選ぶべき道

真っ黒な未来。

平穏な生活を望むのは不可能だと暗に言われて胸が苦しくなる。


なぜ、今までと同じような生活を願っていけないのか。そう口に出そうとして顔を上げる。だが、ルナ姉の真剣な眼差しを見ているとそれすらも考えた上での回答であることをまざまざと突きつけられる。


私たちはこの世界には早すぎた。


そう思ってしまうほどに、私たちーーいや、唯人という存在は嫌われている。

ハーフである二人も当たりは強くこの村以外では拒絶される可能性は高い。

だけど、と思ってしまう私は若いのだろう。魔女様の威光がある場所であれば、そう想像する私の脳裏に浮かぶ侮蔑と憎しみの宿った瞳。

罵られた言葉に身を竦ませた記憶は心にこびりついていた。信じたいと願うことは罪ではないのだろうけれど、今の世界では許されないことだ。


はぁはぁと荒い息が口から漏れていた。瞳から零れる涙を細い指が拭う。


「わたしは、三人一緒に居たいと思ってるだけなの。魔女様がわたしたちを残したのには訳があるはず。それが、三人ならば生きていく場所を見つけられる。だと考えてるわ」

「それ、は」

「魔女様なら、わたしたちを運んで新天地に向かうことだって可能よ。でも、それをしなかったのは魔女様の知識の中でわたしたちが安全に暮らせる場所がなかったからだと思うの」


確信を持って紡がれる言葉に納得してしまう。


この世界に居場所がないのは三人とも同じだ。だけど、足でまといになるから連れて行けない。

置いていくと言う判断を前向きに捉えているのだ。


「今のわたしたちが安全に暮らす道はない。家の中でも外でも魔物に襲われる可能性があるもの。一箇所に留まっていたらその可能性は高くなっていく。だから旅をする。でも、目的もなく旅をしていたら気力なんて持つわけないわ。そこから先は、言わなくても分かるわよね?」


復讐は口実だ。それを目的とすれば多少の無理難題も乗り越えられると考えてのこと。真の目的は旅をすることなのだろう。気力を尽きさせずに旅をするには目的が必要になるから。明確なゴールがあれば体を動かせる。


納得してしまえば、断る理由がなくなる。


天井を見上げ、呆然としたまま思考を動かした。私の考えていた道は完全に失われている。ルナ姉の出した答えに反論することができない。

小さなため息。


「それで、その建前で私たちを巻き込んで旅する本当の目的は?」

「あら。安全な生活を探すためって建前に聞こえたかしら?」


可笑しそうにふふふと笑うルナ姉の楽しそうな笑顔を見てるだけでなんとなく通じてしまった。でも、耳を立てているであろうミィに伝わっているわけではないと思うので、口に出してもらいたいのだ。


笑うルナ姉に頷いて先を促した。


「ふふ。そんな大層な目的なんてないわよ。ただ、世界を見るいい機会だと思ったのよ。魔女様には村を出る許可をもらおうとしてたところだしね」

「連れて行かなかったから許しをもらえたってことですかね?」

「わたしはそう判断したわ。だから怒りを別のところで発散させてスッキリさせたのよ」


どこに捨てたのかは聞かないでおこう。ちょっと闇が深そうだし。


「ねぇねぇねぇねぇ!!」


文字通りに飛んできたミィが部屋を駆け回る。

楽しそうな姿にカウンターでノックダウンさせて動きを止める。


「今からみんなで旅に出るの?」

「そうよ。死と隣り合わせの旅だけど。覚悟はあるかしら?」

「お姉ちゃんたちがいるならミィはなんでもいいよ!」


手を使わずに跳ね上がると尻尾をブンブンと振って気合いを入れる。

この子の真っ直ぐな姿を見てると深く考えるのがバカバカしく思えてくる。


「負けました。ルナ姉に賛同します」

「それでいいのよ」


諸手を挙げて喜ぶミィの歓声が部屋を包む。

暗い気持ちが吹き飛んだ気がした。

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