未来へ
落ち着いたミィと一緒に村を回る。
燃え盛っていた倉庫も魔女様が鎮火させたのだろう。火の手はなくなっている。だが、中身は既に炭化してるものが多く。食べられるのはほとんどなかった。いくつかの食べられそうなものをかき集めるけれど、数日食い繋げばなくなる量しかなく。ここで暮らしていくのは心許ない。
「これから、どうするの?」
「分からない」
ミィの鼻に従ってものを動かす。
今は体を動かして余計なことを考えないようにしないとダメな方向にばかり思考がいってしまう。
村を探索し、死体と食糧を集めていく。死体は十を超えた時点で数えるのを止めた。バラバラになっているのは当たり前。原型を留めている人を探すのが困難になり、踏み荒らされて潰れているものも多かった。
姿を見る度に、元気だった頃を思い出して涙が零れた。思い出が溢れて止まらなかった。大切だった隣人が、もう居ないのだと知ると胸が刺されたように痛みだす。
村中を探し、ようやく終わった頃には朝になっていた。満月のお陰で確保できていた視界だったが、陽の光に照らされるとまた違った世界を私に見せてくる。
絶望であることには、変わりないけれど······
「全員集めたの?」
「魔女様。もう、安全なのですか?」
「ええ。機械兵は帰って行ったわ。移動要塞都市の一つである迦楼羅(かるら)にね」
「迦楼羅(かるら)。懐かしい名前です」
語源は知らない。古くから付けられている名前で詳しいことは残されていないから。だけど、守護する名前であると聞いたことはある。
世界の理不尽から守るための都市と言えば聞こえはいいが、私としてはその裏側にある醜さから嫌悪感しかない。
やはり、あの都市から来たのかと思う。こんな遠くまでよく来たな。とも思うけれど、色々と切羽詰まっているのだろう。
「ワタシはそこに殴り込みに行くわ。とはいえ、救出だけで潰すつもりはないけど」
「そう。ですか」
「ねぇねぇ。か、るら? ってなあに?」
「私が住んでいた場所だよ」
ミィの頭を撫でる。
故郷。と言えばいいはずなのに、いい思い出が全くない。それだけ、ここでの暮らしが楽しかったのだ。
「さて、別れは済ませたかしら?」
「私は。はい」
「ミィも」
ルナ姉もどこかで見ているはずだ。帰ってきたら何人か増えていたので運ぶ手伝いはしてくれていたのだろう。ただ、私たちに合わせる顔が今はないのだと推測できる。
「じゃあ、燃やすわね」
パチリと指を鳴らすと死体が燃えていく。
他に燃え移ることはなく。死体だけが溶けていく。私たちに熱が届くことさえない。
「みんな。未来へ行くの。素敵な未来が来ることを切に願い。また、出会えることを祈るわ」
不老不死の魔女様ならいつか会うこともあるだろう。姿の違うみんなとどんな形で会うのかは分からないけれど、幸せな未来であることを願うしかない。
「必要な知識はすでにあるでしょう。後は、それぞれに生きていきなさい。この村は、ここで終わりよ」
炎が消える。
それと同時に魔女様も姿を消した。みんな救いに行くのだろう。だけど、帰ってくる場所はここではない。
この場所は、もう終わってしまったのだからーー
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