向に思考を飛ばしていると立ち上がったルナ姉はミィを地面に転がしてからこちらに近づていくる。
「あの暴走娘の手綱を握ってなさいよ」
「えっと、ごめんなさい」
情報が多すぎてパンクしかけた脳では謝ることしか思いつかなかった。
一先ず頭を下げると、ルナ姉が私たちの作業を見回していた。
「出かける準備はできてるみたいね」
「うん。隣村に行けばしばらくは無事に過ごせるだろうし、食糧を渡して住まわせてもらおうかなって。どうかな?」
「何言ってるの?」
呆れたように肩をすくめる。
座り込む私に視線を合わせるルナ姉。整った顔立ちに心臓が跳ね、翠色の瞳は私の心を見透かしているようにジッと瞳を見つめる。
「あなたは、なんで、寝言を、言っているの?」
胸元に指を置き、区切りながら言葉を紡ぐ。
寝言のつもりはない。本気で提案している。なのに、ルナ姉は怒りを取り下げる様子はなく。ジッと私の事を見つめた。
「あなたは、自分がどういう立場に居るのか自覚してるの?」
「それは、分かるけどーー」
「分かってたら。そんなことは言わないでしょ」
視線を逸らす。
分かっている。分かっているけど、他に助かる道はないのだ。それもルナ姉は理解しているはずだ。私よりも知識量が多く。頭の回転も早い。
ここに留まる選択肢はないことはさっきの出かける準備の話で分かるけど、そこからどうするのか不透明だ。
一体どんなことを思いついたのだろうか?
「
「!?」
一言。それだけでやろうとしていることに検討がついたのは、頭の隅にその可能性があったからだ。
だけど、過酷すぎる上に意味を成さない可能性があるために除外していた選択肢。
「まさか、行こう。って言うの?」
「その通りよ。わたしたち三人なら、行くことは可能でしょ?」
「それは、そのーー」
「行けるわよ。と言うより、それしか道はないわ。あの機械兵に復讐し、それを操っていた元凶を叩いてその
「
それが、どれだけ無謀であるか。計算のうちに入っていないのかもしれない。
だけど、あそこ以外に私たちを受け入れる可能性が低いのもまた事実だった。
「あなただって知っているでしょ? 獣人と森人がどれだけ唯人を恨んでいるかぐらい」
「それは、分かってるけど······でも、ミィだっているんだよ!」
「ミィはわたしたちの中で一番強いのよ。精神がそれに追いついてないだけ」
言い返せない。
事実しか言ってないからこそ反論しようがないのだ。
討論の時は正論が一番効く。正しい論理を崩すのは容易ではないからだ。
共通認識から事実だけを抽出し、現実を突きつける。それが正しいと分かっているから、私はーー
「覚えてるでしょ? あなたは魔女様について多くを見てきた。そこでの拒絶された記憶は、まだ残っているでしょう?」
唇を噛み締めて下を向く。
ルナ姉に勝てる道筋が見えない。
目の前が、真っ黒だった。
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